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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

食品価値創造研究会

AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート2024.01.30

氷が育む豊かな食文化の創造に「とけない、情熱。」で挑み続ける:コア・コクボホールディングス

【第6回の趣旨】
日本経済は、長年続いたデフレ経済からインフレ経済への転換期を迎えている。インフレ経済下においては、企業が創造する固有の価値を磨き上げることで競争優位性を確立していくことが求められる。
食品価値創造研究会では、「食に携わる仲間とともに、100年に一度のパンデミックを経験した今だからこそ、100年先を見据えて食品企業が創造すべき価値について語り合おう」を合い言葉に、EATマーケットネットワークによる新たな食品価値創造を探求している。
第6回は「食品ビジネスにおけるブランド価値を学ぶ」をテーマに、優れた理念とリーダーシップのもと独自の強みを発揮し、環境にも配慮しつつ、顧客起点のブランド価値を構築しているコア・コクボホールディングスに学んだ。

開催日時:2023年12月15日(中部開催)

※ E:エンジニアリング(技術進化・フードテック)、A:アソシエーション(新結合・オープンイノベーション)、T:トランスフォーメーション(デジタル改革・業態転換)

 

 

 

コア・コクボホールディングス 代表取締役副社長
兼 東海コクボ 代表取締役社長 小久保 淳 氏

 

 

はじめに

 

1929年創業の小久保製氷冷蔵は、「ロックアイス®」ブランドの氷の製造で有名な食品メーカーである。同社は事業領域の拡大とさらなる企業成長のため、2016年に持ち株会社「コア・コクボホールディングス」を設立。事業会社のトップとして「とけない、情熱。」というブランドメッセージの下、氷の新たな価値創造をし続けている。

 

コア・コクボホールディングスは、食品分野のみではなく、けがの予防やパフォーマンス向上を目的とした「スポーツアイシング普及活動」や、猛暑時には社会問題ともなる「熱中症」への対策として、マラソン大会のサポート、また小学校への関連教育教材の提供などロックアイスの「冷やすチカラ」が持つ無限の可能性を追求している。

 

グループ合計(2023年12月現在)で従業員数約560名、国内7工場と海外(タイ)1工場を保有する同社の挑戦と業態転換の歴史をたどる。

 

 

 


 

まなびのポイント 1:氷を「家で作るもの」から「買うもの」へ

 

1929年に石油プラント業として創業した同社は、第二次世界大戦後、石油プラントの冷凍設備を生かして氷の販売を開始。売れ行きが良かったため、1947年に冷凍設備を新設し、製氷事業を本格スタートした。その後、日本でも電気冷蔵庫が普及し、製氷事業は衰退。そうした状況の中、米・ハワイのスーパーマーケットで砕いた氷が売れていることに気付いた3代目社長が、大きな氷塊を砕いて袋に詰めたロックアイスの販売を1973年に開始した。

 

氷を販売するビジネスモデルを確立する道は険しく、ロックアイスを取り扱ってくれる卸売・小売業の開拓は苦労の連続だった。しかし、透明で溶けにくく、安全・安心な氷は徐々に認知され、黎明期のコンビニエンスストアでの取り扱いが飛躍のチャンスとなった。当時は家の冷蔵庫で作るのが当たり前だった氷を購入するという新しいカテゴリーを国内に創出したのである。

 


「ロックアイス」発売50周年を記念した限定パッケージ

 

 

 

まなびのポイント 2:海外進出と国内市場の拡大

 

同社は2005年、氷の一大消費マーケットであるタイに工場を設立し、ロックアイスの製造を開始。現地での製造販売し、そして物流も担う本格的な海外進出を果たした。ちなみに「ロックアイス®」というブランドは、国内は当然の事、アジアをはじめ世界の様々な国で小久保製氷冷蔵が商標を取得している。

 

国内市場としては、コンビニカフェのブレイクとともに、アイスコーヒー用容器入り氷の売り上げが2014年に大きく伸長。年間3億杯を記録した。過去の失敗から、社内には設備投資に慎重な論調があり、当初は設備を拡大せずに全社スタッフ総出で製造したものの品薄状態が続いたため、工場と製造ラインの新設を決断。この決断により、大幅に売り上げが伸びた。同社は容器入り氷の販売に長く苦戦していたため、コンビニカフェの成功は同社に大きな希望を与えた。

 


同社のタイ工場

 

 

 

まなびのポイント 3:設備拡大と氷の新価値創造でさらなる躍進を目指す

 

最新鋭の「三島工場」(静岡県)は、コンビニカフェの成功と、2021年夏の東京オリンピック・パラリンピック開催による需要増加を予想し、2021年4月に竣工。富士山と駿河湾が一望できる三島の雄大な自然と外観にこだわったほか、子供が見学を楽しめるように窓を大きくする、自動化・省人化を推進し、働き方の改善に取り組むといった思いを実現するため、三和建設とタッグを組んで建設した。同社グループは2023年度、過去最高の売上高を達成する見込みである。今後もコンパクトかつ自動化・省人化された工場を増やすという。

 


同社の三島工場

 

 

 

また、同社は冒頭で触れた「アイシング普及活動」にも取り組んでいる。きっかけは、プロバスケットチームから「アイシングの氷が早く溶けてしまう」との相談だった。スポーツ分野にも貢献したいという思いから、ロックアイスの強みである「溶けにくい」氷を提案。現在は、バスケットチームをはじめサッカーや野球など、さまざまなプロ・学生のスポーツチームに氷を提供する協賛にとどまらず、正しいアイシング方法の浸透への活動を広く行っている。

 


プロ・学生のスポーツチームに氷を提供し、正しいアイシング方法を普及する活動も行っている

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