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【研究リポート】

ヘルスケアビジネス成長戦略研究会

想定される2040年の地域医療。大きなゲームチェンジが起きる中、本研究会を通じ今後の予防・医療・介護サービスで選ばれる経営モデルを開発していきます。
研究リポート2023.08.24

経営改善とTPS(トヨタ生産方式)の導入:公益財団法人豊田地域医療センター

【第1回の趣旨】
ヘルスケアビジネス成長戦略研究会では、「『2040地域ケア型経営モデル』の実現」をコンセプトとして掲げている。地域医療の重要性や高齢化が進む日本において、病院(医療法人)の約4分の1は赤字経営と言われている。しかし、このような状況においても安定的な経営や組織を構築している企業がある。第1回では「病院における経営」というテーマで、公益財団法人豊田地域医療センター、小倉記念病院より取り組みの経緯や内容、成果についてご講義をいただいた。

開催日時:2023年2月24日

 

 

豊田市・藤田医科大学連携地域医療学
准教授 大杉 泰弘 氏

 

 

はじめに

 

地域における中小病院の役割は多岐にわたり、広く日本の医療・福祉を支えている。しかし、経済の停滞、高齢者社会の進行、住民の意識の変化や医療・介護報酬の動向によって中小病院の役割は大きく変化していく。

 

そのような変化の激しい環境において、「価値の発揮は難しい」と考える経営者も多いかもしれないが、自病院を客観的に見て、競合優位性を正しく認識することで新しい方向性が見えてくる。そして、新しい方向性を信じる気持ちと発信する力が経営者(責任者)には必要なのだ。

 

豊田地域医療センターは、2014年までは赤字経営状態であったが、2022年現在は単年度黒字化を達成しており、医師の平均年齢も30代と組織力も盤石である。今回は、在宅医療の立ち上げを主軸とした病院経営について、准教授の大杉泰弘氏にご講義いただいた。


在宅医療に向かう大杉准教授

 


 

まなびのポイント 1:中⼩病院の新しい価値の提供

 

同社はまず、在宅医療部門を新しく立ち上げ、売り上げの底上げを図った。

 

患者からの新規紹介に注力し、在宅医療部門開設当初はルート開拓に奔走。近隣の医療機関と連携し、次の5つを重点項目に置くことで患者からの信頼獲得に成功した。

 

①24時間365⽇の診療体制

②訪問診療依頼即⽇対応

③在宅看取り

④がん患者・⾮がん患者の終末期対応

⑤⿇薬を⽤いた疼痛緩和ケア

 

2015年の開設当初は4000万円でスタートしたが、2018年は4億円近くと、約3年で10倍の売り上げを達成した。


丁寧な研修プログラムで新人医師をサポート

 

まなびのポイント 2:総合診療科の開設と若⼿総合診療医師の獲得

 

在宅医療の成功を機に、組織としての小さな成功体験を積み重ね、社内外から認められる存在になった豊田地域医療センター。土台を整えることで発信力を高め、最初は理解度が低い存在であったが、徐々に医療従事者にも認知されてきた。そこで同医院は、これまでの縦割り組織の改革に取り組んだ。

 

取り組みを進める中で課題が見つかり苦戦したものの、情熱と行動力を大切にして並走する仲間を増やした。若手の医師確保については、専攻医への丁寧な教育を提供し、リクルートなどにも積極的に取り組んだ結果、2022年までに78名の医師を総合診療医として獲得・育成することに成功した。

 

まなびのポイント 3:医療法⼈におけるTPS(トヨタ生産方式)の導⼊

 

現場の整理・整頓は、業務環境の改善において当たり前のことであるが、日々の業務に追われ、取り組めない状況であった。そこで同医院は、4S (整理・整頓・清潔・清掃)を基本に、①現地現物・コミュニケーションを大切に(現場を必ず見て指示を出す。そのためのコミュニケーションを怠らない)、②小さな改善を積み重ねる、③人づくり(人材は宝であるという共通認識を持つ)、この3点を押さえながら業務改革に取り組んだ。

 


4S活動に取り組む前(上)と取り組んだ後(下)

 

 

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