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【研究リポート】

物流経営研究会

”物流は世の中を支えている”にもかかわらず、他業種と比較して長時間労働、低賃金です。第7期は高収益ビジネスモデル、人財確保・デジタル化への取組を全6社と参加企業から学びます。
研究リポート2024.04.18

トラスコ中山の「独創経営」:トラスコ中山

【第4回の趣旨】
昨今の物流業界を取り巻く環境は大きく変化しており、2024年問題をはじめ、人手不足や燃料費・人件費の高騰といった課題解決は日増しに重要度を増している。時代によって変化する“顧客から求められること”に対し、“自社の持ち味”を合致させられるかどうかが重要であり、それが自社の存在価値を発揮することでもある。
第8期物流経営研究会は「自社の真の価値を再定義する~バリューコネクトを発見しよう~」をテーマとし、視察企業や学びをもとに“選ばれる企業”になる理由をあらためて明確にするヒントを提供する。また、「デジタル化」「環境対応」「採用」「育成」などの課題に対する解決の糸口になるよう、研究会参加者が学び、高め合う場でもある。
第4回は、さまざまな仕組みで利便性を追求するトラスコ中山の基幹物流センター「プラネット埼玉」を視察。同社の取り組みについて、同社の取締役 物流本部 本部長 兼 物流安全推進部 部長の直吉 秀樹氏に講演いただいた。

開催日時:2024年3月7日~8日(埼玉開催)

 

 

トラスコ中山
取締役 物流本部 本部長 兼 物流安全推進部 部長 直吉 秀樹 氏

 

 

はじめに

トラスコ中山は、生産現場で必要な作業工具、測定工具、切削工具をはじめ、あらゆる工場用副資材(プロツール)の卸売企業である。 約60万アイテムの在庫を保有し、独自の即納体制で商品を供給している。プロツール唯一の総合カタログ「トラスコ オレンジブック」を年間約16万部発刊し、プロツール検索サイト「トラスコ オレンジブック.Com」では約410万アイテムを公開。「がんばれ!!日本のモノづくり」を企業メッセージとし、プロツールの供給を通じて日本のモノづくりに貢献することを事業の目的としている。

 

1959年に業界最後発として誕生した同社は、枠にとらわれない発想(独創経営)で成長してきた。「他社と同じことをやっていては成長できない」との考え方から、商品・物流・販売・デジタルに力を入れ、顧客に最高の利便性を届けるよう取り組んでいる。今回の研究会では、同社の「常識にとらわれない発想」から生まれた他社との違い作りについて学んだ。

 


埼玉県幸手市にある同社最大の物流センター「プラネット埼玉」

 


 

まなびのポイント 1:「中山式在庫の方程式」で在庫を拡充

一般的に、商品在庫はできるだけ少なく持つことが効率が良いとされているが、それはあくまで売り手側の発想である。同社は逆に「お客さまは便利なところからしか買わない」と考え、「在庫はあると売れる」「在庫は成長のエネルギー」と捉えている。この考えのもと、同社は在庫を徹底的に抱え、他社では手に入らない商品やロングテール商品をそろえることに注力。「同社には必ず在庫があり、納期も短い」という顧客からの信頼を得ている。

 

また、同社は在庫回転率ではなく、顧客の注文のうちどれくらいを同社の在庫から出荷できたかを示す「在庫出荷率」を重視しており、直近の在庫出荷率は92.1%となっている。

2030年までに在庫100万アイテムの実現を目標としており、「『最速』『最短』『最良』の納品の実現を目指している」と直吉氏は語る。

 

 

 

 

まなびのポイント 2:物流を制するものが商流を制す

同社は営業力だけでなく物流力も重視し、「即納こそ最大のサービス」として、全国に89カ所の拠点(本社2カ所、国内営業拠点59カ所、国内物流拠点28カ所)を配置している。さらに、物流コストを低減する独自の物流システム「固定費型物流」を構築。路線バスのような配送網を整備し、固定ルートで毎日配送を行うことにより、小ロット・多頻度の注文に対応している。

 

また、即納を支えるため、基幹倉庫にAutoStore(高密度ロボット収納システム)やI-Pack®(高速自動梱包出荷ライン)、Butler®(自動型搬送ロボット)などの物流機器を導入し、省人化と自動化を進めることで高密度収納・高効率出荷を実現している。過去10年間の設備投資は1000億円以上だという。

 

このように、商品・物流・デジタルを掛け合わせ、仕組み化することにより、顧客の利便性を追求している。

 

 


AutoStore(高密度ロボット収納システム)。床から天井近くまでコンテナを積み上げることで空間効率を最大化。ロボットがコンテナ運搬を行うことで、入出庫作業の効率化・省人化を図る

 

 

まなびのポイント 3:ありたい姿を実現するための「能力目標」

独創的な企業として、常に最高の利便性を提供するため、同社は売り上げや利益などの数値目標よりも、どのような能力を持った企業になりたいかという「能力目標」(ありたい姿)を重視している。「能力目標」 には11項目あり、先述した「2030年までに在庫100万アイテム保有」のほか「1日24時間受注、1年365日出荷」「お見積もりに瞬時にお応えできる」など、ほとんどが顧客起点の目標となっている。

 

また、同社の判断基準として「取捨択(しゅしゃぜんたく)」がある。「損なのか、得なのか」ではなく「善なのか、悪なのか」「正しいのか、間違っているのか」で判断する考え方であり、全社員にとっての大事な指針となっている。

 

能力目標と取捨善択により、「人や社会のお役に立ててこそ事業であり、企業である」という志を体現していることが、同社が“選ばれる企業”である理由と言える。

 


I-Pack®(高速自動梱包出荷ライン)は納品書の挿入、梱包、荷札の貼り付け作業を高速で行う出荷ライン。自動化により梱包時間の短縮や品質向上につながり、ユーザー直送強化の要になっている

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