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【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2024.04.16

折笠農場グループのあゆみと目指す自然栽培:折笠農場

【第6回の趣旨】
タナベコンサルティングのアグリサポート研究会(第7期)は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第6回の1日目は、オーガニック栽培への転換により、環境への負荷を低減した持続可能な農業を目指す、折笠農場の代表取締役・折笠健(おりかさ ますらお)氏の講話を聞き、農場の視察を行った。2日目は、北海道・鹿追町環境保全センターを視察し、「一石五鳥」の効果を生み出す循環型農業の取り組みを視察した。

開催日時:2023年7月13日~14日(北海道開催)

 

 

株式会社折笠農場
代表取締役 折笠 健 氏

 

 

はじめに

 

折笠農場は、1909年に初代(現社長・折笠健氏の曾祖父)が福島県相馬市より北海道・十勝に入植して開拓した、100年を超える農場である。健氏の父で先代の折笠秀勝氏が、「開拓時代の自然豊かな土地に戻す」を目標に販路開拓を行って以来、「美味しい」「安心」「安全」を合言葉に運営を行っている。5代目の健氏は、農薬や肥料・堆肥を使わない自然栽培を行い、自らが生産した有機農産物(自然栽培)を利用した加工食品の製造に取り組み、折笠農場のファンを拡大している。

 


折笠農場のじゃがいも「さやあかね」。化学農薬や化学肥料・堆肥などを使用せず、有機認証を取得している畑で自然栽培

 


 

まなびのポイント 1:人との出会いがビジネスチャンスに

 

折笠農場は「開拓時代の豊かな土に戻す」という理念から、畑を半分休ませ、緑肥を栽培して継続するため、農作物を独自販売することを選択。1970年ごろからコープ生協との取引を開始した。生協を通した販売によって、折笠農場のセールスポイントである「安心・安全」のため、農薬をできるだけ使わない野菜づくりを目指した。

 

安心・安全は、農薬を減らすことだけではない。農業生産者の生産リスクと、顧客のリスクを洗い出して整理し、互いにとってリスクの低い農業生産ができる環境を整えることも重要だ。

 

しかし、2001年、青森で肥料を使わないリンゴ(「奇跡のリンゴ」)の生産に成功した木村秋則氏が折笠農場に来場したことをきっかけに、栽培に関する健氏の考え方が大きく変わった。重度のアトピー性皮膚炎や化学物質過敏症などにより、通常の食品では生活が困難で、オーガニック食品を必要としている人たちが100万人いるといわれていることを知ったためである。

 

これまで消費者(生協の組合員)をイメージして生産はしていたものの、オーガニック食品でないと生活が難しい人たちに届けることは想定していなかった。これを機に、折笠農場は農薬を一切使わない「自然栽培」に挑戦し始めた。

 


出所:折笠農場講演資料

 

 

まなびのポイント 2:自然栽培で目指す顧客目線のものづくり

 

北海道のじゃがいも生産に、除草剤・殺菌剤・殺虫剤は欠かせないが、折笠農場ではオーガニック栽培のため、殺菌剤を必要とする疫病に疫病抵抗性の品種を選択。除草では、専用の除草機械を機械メーカーに製造依頼し、化学農薬を使用しない工夫をしている。

 

「今後、日本にオーガニック栽培を普及するには、各地で発生する有機物を肥料に利用したり、休閑地を設けて緑肥を取り入れたりして、継続性の高いオーガニックとは何なのかを考える必要があります」と折笠氏は言う。

 

十勝では、人口33万人に対し、乳牛・肉牛合わせて45万頭が飼育されているが、飼料はほぼ海外から仕入れている。糞尿を有効活用すれば、化学肥料や畜産ふん尿の地下水汚染なども軽減できる。環境を重視し、生産者の意識が変われば、地域全体が変わってくる。

 

「北海道は世界を揺るがすようなパワーを持つ産地。これからはさらなる継続性を高めた環境づくりとは何かを真剣に考えなければいけません」(折笠氏)

 

 


消費者との交流

 

 

まなびのポイント 3:世界で通用する商品開発への挑戦

 

海外で通用する商品開発には、次の3つが必要である。

 

(1)おいしさの根拠

折笠農場は95haの加工工場を持ち、マスタード、トマトジュースなどを製造している。

長年にわたり、マスタードやじゃがいも、ミニトマトの品種試験や、消費者アンケート調査を実施しており、じゃがいもについては、大学と連携して品種改良などに取り組みながら、顧客に提案を続けている。

 

(2)安心・安全の根拠

JGAP認証、JAS有機認証などを取得し、GAPが推奨するリスク軽減された農業生産環境を整え、その環境内でJAS有機の有機的管理を行い生産している。また、長年肥料を使用しない環境で土壌がどう変化していくのかという研究・分析も続けている。

 

(3)消費者との交流

顧客ニーズを捉えた商品開発には、購入決定権のある女性と子どもの意見を聞くことが重要と考えて消費者アンケートを実施。その回答結果から、時代に合った最高においしいものは何か、どんな選択肢をそろえて提案していくべきかを常に考えている。

 


折笠農場のオーガニック商品

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