デザイン経営モデル研究会では、デザインの力を経営に活用する「高収益デザイン経営モデル」実践企業を視察し、経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験。
第6回は、株式会社ヴィスの講義で「プレイスソリューションとデータソリューションから導くワークデザイン」、株式会社ジェイスリーの講義で「デザインの力でブランドをより効果的に発信 ~他社事例に学ぶブランディング戦略と多様なブランディングツール~」についての秘訣を学び、デザイン経営の本質に迫った。
開催日時:2023年8月4日(東京開催)
代表取締役会長 中村 勇人 氏
はじめに
オフィスデザイン業界の中でも異質の存在感を放つ株式会社ヴィス。事業スタート時は事業計画もなかったが、年に1つは新しいことをしようと心に決め、中村氏はヴィスを立ち上げた。
状況が好転したきっかけは2003年の町工場との出会いだという。この出会いによって、「仕事を通じはたらく環境」がもたらす人・会社への影響を目の当たりにし、オフィスデザインの秘められた可能性を発見した。
時代の変化が激しい中でも、今なお同業界のリーディングカンパニーとして位置するヴィスの考える「オフィスデザイン」の本質に迫った。
講演当日の様子
まなびのポイント 1:ワークプレイスの変遷による新たなカタチ
新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、人々の働くことへの価値観は大きく変化し続けている。オフィス空間は、上司にとって管理命令がしやすい作業空間→組織として機能しやすい協働空間→多様なニーズに合わせて生産性を高める空間へ変遷している。
これまでは、会社の業務方針に合わせて「オフィスをどのようなデザインにしたいか」が重視されていた。しかし、オフィスに留まらないハイブリットワークの時代へ遷移した今、時代に合わせ、「どのような働き方にしたいか」というニーズからオフィスをデザインする「ワークデザイン」という考え方をヴィスは築いたという。
その考え方に合わせ、従来のデザインとクリエイトに加え、プログラミングとアップデートというプロセスを増やし、新たなITツールも活用して、LTV向上とバリューチェーンの高付加価値化を実現するヴィス独自のビジネスモデルを確立した。
時代の移り変わりと同時に自社のビジネスモデルもアップデートすることで、他社と差別化し、現代社会で生き残り続ける会社になるのである。
「はたらき方」そのものをデザインするワークデザインの考え方
(ヴィスコーポレートサイトより抜粋)
まなびのポイント 2:はたらき方のデザイン−企業理念体系の明確化と社員への浸透−
ワークデザインを提唱する同社であるが、最も重要なことは企業理念体系の明確化と社員への浸透だと中村氏は言う。企業理念体系を社員が理解しやすい形に見える化し、そこに込められた想いを分かりやすい形に咀嚼してクレドへ落とし込み、全社員が共有することで浸透させるのだ。
「はたらく人々を幸せに。」というパーパスは社員が100%その意味を理解するほどまでに浸透している。これは中村氏がオフィスの出入り口に座を構えて挨拶をする、進んで会社の始業準備をするなど、クレドに記載されている価値判断基準をトップ自らが率先垂範しているためである。
ヴィスのクレド(講義資料から抜粋)
まなびのポイント 3:カルチャーを育む施策
同じベクトルを持つためには独自の言葉や取り組みを創造することが重要である。そうすることでオリジナリティが生まれて独自の文化が醸成され、組織として強固なものになっていくのだ。
同社ではヴィスカルチャーとしてデイリー、マンスリー、イヤリーでルーティンコミュニケーションパイプを設けており、このアクションの1つ1つにオリジナルの名称がついている。新卒社員と役員とのミーティングは「ジェム(「原石」の意味)ボーディング」、新卒社員2年目と役員とのミーティングは「ステラ(「星」の意味)ボーディング」)などである。
また、クレドを毎朝唱和している。ただ単に読み合わせるだけでなく、メンバー1人がクレドの1項目についてのエピソードをスピーチする時間もある。社員1人1人に会社の目的が自分ごととして落とし込まれ、自身の行動、さらには生き方の価値観まで紐づいていくのだ。
環境を変えることで、人が変わり、会社も変わる。結果、社員の人生も変わる。オフィスをデザインすることは社員と会社の未来をデザインすることである。
ジェムボーディングの実施場面。1年間週4回実施し、社員とのコミュニケーションの場としている
(講義資料から抜粋)