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研究リポート
SDGs・ESG経営研究会
2030年までの成長戦略は、環境・社会・経済のサステナビリティへの挑戦です。SDGs・ESGを通してサステナブルなビジネスモデルの再構築について学びます。
研究リポート 2024.05.13

笑顔あふれ選ばれ続ける会社へ ~豊かな自然環境と社会環境を次世代に繋ぐため~:喜多機械産業

【第4回の趣旨】
2030年に向けた戦略構築においてサステナブルというキーワードが非常に重要になる。SDGs・ESG経営研究会では、「未来の社会課題を解決するための新たな事業を創造する」というテーマのもと、ビジネスとしてSDGsに取り組んでいる先進的な企業を紹介する。
第4回2日目は、「1人の100歩より100人の1歩」を目指し、社員一人一人に真摯に向き合い、働きやすさと働きがいの向上に向けてユニークな施策を多数導入する喜多機械産業を訪問した。

開催日時:2024年3月27日(徳島開催)

 

 

喜多機械産業株式会社 代表取締役社長 喜多 真一 氏

 

喜多機械産業株式会社
代表取締役社長 喜多 真一 氏

 

 

はじめに

 

喜多機械産業株式会社は、1926年に創業し、徳島市に拠点を置く社員数253名(2023年8月現在)の企業だ。事業内容は多岐に渡り、建設機械・資材のレンタル・販売・修理を軸に、再エネ・住宅設備、水処理、IoT・ICT、ハウス、スポーツ、林業・農業、防災など非常に幅広い領域を担っている。

 

また、「健康経営優良法人ブライト500」「プラチナくるみん」「ユースエール」などの各種認定を受けており、事業拡大と働きやすい職場環境づくりを両立させてきた企業と言える。

 

「笑顔あふれ選ばれ続ける会社」を目指す同社では、事業は本質的な社会課題解決のための手段と捉えている。徳島を起点とした地域社会・地球環境の未来を支えるため挑戦を続ける志と実行策について、代表取締役社長の喜多真一氏に講演いただいた。

 

 

喜多機械産業本社(徳島市)
喜多機械産業本社(徳島市)

 


 

まなびのポイント 1:「喜ばれる仕事」を起点とした経営へ

 

喜多社長には、自身の仕事観が変わったと語る印象深い仕事がある。JICA事業として取り組んだ「フィリピン電化事業」だ。フィリピンの無電化エリアで滝を利用した水力発電を設置するというもので、国からの補助金は出るが、儲けは出ない。現地作業メンバーはヘルメットや長靴などを所持していないため、安全環境の整備や指導を行いながら、山を切り開くところからスタートした。

 

そんな中、喜多社長に変化をもたらしたのは、現地の方々との交流であった。訪れる度に温かく歓迎され、相互の伝統文化を共有するなどつながりが深まるとともに、「事業を成功させるだけでなく、村の人たちを喜ばせたい」という想いが強まった。

 

無事に完工した後、現地での盛大なパーティーが開催された。口々に感謝の言葉を受けながら、“為した事業以上に、自分たちが喜びをいただいている”と感じたという。

 

「誰かのため、何かのために本気になる、そのお礼に対価を頂く。――これが仕事だ」

 

この時の想いが今も、喜多社長が経営に向き合う姿勢の原点となっている。

 

建設機械、水処理、自然エネルギー・省エネ機器、IoT・測量機器・土木建築ソフトまで事業領域は多岐にわたる
建設機械、水処理、自然エネルギー・省エネ機器、IoT・測量機器・土木建築ソフトまで事業領域は多岐にわたる

 

 

 

まなびのポイント 2:社員の幸せを生み出す取り組み

 

同社がサステナビリティを意識した活動として最初に掲げた目標は「社員満足度100%」。そこには、“社員自身が幸せでなければ、誰かに幸せを届けることはできない”という喜多社長の想いがあり、また事業が多岐に及ぶからこそ、全社共通で目指せる目標として定めたものである。

 

社員の自発性を重視する同社の取り組みは、ユニークかつ多彩だ。社内で新しい取り組みをスタートする際はプロジェクトチームを結成しており、これまで“SDGsアクションの検討”や職場環境向上のための“アロマチーム”など、現場目線での意見を具現化させながら実装を図っている。

 

社員の健康促進・働きやすさにも力を入れており、「Kita Active Life Challenge」として年2回の身体測定でのスコア管理、社内掲示板でのエクササイズ動画配信、喜多社長自らコーヒーブレイクを推奨する発信などが盛んに行われている。

 

風通しの良い社風は、年1回の方針発表会の中でチャットによる役員と社員との“リアルタイムQ&A”が行われることからもうかがえる。一つ一つの取り組みに、現場の声を当たり前に取り入れながら取り組む姿勢が、社員の共感を呼び、サステナビリティ活動の浸透にもつながっている。

 

「社員満足度100%」を目標に掲げ、健康促進・働きやすい環境づくりなど 社員の幸せを生み出す取り組みに注力している
「社員満足度100%」を目標に掲げ、健康促進・働きやすい環境づくりなど
社員の幸せを生み出す取り組みに注力している

 

 

 

まなびのポイント 3:事業という社会解決“手段”の拡大

 

間もなく創業100年を迎える老舗企業ながら、積極的に事業を拡大させている点も大きな特徴だ。

 

同社において新規事業や製品・サービスが立ち上がる起点には、大きく3つのパターンがあるという。1つ目は、社会課題に向き合う社長の意志によるものだ。2023年には、徳島の自然環境を守る林業チーム「OCEANS」を結成。事業理念に共感し、自ら手を上げた社員と伐採作業を行っており、2030年には徳島県全体の約15%に相当する年5万tの伐採を目指す。

 

2つ目は、環境変化に応じたバリューチェーンの拡大・強化である。機械メンテナンスに用いる生分解性グリスの開発など、顧客の困り事に応えながら環境に優しく付加価値の高いサービス生み出している。3つ目はシーズ志向によるもので、例えばトレーニングマシン事業の立ち上げは、地元のスポーツチーム応援を通じて引退後に入社する社員が増えたことがきっかけとなった。建設業を一から覚えるより、自身の強みを生かせる舞台を用意したいという考えからである。

 

同社のこだわりは、関わる人達の喜びを生み出し、笑顔にすること。豊かな自然環境と社会環境を次世代までつなぐため、喜多機械産業は様々な手段を通じて課題解決に取り組み続けている。

 

社内の休憩スペースにはトレーニングマシンを設置。体成分分析装置「Inbody」による年2回の測定機会があり、スコアが改善した社員には報奨金が贈られる
社内の休憩スペースにはトレーニングマシンを設置。体成分分析装置「Inbody」による年2回の測定機会があり、スコアが改善した社員には報奨金が贈られる