
「世界を動かす、なくてはならない会社」を目指す精密部品メーカーのミネベアミツミ。
売上高の過去最高を12期連続で更新した同社の「サステナブルグロース(持続的な成長)」は、グローバルニッチトップ戦略と人的資本のグローバル育成戦略が連動する「違いを生かす相合」から生まれている。
ミネベアミツミ 事業執行役 人事総務部門 副部門長 加藤 素樹 氏
3本柱の成長軸でグローバルニッチトップに
祖業であるベアリングに、モーター、センサー、半導体、無線通信など「8本の槍」をコア事業に定め、世界市場をオンリーワン&シェアナンバーワン製品群で席巻するミネベアミツミ※1。東京都港区の汐留エリアに構えた自社ビル・東京クロステックガーデンは、遠望する羽田空港や東京湾の彼方に28カ国、133生産・研究開発拠点と100営業拠点、海外比率86.2%の従業員(全て2025年12月現在)とつながるグローバル拠点だ。
売上高は直近4年間で1.5倍増の約1兆5000億円。長期目標(2029年3月期)として売上高2兆5000億円、営業利益2500億円の成長像を描き出すのには、確かな理由がある。ミニチュア・小径ボールベアリング、OA・車載向け小型モーターなど、多彩な世界シェアナンバーワン製品比率は5割に到達。不可欠で、代えの利かない「グローバルニッチトップ戦略」で成功している。
「サステナブルグロースの可能性を高める成長戦略の軸は、オーガニック(自然的)成長、M&A、社会的課題解決製品・部品の開発供給の3つです。グローバルに多様なニーズに応える『なくてはならない会社』であり続けることが大きな強みで、成長の原動力になっています」
そう語るのは、同社の人的資本戦略を担う事業執行役人事総務部門副部門長の加藤素樹氏である。オーガニック成長は、経営層が自ら工場に足を運び、生産性を高めるオペレーションを指導する現場力で、M&Aの買収企業を赤字から利益貢献へと再建。M&Aは、部品メーカーに多い「選択と集中」戦略ではなく、コア事業「8本槍」を基軸にシナジーを発揮し、多面的に新たな価値を創出している。事業分散はリスクマネジメントにもつながる。そして、社会課題の解決は、エッジの利いた部品供給で最終製品メーカーの高付加価値化を支援。ヒューマノイドロボットやドローン、自動運転など、より良く豊かな未来づくりに貢献している。
テレビCMのキャッチコピー「世界を こっそりごっそり 変えていく。」をリアルに体現する企業姿勢の基盤にあるのが、「相合(SOGO)」という独自の考え方だ。これは、グループの全リソースを「相い合わせる(掛け合わせる)」という意味の造語である。超精密加工技術や大量生産技術をはじめとする「10のコア技術」と、明確な競争優位性を持つ「8本槍」のコア事業。これらを相合して生まれるシナジーにより、未来の社会課題解決に役立つ新たな価値を創出することを目指している。
相合は「INTEGRATION(統合)」と英訳され、海外を含めたグループ内の共通語として深く浸透している。相合をいかにグローバル規模で実現できるかが、同社の成長確度を左右する鍵を握っている。
「代表取締役会長CEOの貝沼由久が考案した言葉です。目の前にある自分の事業の業績や採算性を高め、人材を強くするだけでなく、他事業とのシナジーで、違いある新たな価値づくりにも挑戦するスタイルへ。道半ばですが、成果事例は生まれています。もっと相合できるし、成長していけると考えています」(加藤氏)
相合による連動性は、異事業同士や国内外の横軸はもちろん、経営層と社員、経営の思想と現場の行動がつながる縦軸にも当てはまる成長スキームとなっている。
※1 ミネベアミツミ調べ
人材開発マネジメントを抜本的に変革
ミネベアミツミのグローバル戦略は、自社の強みを最大限に発揮し、いかに利益を創出するかを追求した際の「必然の選択」であった。大量の製品を高品質で安価に供給する生産体制の構築、営業販売エリアの拡大、M&Aによるネットワークの充実など、国内と海外の拠点、日本人と外国人の社員がグローバルなフィールドで連動することが、飛躍的な成長につながった。
「貝沼の強いリーダーシップで成長を遂げる一方で、人材育成は各現場主導のOJTによる育成スタイルが中心でした。また、多様な価値観を持つ若手はトップダウンのみのマネジメントに違和感を覚える世代ですし、グローバルの現地人材は優秀で、役員や要職の外国人比率も高まっています。ロボットなど当社部品の供給分野が脚光を浴び、飛躍を遂げていく波に乗って、強さを維持しながら次世代へスムーズにバトンタッチしていくために、人材開発領域の抜本的なマネジメント変革を進めています。日本人中心の階層別研修に加えて、グローバルなコア人材育成を2024年から始動し、ボトムアップの要素も盛り込んでいます」(加藤氏)
人材の変革推進を担う加藤氏は、人材戦略において、①計画的なグローバルな人材リソース管理、②自律的人材の育成と最適活用による組織力強化、③戦略実現のための企業文化、④社員エンゲージメント向上の4つの重点課題を挙げる。(【図表】)
【図表】経営戦略と連動した人材戦略
出所:ミネベアミツミ提供資料よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
2025年10月には人事制度を改定し、国籍や性別を問わず、成果に応じた適切な等級・評価・報酬を設計した。また、挑戦・成長の機会をつくる人材マネジメント方針も策定し、目指す人材像を「自発的に行動して成果を創出する人材集団」と定義している。これは、指示待ちの「トップダウン・フォロワー」から、ボトムアップで提案できる「セルフドリブン(自走)集団」への変革であり、同社の相合活動を加速させるドライバーである。
この成長を実現するため、国内外のプロフェッショナルなコア人材やリーダー候補をプールし、意識変革と行動変容を促す3つの選抜型研修プログラム「NLP」「FLP」「HLP」※2を開始した。中でもNLPは、グローバルリーダーとしての能力を開発するオンライン研修を盛り込んでいる。
「欧米のホットトピックや日本語に未翻訳の文献・情報を、ダイレクトに現地の有識者からキャッチします。そういうアンテナを持ち続けることがリーダーとして大事だと体感してもらうのが狙いです。
また、海外拠点・現地法人で採用した将来有望な人材を日本で教育する海外社員研修制度も実施しています。1年かけて国内の全工場を回り、徹底的にオペレーションの現場を学び、現地に帰って日本の考え方を伝え、行動で示してもらいますし、受講生仲間のネットワークも生まれています」(加藤氏)
700名を超える日本人の海外駐在員の業務をサポートするプログラムもある。海外工場の次世代マネジャー対象の「サムライ・プロジェクト」だ。歴代の優秀マネジャーが講師を務め、貝沼氏直伝のグローバル感覚や現場マネジメントを継承し、磨きをかける。
※2 NLP(Next Leaders Program)は本部長や地域総支配人、FLP(Future Leaders Program)は事業部長やグループ執行役員、HLP(HIPO Leaders Program)は若手リーダーの候補人材を対象とした研修プログラム
チームビルディングでエンゲージメント向上
人材集団のトランスフォーメーションは現在進行形だが、加藤氏は確かな手応えをつかんでいる。
「対話型マネジメント研修を部長・次長・課長職に実施し、好評です。立場や世代が違っても、対話を通じて力を引き出すコミュニケーション力の育成は、想定を上回る効果がありました。社長・副社長によるタウンホールミーティングも定期的に開催し、社員の7割が満足・共感しています。『持続可能なエンゲージメント』スコアも2年連続で向上し、部署を問わず全社的に底上げしているのは、変化が生まれている証しです」(加藤氏)
対話型マネジメント研修とタウンホールミーティングを国内からキックオフし、グローバル展開としてはチームビルディング活動を推進している。これは、普段接点の少ない部門や工場の社員同士が協業チームを結成し、経営理念の実現と定量的な成果の創出に挑む、まさに相合を具現化するボトムアップ活動だ。
2025年度には18カ国から427チームが参加し、その成果を競う世界大会が、同社の東京本部である東京クロステックガーデンで開催された。
「米国やメキシコなどの地域大会にも行きましたが、とても盛り上がっていました。ブラジルではホテルを会場に、カクテルライトが光り輝き、大音量の音楽が流れるパーティーさながらの楽しい雰囲気でした。日本よりもずっと派手ですが、違いがあるからこそ現地オペレーションに浸透し、受け入れられていると実感できました」(加藤氏)
海外でも相合を体現することが、原動力となる人材を活性化し、成長を加速させ、エンゲージメントの向上につながる。「実はそのシーンにこそ、グローバルな人材育成が進展する秘訣がある」と加藤氏は続ける。
「これは経営戦略を実現するための重要施策であり、エンゲージメントを高め、事業部を強くする起爆剤になる。そう位置付けて、単なる人事施策ではなく、DE&I(多様性・公平性・包摂性)推進などの要素と連動させることが重要です。さらに、その取り組みの効果を実感させることで、現場の理解を深め、周囲を巻き込んでいくことを強く意識しています」(加藤氏)
「違い」と「情熱」が成長ドライバーに
「Passion to create value through difference」。国内外を問わず全工場の作業服に刻まれたこのコーポレートスローガンは、常識を超えた「違い」にこだわる価値創造と、実現する「情熱」を示す合言葉だ。
「違いには、『他の人がやらないことをする』『M&Aの新しい仲間は歴史も文化も考え方も違って当然で、まずはその良いところを生かす』という2つの意味があります」(加藤氏)
PMI(経営統合プロセス)も、画一的な施策(人事制度の共通化など)ではなく、現場が力を発揮しやすい姿を優先する。成長の原動力になり、求める人材像の価値観にも示す「現場力」の重視は、違いを生かす相合を追求するミネベアミツミらしさを物語る。加藤氏が「私のライフワークとして、グローバルに広めていきたい」と語るのが、「Myパッション・ステートメント」である。「何に情熱を注ぐか」を言語化し、経営理念とどう重なるかを上司と対話する。
「誰かに指示されるよりも、自分から湧き出る情熱の源に突き動かされる方が、力強く、しかも長い間走り続けることができます。そして、人の数だけ千差万別で違いがあるから良いのです」(加藤氏)
一人一人の違いと情熱が、戦略・ビジョンを実現するブレない成長ドライバーとなっていく。
ミネベアミツミ(株)
- 所在地 : 長野県北佐久郡御代田町大字御代田4106-73
- 設立 : 1951年
- 代表者 : 代表取締役 会長 CEO 貝沼 由久
- 売上高 : 1兆5227億300万円(連結、2025年3月期)
- 従業員数 : 8万3256名(連結、2025年3月)