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【研究リポート】

企業価値を高める戦略CFO研究会

経営者・経営幹部は、事業価値・企業価値を見極め、事業ポートフォリオを最適化する必要があります。会計ファイナンス思考による戦略的意思決定を学びます。
研究リポート2024.03.27

ファイナンス思考による企業価値向上とCFOの役割:J.フロントリテイリング

 

【第1回の趣旨】
CFOは、「企業参謀」として、経営者の戦略的意思決定を支援する存在である。
第1回テーマは「ファイナンス思考による企業価値向上とCFOの役割」。株主・債権者から調達した資金を経営活動へ投下し、最大の利益を得るという一連の循環の中で、再投資原資が企業内に蓄積されることで、企業価値が高まるといったファイナンス視点での企業価値向上に向けたCFOの役割について学んだ。
開催日:2024年2月21日

 

J.フロントリテイリング株式会社
取締役兼 執行役常務 財務戦略統括部長 若林 勇人 氏

 

はじめに

 

若林勇人氏は、1985年に松下電器産業(現パナソニック)に入社した。経理・財務でキャリアを築き、2013年にはコーポレート戦略本部 財務・IRグループゼネラルマネジャー 兼 財務戦略チームリーダー(理事)に就任した。大丸、松坂屋などを運営するJ.フロントリテイリングには2015年に入社し、業務統括部付財務政策を担当した後、2018年より現職。一般社団法人日本CFO協会理事。

 


 

まなびのポイント 1:財務視点の経営管理改革

 

全国百貨店の売上高は1991年をピークに減少し続け、2022年には半減した。そのような動向を踏まえて、J.フロントリテイリングは高コスト・低収益体質からの脱却に向け、営業改革をはじめ諸改革を一体的に推進した。結果として、生産性の高いオペレーションを確立することに成功し、業界でもトップクラスの営業利益率を誇る。

 

都心部に店舗資産を持つ事業特性もあり、B/Sや資本コストへの意識が全社的に希薄だったが、投資家とのギャップを埋めるためにROE経営を推進している。事業会社はROAの最大化、 ホールディング(以降、HD)は財務戦略推進と役割を明確化し、中核事業の百貨店を対象にB/SやCF視点の経営管理を導入している。元々、売上至上主義だった同社において、道筋や役割を明確化させ全社を巻き込めたことが改革の鍵である。

 


百貨店の経営改革

 

 

まなびのポイント 2:企業価値を高めるCFOの役割

 

従来のCFOの役割は決算・税務や会計・資金オペレーションなど「守り」の領域だったが、今後はそれらに加えて経営戦略の立案や遂行、IR・投資家対応など「攻め」の領域をカバーすることが必要である。

 

同社では戦略立案・遂行として、「事業ポートフォリオ変革の実現に向けた財務目標の設定」「ROIC 経営管理」「事業会社マネジメント」「HD のリスク管理」を行っている。

 

IR・投資家対応としては「IR 活動の PDCA サイクル」「開示の充実」「資本市場との対話」などを行っている。

 

これからの時代のCFOには、経営視点を持った高度な「攻め」の領域まで随行できることが求められるであろう。

 


CFOの機能・役割

 

 

まなびのポイント 3:経営戦略に基づく財政政策の立案・管理

 

同社では、事業ポートフォリオ管理や投資管理の厳格化に加え、事業部門と連携したROICツリー及びKPIを設定し、業績管理への活用を行っている。事業ポートフォリオ管理としては、「成長性」「資本収益性」を軸に「将来性」を加味し、重点投資領域や事業存続の是非は事業特性や規模などを考慮してHDが判断している。

 

同社では、大型投資に対する定量的な投資判断基準の設定や運用ルール策定し、意思決定前に損益計画を検証・判断することを目的に「投資計画検討委員会」を設置。ノウハウの蓄積や法務メンバーの参画もあり、審議は高度化しているという。グループの各事業を3つのフェーズに分類し、フェーズⅡは事業会社で、フェーズⅢ は HD会社が再生計画を立案している。

 

投資及び撤退の基準を設定し、委員会を中心に運用することで重点投資領域に集中投資して成長を続けている。

 


事業ポートフォリオ管理

 

 

まなびのポイント 4:情報開示、対話機会の充実強化

 

説明会やスモールミーティング及び国内外の投資家との面談などのIRでは積極的な情報開示を心掛けており、対話で得られた「気付き」 を経営にフィードバックしている。複数のシナリオを基に「どのような前提で業績予想を組み立てたのか」を具体的に説明し、投資家の関心事である、事業別のROIC目標やWACCを開示している。

 

法定及び適時開示における開示内容の適切性を審議するために若林氏を議長とした「情報開示検討委員会」を設立し、会社情報の収集と適時開示是非の検討や開示基準の検討、検証・見直しなどを行っている。

 

情報開示を起点に、異なる考え方や価値観を持つ人たちと、ビジネスモデルや戦略、リスクなどについて意見交換を行うのが対話であり、経営課題の解決につながるヒントを『気付き』として受け止め、経営に還元している。 全ての投資家に対し透明性の高いIRを行い、対話を行うことで、自社が気付けていない強み或いは弱み等の示唆を素直に聞き入れて経営に還元できていることが同社の経営上の強みの1つであり、全ての上場企業が学ぶべき姿勢であろう。

 


IR活動のPDCAサイクル

 

 

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