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【研究リポート】

人的資本研究会

人材を投資により生産性を高められる「資本」として捉え、人的資本と活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)の視点で事例研究を進めます。
研究リポート2023.09.19

自社の採用市場を創造する:NPO法人G-net

【第4回の趣旨】
採用を経営課題と捉え、全社的に推進していく「戦略採用」を実践する企業に、そのエッセンスを学ぶ戦略採用研究会。当研究会では、採用の成功事例を研究し、採用難の時代でも自社の戦略にマッチした人材を獲得するためのイノベーションのヒントを提供している。

第4回は2法人のゲスト講師を迎え 、ゲスト講師による講演と、研究会参加者のディスカッションを実施し「自社に合った採用活動構築の仕方」の学びを深めた。また、採用に関して専門的な知識を有するタナベコンサルティングのコンサルタントによる解説を実施。経営戦略に基づいて人的資本を配置し、それらを適切に組み合わせて企業価値を高めていく、「人材ポートフォリオ」の考え方のもと、自社が採るべき採用戦略についての研究を行った。

開催日時:2023年8月25日(大阪開催)

 

NPO法人G-net
副代表理事 田中 勲 氏

 

はじめに

 

G-netは、2001年に立ち上がった団体で、地域の中小企業と挑戦意欲の高い若者をつなげ、若者の育成と地域産業の活性化を両輪とした地域づくりの支援を行っている。

 

実践型インターンシップや、中小企業に特化した新卒就職採用支援、プロジェクト型の副業兼業マッチング支援など、地域の雇用に係るさまざまな取り組みを展開している。

 

多くの企業、特に地域の中小企業がぶつかる大きな壁になる人材確保の課題に対し、インターンや兼業等といった外部人材の活用を通じたソリューションを展開してきた。

 

今回はG-netのこれまでの企業や地域への支援事例や実際の企業の取り組みについての講演を通じ、「自社の採用市場を創造する」ことをテーマに理解を深めた。

 

地域の当事者となる人材の育成と、活躍するフィールドとなる産業の活性化を通じ、変化や成長を実現できる地域づくりを目指している(G-net2021年度アニュアルレポートより抜粋)

 


 

まなびのポイント 1:人材戦略の柔軟性を高める

 

多くの中小企業で人材不足、リソース不足が叫ばれているが、ここでの学びのポイントは外部人材の活用や、正社員以外の人材活用の視点である。

 

G-netでは、長期実践型のインターンや兼業プラットフォームを持ち、多くの企業を支援している。この取り組みで、社内に足りない知識や知恵、専門性を、エリアを超えて集めることができる。そして中小企業にとっての事業加速のリソース拡大、これまで活かせていなかった人材を活かせる組織としての成長につながるのだ。

 

G-netの支援例として、衰退に直面する中、新規事業開発に意欲的なインターン生を長期で採用し、成長につなげた企業がある。外部人材の活用を通じて新たな事業に挑戦し、メディアでも数多く取り上げられるなど大きな飛躍を遂げた。

 

また、外部のリソースを活用しながらノウハウを蓄積し、人を活かす組織づくりを推進し、人が集まる組織へと変革。新卒から新規事業に取り組める環境づくりや、若者を活かす組織づくりで売上・社員数ともに向上していった。

 

G-netでは、このように人材戦略に柔軟性を持たせる事業を通じ、企業成長を支援しているのである。

 

まなびのポイント 2:長期視点で勝てる採用戦略を描く

 

採用施策は、短期の施策と長期の施策に分けられる。就職情報サイト掲載や合説出展、採用直結のインターン実施など、一般的に企業が行う採用施策の多くは、ここでは短期に分類する。こういった施策は、他社が創造した市場を利用する施策であり、かけた工数と費用が成果に直結するため、相当な覚悟と資源が必要である。

 

一方で長期の採用施策とは、オウンドメディアでの情報発信や低学年向けインターン、さらには新規事業開発・新領域などへの挑戦によるブランディングや組織体制を通じて、企業価値を高めようという考え方である。それは自社採用市場の創造に直結する。

 

G-netが支援する中小企業の多くは、意欲的なインターン生や兼業等の社外活用を通じて、新たな価値を生み出しながら、組織変革を推進している。すると企業価値が高まり、その結果、意欲ある人材が集まり始める。

 

一見遠回りのようでも、まずは企業の魅力を高めた後に魅力を発信することで、中小企業でも勝てる市場を自ら構築しているのである。

 


G-net副代表理事・田中氏による講演の様子

 

まなびのポイント 3:意味報酬の価値化

 

長期的な採用施策が中小企業でも勝てる市場構築につながることを学んだが、企業価値が高まった状態で魅力を発信する際に重要なのが、意味報酬の価値化である。意味報酬とは、金銭(経済報酬)以外の報酬を指す。魅力的な事業、共感するビジョン、人が育つ・安心できる環境などが該当する。

 

例えばG-netの支援企業に、インターンシップ自体がブランド化している事例がある。学生に必要なことを教えつつ裁量権を渡し、インターン生だけの事業部を創出。その後インターン生で売り上げを上げられるほどとなった。

 

さらにインターン生90名以上の受け入れ実績をブログへ蓄積し、そのノウハウをまとめて書籍化。多様な経験を積みたい意欲的な学生に対し、インターン段階から多くの裁量権が与えられビジネスに参画できることを、提供価値として発信しているのである。

 

結果、裁量権を持ってビジネス実践を積めるインターン先として認知度が向上し、自社の採用市場を構築。意味報酬の価値化が潜在的なファン増加と企業ブランドの向上、総合的な採用力強化につながっている。

 

長期施策と短期施策の分類(講演資料より抜粋)

 

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