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【研究リポート】

デザイン経営モデル研究会

経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート2024.01.18

地域文化と経営の融合デザイン:株式会社八清

【第2回の趣旨】
「デザイン経営」とは、デザインを「企業やビジネスモデルそのものを差別化する経営資源」と捉え、受け手側の体験価値を高め、自社らしさを醸成する経営手法である。デザイン経営モデル研究会の第2期では「『体験価値』と『自社らしさ』を創るデザインの力とは」をテーマに、個性化と高収益を実現する「デザイン経営モデル実践企業」を視察。経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験する。
当研究会第2期第2回1日目は、八清(はちせ)の取締役会長・西村孝平氏の講話と視察から、地域文化と経営の融合デザインを体験。京都が持つ文化的魅力、また全国的に拡がる空き家問題、ライフスタイルの価値観の変化といった文化的・社会的課題に対し、どのようなデザインを描いたのかをひも解いた。

開催日時:2023年11月30日(京都開催)

 

 


八清がリノベーションを手掛けた京町家。京都の文化と魅力的な町並みを未来へとつなげ、新たな価値を創造している

 

 

はじめに

 

1956年より不動産事業者として京都のまちの移り変わりを見つめてきた八清。現在は、京町家(1950年以前に建てられた伝統構法の建物)をはじめとする中古建物の魅力を大切にし、リノベーションによる古家・空き家の再生販売を中心に事業を展開している。

 

京都の文化的価値を有する京町家は、2011~2016年度の7年間で約5600軒減少。空き家率は14.5%(共に京都市調査、2017年3月)である。同社は「地域の活性化は不動産業の使命」と考え、京町家を残すことをビジネスの根幹に据えて、この文化的課題・社会的課題に立ち向かっている。

 

しかし、京町家は現行の建築基準法施行以前に建てられたため、既存不適格(現在の法律に適合しなくなってしまった建築物)で継続利用しかできない。その制限の中、創意工夫のリノベーションで、物件に付加価値をつけて顧客に提供するのが同社の特長である。一般的な「新築>リノベーション」という認識を逆転させ、「八清のリノベーション=町家>新築」を実現し、顧客へ新たなライフスタイルを提供する秘訣に迫った。

 

 

 

 

「京宿屋 新道 さくら庵」(京都市東山区宮川筋八丁目)の外観と内観のリフォーム前後

 


 

まなびのポイント 1:京町家の歴史文化的・資産的・情緒的価値を理解

 

国際的に有名な観光地・京都の魅力の1つには、伝統工法で建てられた京町家の町並みの魅力がある。そこで同社は、デザインのファーストアプローチとして、取り扱う物件の歴史的、文化的価値の深堀りを行った。この取り組みにより、物件の資産価値だけでなく、路地や町並みを含めた「価値の源泉」が見えてきた。

 

例えば、玄関前の石畳の補修などのリノベーションを行えば、物件の価値を高められる。文化・歴史的価値を資産価値に変換するのだ。するとそこには、競合他社と全く異なる顧客像が表れた。八清のターゲットは「物件を探しているユーザー」ではなく、「八清が追い求める歴史的・文化的価値の共感者」である。

 

 

まなびのポイント 2:仲間を集める、集まる、共創プラットフォーム

 

同社は、京都市と連携した町づくりと金融機関への働きかけで、通常は既存不適格建築物には付かない京町家限定のローンを開発。また、路地を生かしたまちづくりについて議論・情報交換する「全国路地サミット」での仲間づくりなど、土地調達→デザイン→施工→販売→アフターサポートの各フローで、八清のビジョンに共感する仲間と価値を共創し、バリューチェーン全体の付加価値を向上させている。

 

仲間が集まる理由は、同社が持つ卓越したクオリティリーダーシップだ。法律・条例の専門家、不動産・リノベ業の専門家、ライフスタイルやインバウンド、デジタルマーケティングの専門家など、各分野のプロがさまざまな観点から京町家の価値を高めるため、仲間だけでなく顧客も集まってくる。

 

 


路地を含めた物件間取り図(町家のライフスタイルデザイン)
設計:魚谷繁礼建築研究所

 

 

 

まなびのポイント 3:自社の魅力を届けるアウターコミュニケーション

 

八清の独自のビジネスモデルは、約200名の顧客アンケートから生まれた。その後もユーザーとコミュニケーションを取り続け、京町家の価値を高める活動は怠らない。

 

例えば、3月8日を「町家の日」として記念日登録し、前後の週を「町家ウィーク」と定めたイベント活動や、京町家の認知度を高め、興味を集める「京町家検定」の開発。これらの活動が同社のマーケットを拡大し、ファンをつくり出している。

 

今、そのマーケットは国内にとどまらず全世界に広がっている。インフルエンサーにYouTube動画を制作してもらい、海外プロモーションを行うなどの取り組みの結果、2020年6月~2022年12月の約2年半で、香港17件、米国14件、中国7件など、海外顧客への販売実績が増えつつある。

 

八清が実践するデザイン経営の根幹には、顧客を創造し続ける仕組みと価値を高める仕組みの両輪がある。

 


米国で最大の不動産業者界団体「全米リアルター協会」の視察(2019年9月5日)

 

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