DXフォーラム2024(キタムラ、リコージャパン、リーディング・ソリューションのデジタルトランスフォーメーション)
タナベコンサルティングは2024年1月18日、「DXフォーラム2024」を開催。「戦略的デジタル実装で、DX(デジタルトランスフォーメーション)を自社に落とし込む」をテーマに、事業ポートフォリオの再編と組織構造改革、それに伴う人事制度の統合や運用を重点テーマに、DXを企業価値を高める手段として活用している3社の取り組みと、タナベコンサルティングによる講演をリアルタイムで配信した。
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。
キタムラ:デジタル経営で業績UP~DX人材の育成から活躍まで~
株式会社キタムラ・ホールディングス 上席執行役員 CDO
株式会社キタムラ 取締役 常務執行役員
株式会社しまうまプリント 取締役
株式会社ラボネットワーク 取締役
柳沢 啓 氏
1997年新卒として入社後、店舗運営やバイヤーを経験。Eコマース事業に着手後は、オムニチャネル戦略によりキタムラのネット事業を急拡大させた立役者。現在は、挑戦を続けるキタムラの一翼を担う、デジタル推進本部長を務めている。
DXを進める重要な視点とは?
当社が高知県で「キタムラ写真機店」として創業したのは1934年。当時から街の「カメラ屋」はさまざまな進化を遂げてきた。ビックカメラやヨドバシカメラが家電量販店として進化したのに対し、当社は「カメラ専業店」として全国展開する道を歩んできた。その後、カメラ・写真を取り巻く環境は大きく変化し、フィルムカメラが長く市場を独占していたが、2000年代に入るとデジタルカメラが登場。2010年代にはスマートフォンでの撮影が圧倒的に増加した。
そうした変化の中、当社は2007年にECサイトを開設し、その後、DXに力を注いできた。DX推進に当たっては、推進力となる人材育成と戦略が重要になる。
まず当社がDXを進める上で重視したのが、「攻めと守り」を明確にすること。「守り」では、「効率性と品質の重視」「顧客満足度とロイヤルティーを高める」「経験と知識の活用」の3点を実践する。つまり、既存の製品・サービスをより安く、より良く提供する工夫をはじめ、顧客のニーズに応え続け、信頼関係をさらに深めること、さらに自社の強みや長年培ってきた経験、知識を生かして解決策を見つけることをポイントとした。
一方の「攻め」では、「実験的で学習的な姿勢を持つ」「多様性・自律性を尊重する」「内外部から情報・知識を収集する」ことを重視。特に、失敗を恐れずにアイデアを試して改善することが大切で、そのためには異なるバックグラウンドや視点を持つ人々が自由に発想・提案できる環境をつくることが重要である。
「攻めと守り」の明確化と併せて、重要な視点として挙げたいのが「知を深めるサイクル」である。顧客・従業員・事業を知る「知識化」、フレームワークにする、関係性を創造する、在るべき姿を定義するといった「構造化」、素早く市場に出す、何を得て何を捨てるのかを決める、連続性を意識するなどの「試作化」、完全ではなく7割を目指す、完成はない、顧客が答えを出す「本番化」というサイクルをPDCAで回して、DXを推進していくことを定めた。
DX人材の育て方
こうした環境を創出するためには「DX人材」が不可欠になる。当社の場合、初めからDX人材が在籍していたわけではない。なお、DX人材とはデジタル技術や知識、リテラシーに精通した人材ではなく、デジタルを活用してビジネスや業務の在り方を変えられる人材を指す。
では、どのように「DX人材」を育ててきたのかというと、2通りの方法で実践してきた。1つ目は、もともとデジタルの知識を持った人たちを社外から採用し、当社のビジネスやサービスの在り方について理解してもらう、「D(デジタル)→A(アナログ)→DX(デジタルトランスフォーメーション)」というアプローチである。そして2つ目は、店舗接客などを経験してきた従業員にデジタル知識を身に付けてもらう「A→D→DX」というアプローチである。
その際、2つの「壁」が立ちはだかる。まず、「D→A→DX」では「合理と情理の壁」がある。デジタルの合理性だけでなく、当社で脈々と継続してきた店舗ビジネスを把握し、その立場を理解し、「情理」という側面を大切にしないと社内に軋轢(あつれき)が起きやすく、結果としてデジタル化が進まないという事態に陥る。
一方の「A→D→DX」では、「データの壁」がある。これまで店舗スタッフも売り上げなどのデータを扱ってきたとはいえ、不慣れなため徹底したデータ活用できる知識や発想に乏しい。そこで、データからさまざまな付加価値を創出するという発想を身に付けることが不可欠になる。この2つの壁を乗り越えることで、真の「DX人材」が生まれる。
当社のDXの取り組みのきっかけになった2007年のECサイト開設時は、店舗スタッフ7,000名に対し、デジタル担当はわずか5名だった。その後、ECサイトと店舗を連携させたオムニチャネルを構築するため、店舗にタブレット端末を導入するなどの施策を順次行うことで人員を拡大。随時、社内公募した結果、現在では120名のデジタル担当スタッフが在籍している。
また、自社ECサイトを立ち上げ本格参入した2007年の売り上げに対するEC関与率は11%だったが、店舗にタブレット端末を導入した2012年には37%、そして新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年が55%、2022年には60%まで増加。今や当社にとってECは事業を支える大きな柱になっている。
オムニチャネル戦略のポイントは、リアル店舗とECの優位点を融合させること。ECサイトにより来店する顧客が増え、単価がアップすると、店舗スタッフも協力してくれるようになり、相乗効果が見込める。品ぞろえ、価格、コミュニケーションなど、それぞれの良さを生かし、補い合うことができたことが、当社EC事業成長の要因である。まずは1人からでもAtoDへの挑戦を始め、仲間を増やしながらデジタル人材を増やし、DXの流れを伝播させていくことがポイントとなる。
AtoDへの挑戦事例~デジタル活用で業績を向上~
次に、当社の具体的なデジタル活用について触れたい。当社が事業展開する写真スタジオの「スタジオマリオ」では、衣装のマスター管理などにデジタルを活用している。スタジオマリオでは、以前からスタイリング撮影が増えることで単価が上がることを把握していた。さまざまな衣装を着て複数の撮影をすることで、単価が上がるというわけだ。ところが、衣装のマスター管理がされておらず、顧客が欲しい衣装が店舗にあるのかが分からない状態だった。
そのため、「どの店にどの衣装があるのか」「どの衣装がどのくらい利用されているのか」を把握することを目指した。全ての衣装に手作業でタグを付けて管理する方法も考えたが、それでは店舗の業務が増えてしまう。そこで考えたのが、撮影したデータを基にマスター管理するという方法。店舗で撮影したデータを転送し、AIが自動でタグ付けを行い、それを集計することで、どの店舗にどんな衣装があり、どの時期にどの衣装が利用されているのか、自動で管理することが可能になった。
撮影データを1年間収集することで、どの店舗でどの衣装が、どの時期に利用されているのを把握でき、人気の衣装と在庫の充足率の可視化に成功。人気衣装と在庫保有数の比較ができるようになったので、店舗ごとにどの衣装を仕入れればいいのかが把握でき、衣装の補充発注額が3分の2に減少した。
同様に、カメラのキタムラでもAIを駆使し、他事業へDXの流れを伝播させていった。カメラ市場では、新品カメラの売り上げが下がる中、中古カメラ市場は拡大している。しかし一方で、中古カメラを査定できるプロフェッショナルの数は限られている。当社でも店舗スタッフが6,000名弱いる中、わずか50名しかいない。そのため、買い取りをしたくても700店舗全店での買取ができないというジレンマに陥っていた。
「機種が分からない」「査定結果がばらつく」という課題の解決策として、査定の経験がないスタッフでも的確な査定ができるようAIを導入した。査定判定となるカメラの撮影データを各店舗で撮影し、それを集めて精度の高い教師データを生成。加えて、当社で築いてきた査定ノウハウのデータも組み込んで、正確に査定できる仕組みを構築した。
このAI査定の導入で、査定経験にない店舗スタッフも臆することなく買い取りができるようになり、全国の店舗で「買取キャンペーン」を実施するCMを打って買取数が大幅にアップ。しかも査定にかかる時間が短縮されて業務効率が飛躍的に向上した。
現在着手しているのが、AIによる自動査定の仕組みやノウハウの横展開である。その手始めが中古時計の買い取りだ。中古カメラと同様、中古の高級時計もリユースが活発な市場で売買のニーズは高いが、こちらも目利きのできる人材が少ない。
そこでAIによる自動査定を導入し、すでに成果を上げている。リユース事業が拡大していることを考えると、いち早くDXに取り組んだことが、大きな成果となって売上拡大に貢献している。