【第2回の趣旨】
当研究会は、デジタル戦略のケーススタディー・ワークショップを通じてデジタル戦略のロードマップを描くことを目的としている。今期は「従来の見える化手法とDXを横断し、マネジメントをアップデートする」をテーマに掲げ、第2回は「デジタルケイパビリティー」を研究した。
「カメラのキタムラ」「スタジオマリオ」を運営するキタムラを講師にお迎えし、デジタル技術を使いこなせる“組織的な能力”である「デジタルケイパビリティー」を高める人材育成の手法を学んだ。
開催日:2023年11月13日(東京開催)
取締役 常務執行役員 柳沢 啓 氏
はじめに
キタムラは、1934年に町のカメラ店として「キタムラ写真機店」を高知県で創業。その後、カメラの普及とともに成長し、巨大カメラ専門チェーンへと事業規模が拡大した。現在では「カメラのキタムラ」637店舗、子ども写真館「スタジオマリオ」355店舗、Apple正規サービスプロバイダ認定店67店舗の計1059店舗(2023年11月現在)の運営に加え、年賀状印刷やネットショップなどのオンラインサービスを提供している。
1999年にインターネット事業を開始し、2006年ごろからリアル店舗とECを融合した「オムニチャネル戦略」を展開。全てのECサイトで店舗受け取りにするか宅配にするかを選べることで顧客の利便性を高めているほか、スタジオマリオではAI活用により衣装の補充発注額を3分の1削減できた。
1934年に創業したキタムラは「カメラのキタムラ」をはじめ、さまざまな事業を展開している
まなびのポイント 1:A to Dへの挑戦~まずは1人が変わる~
柳沢氏は、1997年にキタムラへ店舗スタッフとして入社後、営業企画兼バイヤーを経て2008年にEC事業責任者となった。ECについての知見はなかったものの、店舗スタッフ時代に得た現場目線から「キタムラネットショップ」とリアル店舗との連携が重要であると提言。顧客が店舗で受け取った商品は店舗の売上高として計上するなど、店舗との協力姿勢を得やすい仕組みをつくった結果、店頭にない商品を求める顧客に店舗スタッフがECを案内するなど協力姿勢が深まった。品ぞろえとコスト面で強みを持つECと、すぐに受け取れる利便性や安心感を持つリアル店舗とのシナジーにより、EC・店舗売上高ともに増収へとつながった。
A(アナログ)to D(デジタル)を成功に導くためには、現場目線を持った統括の存在が不可欠であると言えよう。
実店舗やECサイト、SNSなど、さまざまなチャネルを連携させ、販売促進や顧客満足度を向上させることに成功
まなびのポイント 2:D to DXへの挑戦 ~伝播するチーム作り~
デジタル人材とDX人材はまったく違う。先端技術を活用することで企業に価値をもたらすのがデジタル人材であるのに対し、DX人材は先端技術を活用するだけでなく、従来のプロダクトや業務、顧客体験、従業員体験などを変革し、プロジェクトをけん引することが求められる。キタムラでは、自社固有の悩みを現場スタッフと一緒に考え、解決することでデジタル人材からDX人材へのステップアップに取り組んだ。
例えば、問い合わせがコールセンターに集中していた課題に対し、サイト行動履歴・社内情報のアクセス履歴を分析した。半年間閲覧されていない資料を削除するなど、情報の選択と集中を行い、コールセンターへの無駄な問い合わせを半減させた。余力分を店舗の予約受け付けに充てたところ、予約獲得数が前年比5%以上の増加につながり、コストセンターからプロフィットセンターへの転換を成功させた。
ウェブページの最適化、チャットボット活用、社内情報整理によって、コールセンターへの問い合わせを半減させることができた
まなびのポイント 3:D to Aへの挑戦 ~相互作用する組織づくり~
今後はデジタルとアナログが相互作用する組織づくりを目指している。例えば、中古カメラの査定はベテラン従業員のノウハウ頼みとなっており、約6000名の従業員のうち50名程度しか査定ができる人材がいなかったことから、AIを活用した査定システムを開発した。タブレットで買取端末を撮影し、チェックリストをもとに状態を確認するだけで、知識のない従業員でも査定ができるようシステム化を行い、拡大する中古カメラ市場におけるプレゼンスを高めている。
キタムラでは、デジタルとアナログを交差させることにより、商品の拡張など新たな価値創造に挑戦している。デジタル人材が店舗スタッフとの協力関係を構築し、融合した環境こそが、店舗オペレーションを大きく変え更なる企業成長へと繋がっていくだろう。
AIを活用した査定システムによって買取金額が増加するとともに、従業員の生産性も向上した