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【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2024.02.19

郷土愛から生まれた石垣牛ブランドと地域おこし:ゆいまーる牧場

【第3回の趣旨】
アグリサポート研究会(第8期)は、「アグリ分野でのサステナビリティ(持続的成長)モデルを追求する」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第3回は沖縄県の石垣島(八重山地域)で視察を行った。石垣島では、亜熱帯気候と豊かな土壌を生かした作物の栽培が行われ、主にパイナップルなどの果物やサトウキビ栽培、畜産などで、沖縄県の農業全体の15%を占めている。
今回は、石垣牛のブランド化に情熱を注ぐゆいまーる牧場を視察し、アグリ分野における持続可能な成長モデルを学んだ。

開催日時:2024年1月11日~12日(沖縄開催)

 

 

農業生産法人有限会社ゆいまーる牧場
会長 金城 利憲 氏

 

 

はじめに

 

ゆいまーる牧場は、「石垣牛」や「アグー豚」の一貫生産を手掛け、飲食事業や肉の輸出も行う農業生産法人である。創業者で現会長の金城利憲氏は、自然豊かな美しい沖縄県に生まれ育ち、17歳で上京。レストラン経営を夢見て調理師見習いを始め、肉の卸売りから販売までを経験してキャリアを磨いた後、故郷へ戻り、1984年に同牧場を創業した。

 

金城氏が創業に至るまでのキャリア(下記)は、全てが肉に通じている。日々の経験がノウハウの体得へとつながり、今日のゆいまーる牧場の経営に大きな影響を与えている。

 

①レストラン見習い:総菜づくり(コロッケ、とんかつなど)
②大手ハム加工A社:高級肉の取り扱い方法
③大手ハム加工B社:肉質、肉の部位の取り扱い
④宅配ドライバー:配達を通じて、飲食店や食肉関連企業の情報収集、取引先の開拓

 

 


牛舎は常に清掃されており、管理が徹底されている

 


 

まなびのポイント 1:飼料コスト低減と繁殖・肥育の一貫生産

 

沖縄と本土の距離は東西1万㎞、南北400㎞あり、本島と離島が存在するため、輸送手段は限られ、輸送コストも高く、農家としてはコスト低減のために肥料、飼料を安く仕入れる工夫が欠かせない。

 

ゆいまーる牧場では、牛の堆肥を利用して土壌づくりを行い、牧草も育て飼料としている。サトウキビ、ビール、麦、焼酎などを使ったエコフィード(食品残渣飼料)は、何が一番良いのかを徹底的に研究し、自家配合の飼料でコスト低減を図っている。

 

また、牛にストレスを与えない環境で育てるため、繁殖・肥育の一貫生産も行っている。通常の肥育経営では、成長の速い雄の子牛の肥育が中心だが、ゆいまーる牧場は雌牛のみの熟成飼育生産にこだわり、36カ月以上をかけて肥育する。そのため、成長の過程で肉が熟成し、うま味成分や芳醇な香りを持った良質で味わい深い肉質となる。

 

 

 

まなびのポイント 2:石垣牛ブランド化の取り組み

 

同牧場では、牛の体調管理のために扇風機やミストを設置し、畜舎を管理。また、微生物飼料を開発し、アンモニア、ハエを消滅させる工夫や環境改善により、牛のストレスを軽減しておいしい肉質の石垣牛を育てている。

 

石垣島は子牛の生産で有名な地で、全国に出荷してきた畜産の歴史がある。しかし、全国各地にある和牛ブランドのルーツが石垣島にあることはあまり知られていない。

 

こうした中、2000年に開催された沖縄サミットにおいて、いまだ知名度の低かった石垣牛の採用を金城氏が要請し、サミットの晩餐会に採用された。これを機に知名度は格段に上がり、全国ブランド化を実現した。同牧場は直営の焼き肉レストランも運営し、さらなるブランド化と地域活性化を目指している。

 


牛たちが快適な環境で、伸び伸びと育っていけるように愛情を注いでいる

 

 

 

まなびのポイント 3:沖縄の農業の多様性・可能性

 

1.海外輸出
海外でも競争力のある農業を育成し、沖縄から世界各地へ輸出することで活性化できる。

 

2.耕作放棄地、牧場整備
耕作放棄地を牧草地にすると、そこから飼料となる牧草が収穫でき、畜産農家は牧草の不足分を海外から輸入する必要がなくなる。また牛の増頭も可能となり、増えた牛から得られるたい肥をサトウキビ農家に提供すればコスト低減となる。加えて耕作放棄地が整備されることによって環境整備がなされ、観光資源にもなる。

 

3.畜産農家と耕種農家の連携によるエコ農業促進
畜産農家による糞尿処理、堆肥への変換や有効利用が可能となり、耕種農家においては、土づくりを通じた環境保全型農業の取り組み強化が必要。両者の連携でシナジーが生まれ循環型農業が可能になる。
ゆいまーる牧場は、沖縄県の農業のさらなる発展のため、培ったノウハウを次世代へ伝え、こだわり(愛)をもって豊かな資源の再発見へ取り組むことで、ブランド向上、地域活性化を追求していく。

 

 


直営レストラン「石垣牛専門店 焼肉金城」。ゆいまーる牧場直送の肉を提供している

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