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【研究リポート】

ビジネスモデルイノベーション研究会

秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート2023.10.25

穏やかな未来のために持続可能な酪農の構築:株式会社 Kalm角山

【第3回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、両利きの経営における知の探索をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問する。そのビジネスモデルを構築している経営者・経営幹部の方から直接講義いただくとともに、現地訪問によってビジネスの現場に触れることで、イノベーションを「体感」する機会を提供している。
今回は「最強の差別化戦略としてのブランディング~オンリーワンバリュー創造への挑戦~」をテーマに、計画的にスマート酪農を推進しSXを実現するKalm角山と、独自の戦略でCXを追求し続けるどんぐりの2社にご講義いただき、両社が実現してきた成功と成長の軌跡からビジネスモデルイノベーションとチャレンジ精神の神髄を学んだ。
開催日時:2023年6月28日、29日(北海道開催)

Kalm角山
代表取締役 川口 谷仁 氏

 

 

はじめに

 

Kalm角山は、2014年に石狩管内江別市および札幌市の5つの牧場が共同で設立した酪農企業である。同社は従来の酪農に先端技術を取り入れ、DXでスマート酪農を推進している。個体管理が可能な8台の自動搾乳ロボットやバイオマスプラントなどを導入し、年間の生乳出荷量は6,400tを超える。

 

協業法人化をするなど経営の効率化に注力し、サーキュラーエコノミー(循環型経済システム)への取り組みよってゼロカーボンなどの社会課題にも対応している。このような先進的な数々の取り組みによって、独自のポジションを確立した同社は、国内における酪農業の先進・優良事例として毎年多くの関係者が視察に訪れているモデル企業である。

 


 

まなびのポイント 1:農業法人として設立するまでの経緯と永続的営農環境を実現する仕組み

 

家業から事業へ、酪農家から酪農業へといったように「業」とすることで、①スケールメリットを生かした作業能率の向上や生産コスト削減による永続的営農環境の整備、②江別市角山地区の生産基盤の維持保全と地域の発展への貢献、③生乳の安定供給が可能となり、サツラク農協を通じて消費者への安全で良質な牛乳を提供している。

 

食の安全確保・生産性向上と、企業としての責任であるガバナンス・コンプライアンスの遵守により、社会から信頼される企業へと成長し続けている同社。将来的には酪農業として日本初のIPOも目指しているという。


牛舎。480頭もの乳牛が自由に歩き回れ、8台の自動搾乳機や自動摩擦ブラシ、自動餌押し機など徹底した効率化がなされている

 

まなびのポイント 2:酪農にロボットを活用するメガロボットファーム構想

 

日本初のロボットシステムである8台の24時間自動搾乳機や、首輪に付けたセンサーでの個別管理、乳量・乳質データの一元管理により搾乳に関わる拘束時間が短縮され、人件費約1000万円~1500万円の削減効果を得ている。

 

乳牛を首輪のセンサーで管理し、搾乳に適した状態の時のみ搾乳ロボットのゲートが開く仕組みとなっている。また、乳牛は牛舎を自由に歩き回っているため、ストレス軽減にもつながっている。


自動搾乳機。レーダーで位置を正確に把握し、搾乳する

 

まなびのポイント 3:Kalm角山が考えるアグリ業界と未来

 

畜産経営に起因する苦情のうち、悪臭問題や水質汚濁問題は特に件数が多い。その解決に向け、同地域では廃棄物を再利用しながら循環型農業へチャレンジしている。

 

具体的には、牛の糞尿やコカ・コーラから回収したコーヒー粕をバイオマスプラントで発酵・発電し、その過程で作られた消化液を戻し堆肥として牛のベッドとして再利用している。また、発電で生まれる熱を売電して収益化するとともに、バイオマスプラントとして再利用することで環境と地域に貢献する酪農を実現している。


バイオマスプラント。300kwhの発電力を有する

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