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【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2023.11.02

乾燥地農業における現状と課題、その解決策:鳥取大学 乾燥地研究センター

【第1回の趣旨】
アグリサポート研究会(第8期)は、「アグリ分野でのサステナビリティ(持続的成長)モデルを追求する」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第1回のテーマは「科学と世界視点」。これからの農業は、より科学的な視点からアプローチし、生産性と効率性を重視する必要がある。また、最先端の情報を得るには、グローバルなネットワークの構築や情報の受発信も重要であるため、それらに関する取り組みの先端事例を視察した。
開催日時:2023年9月28日(鳥取開催)

 

 

鳥取大学
乾燥地研究センター長 教授 農学博士 辻本 壽 氏

 

 

 

はじめに

 

鳥取大学乾燥地研究センターは、世界の砂漠化などの乾燥地問題に組織的に取り組む、日本で唯一の研究機関である。前身の砂丘利用研究施設の時代から、砂丘地の農業利用についての研究を行ってきた。今でこそ砂丘は鳥取県の大事な観光資源だが、研究が始まった1923年には大きな悩みの種だった。農作物は育たず、人力で灌漑(かんがい)作業をするも、“嫁殺し”と言われるほどの重労働だった。さらには砂が風で運ばれ、他の作物などへの被害も多かった。

 

こうした課題を科学で解決するために同研究施設が立てられ、世界の農業研究を参考に、日本で初めてスプリンクラーを利用するなどの実績を上げた。他にも全国のさまざまな乾燥地の課題を解決したが、世界的な砂漠化進行の問題を鑑み、1990年に乾燥地研究センターと名称を変更。日本だけでなく、世界の乾燥地の研究に重点を変更した。

 


砂漠化や干ばつなどの乾燥地の諸問題の解決と、乾燥地の持続可能な発展を目標に研究を行う鳥取大学乾燥地研究センター(鳥取県鳥取市)


 

まなびのポイント 1:国内外の研究を推進する最先端の研究設備

 

同センターは国内の研究機関・大学と乾燥地に関する共同研究を実施し、センター内の最先端施設・設備を共同利用に開放している。全国から多くの研究者や大学院生などが集まり、研究成果の発表や特別講演などが行われ、国内のネットワーク構築の中心となっている。

 

また、日本は乾燥地(国・地域)から多くの穀物を輸入しており、乾燥地における課題は穀物の価格上昇などにつながるため、他人事ではない。そこで近年は、施設・設備の国際共同利用も行っており、主に発展途上国の研究者への利用促進を進めている。

 


世界の乾燥地の砂を採取・展示

 

 

まなびのポイント 2:乾燥地植物を地下で支える菌根共生

 

乾燥地においても、植物はさまざまな微生物と共生関係を営んでいる。中でも「菌根菌」と呼ばれる菌類との共生は、植物の成長やストレス耐性を向上させるためにも重要である。

 

菌根菌は土の中に広げた菌糸から集めてきた養分や水分を植物に与える。一方で、植物は光合成による炭水化物を菌根菌に与え、植物と菌根菌は互いに支えあって生きている。

 

植物は、菌根菌から養分と水分をもらえるため、成長が促進され、乾燥ストレスへの耐性も向上する。鳥取市の農業法人トゥリーアンドノーフでは、この菌根菌を利用した「水のない水田」の実験を行い注目されている。

 

 

まなびのポイント 3:「高温地球時代」への対策(干ばつ対策、高温への対応)

 

2023年、世界の平均気温が最高を更新した。全地球的な高温化に対し、対策が急がれる。耕作地は今まで通りの農業ではもう広げられない。乾燥地の利用が重要となる。

 

乾燥地での農業には、①乾燥耐性、②高温耐性の2つが求められるが、これらは二律背反の場合が多い。例えば、高温に強い植物は、葉から水を蒸発して循環を早くしている=水が大量に必要であり、乾燥には弱い。

 

世界のバイオテクノロジーを駆使し、乾燥・高温環境に耐える小麦の品種改良など、食料問題の解決に向けて取り組んでいる。

 

同センターのアリドドーム実験施設。

 


1998年に整備されたドーム状のガラス温室で、乾燥地のシミュレーション実験を行える

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