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【研究リポート】

ビジネスモデルイノベーション研究会

秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート2024.02.06

パーパス主導型の経営にシフト:アワーズ

【第6回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における知の探索をテーマに、秀逸なビジネスモデルを構築し成功しているさまざまな業界の優良企業を視察訪問する。
今回のテーマは「CX×クオリティリーダーシップ」である。下記3点の切り口から、株式会社南紀白浜エアポート様、株式会社むさし様、株式会社アワーズ様より、顧客体験価値を最大化する方法と卓越した強みとそのブランディングを実現する方法について学んだ。
1.「CX(顧客体験価値)」のデザインとブランディング(個ではなく、地域一体での発信力強化)
2.組織変革を推進する「コンセプト・ブランディング」
3.~不易流行~時代変化に立ち向かうサステナブルな企業変革

開催日時:2023年12月21日(和歌山開催)

 

 

株式会社アワーズ
代表取締役社長 山本 雅史 氏

 

はじめに

 

株式会社アワーズは、売上高72億円(2022年5月期)、従業員340名(2022年6月現在)の動物園・水族館・遊園地が一体になったテーマパーク「アドベンチャーワールド」(和歌山県白浜町)を運営する企業。同パークはトリップアドバイザーによる「日本のテーマパークランキング2018」で第4位、「日本の動物園・水族館ランキング2019」で第2位という実績を誇る日本トップクラスのテーマパークである。

 

動物園、水族館、遊園地が一体になったテーマパーク「アドベンチャーワールド」(和歌山県白浜町)を運営する同社は、2015年に企業理念を再構築し、パーパス主導型の経営にシフト。同年、全社員参画型の新社屋建設プロジェクトを立ち上げ、新社屋が完成した。企業理念に基づきSDGs宣言をしており、現在も企業理念やSDGsの達成に向かって積極的に取り組んでいる。


「パンダラブ」でくつろぐ「楓浜(ふうひん)」

 


 

まなびのポイント 1:理念・パーパス経営へ変革したきっかけ

 

「こころでときを創るSmileカンパニー」という同社の企業理念には「3つのこころ」と「3つのSmile」という概念が内包されている。「思いやりのこころ」「素直なこころ」「前向きなこころ」の3つのこころをベースに、「社員・ゲスト・社会」の3者が自己実現や達成感を通してSmile(=幸せ)になるというのが同社の企業理念である。

 

このようなパーパス経営への転機となったのが、スターバックスの元CEOである岩田松雄氏の講演とそこで見た主体的に働く従業員の姿であるという。その姿に感銘を受けた山本氏は、それまでの管理・監視によるマネジメントではなく、社員が理念を大切にしたいと思ってくれるような仕組みや環境づくりに取り組み、波紋のように理念浸透させていくことを目指した。そのために理念の再定義と再構築に取り組み、現在のアワーズのパーパス経営へとつながっている。

 


フリーアドレスで全員の顔がよく見える開放的なオフィス。人と人のつながりを大切にする同社の理念が一番体現されている部分の一つである。

 

 

まなびのポイント 2:パーパス経営の実践~全社員参画型の研修&プロジェクト~

 

理念経営の特徴は人を管理するのではなく、人の可能性を信じ、人を活かす経営であると山本氏は定義する。そのような中で全社員が同じ方向を見て業務に取り組むために必要なのは共通の目的(パーパス)のみであるという。共通のパーパスとは、個人のパーパスと企業のパーパス双方の重なる部分であり、双方を明確化することで、共通の目的が理解でき、主体性をもって業務に取り組める。こういった共通の目的を明確化させるための支援として、理念研修含む、年2回必ず全社員が受講する社内研修や理念共感型採用を行う。

 

またパーパス経営実践の例として、新社屋建設プロジェクトがある。このプロジェクトで山本氏が求めたのは、①予算②工期③企業理念を体現したオフィスにすることの3点だけであり、他はすべて社員主導でプロジェクトが推進された。結果、予算・工期はオーバーしたが、同社の理念を体現した「麗しの我が家」が完成した。このようなエピソードにも「人の可能性を信じ、人を活かす経営」の姿が窺える。


パーク内に併設されている従業員用保育施設「キラボシ」。パーク内に託児施設が併設されていることで、子供の急な体調不良にも対応しやすく、女性が働きやすい環境となっている。

 

 

まなびのポイント 3:企業理念に基づいたSDGs宣言~環境に配慮した循環型パークの創造~

 

同社では、「すべての生命にSmile(=しあわせ)が溢れ、循環し広がっていく、明るい豊かな社会(Smile循環社会)」を目的にサスティナビリティ方針を策定。その一環として、自然環境に配慮した資源循環型パーク実現のための取り組みを行っている。

 

例えば、パンダの食べ残した竹の再利用や、草食動物のフンを利用した堆肥の開発・製造、パーク内で使用した水をパーク内の生活排水処理場で浄化することによる水資源の再利用、その他にも紙・プラスチック使用量の削減やLIMEX(石灰岩を主原料とした素材)の使用・アップサイクルによる活用など、最新のテクノロジーを積極的に活用し、資源の循環、環境負荷低減に大きく貢献している。


社員食堂「KOKORO」ではこころも身体も元気になるメニューを日々提供。パーク内で栽培された野菜やASC認証の魚を取り入れている。また、食品ロスの削減、アップサイクル食器の使用によって環境負荷低減に貢献する。

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