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【研究リポート】

建設ソリューション成長戦略研究会

人件費・資材の高騰、地方の衰退など、外部環境の変化に合わせて提供価値を進化させている企業を研究し、建設業界の発展に寄与する機会を作っています。
研究リポート2023.07.12

ブレンドラーニング構築による早期育成の取り組み:JR九州電気システム株式会社

【第4回の趣旨】
建設ソリューション成長戦略研究会では、秀逸なビジネスモデル・経営ノウハウを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を創出し、経営改革・業務革新のヒントを提供する。
第4回は、建設業における「人材育成強化」「DX技術開発」について、先駆的な取り組みを行っているJR九州電気システム、Polyuse(ポリウス)の2社に講演いただいた。

開催日時:2023年4月26日、27日(九州開催)

 

 

JR九州電気システム株式会社
代表取締役社長 小林 宰 氏 による講演

 

 

はじめに

JR九州電気システム(KDS)は、1952年の創業以来、主に鉄道電気工事を通して、列車の安全・安定運行と地域の発展に貢献している。1989年には「JR九州グループ」の一員となり、九州新幹線建設をはじめ、北海道の整備新幹線建設工事や大規模高架化工事などの鉄道電気工事を手掛けた。また、福岡県・博多駅ビルに代表される建築設備工事、通信事業や太陽光発電事業などの新しい分野にも事業を拡大。 2020年、「JR九州電気システム」に社名を改め、JR九州グループの中核にふさわしい会社を目指して再スタートした。

 

想像を超える技術革新が起きるデジタル社会も、さまざまなインフラがなければ成り立たない。社会基盤となる鉄道などのインフラを現場でつくり、支え続ける専門的な技術・技能と人材が、同社の強みである。

 

 


KDSアカデミーの設立目的

出所:JR九州電気システム講演資料


 

まなびのポイント 1:人材育成のプラットフォーム「KDSアカデミー」の取り組み

同社の成長を実現する戦略の柱、「人材戦略」の1つとして、同社は「KDSアカデミー」を立ち上げた。「人を育てることが事業競争力を向上させるエンジンとなる」というトップの考えからである。背景には、 「現場ですぐ使える人材が欲しい」という要望が多く、新卒社員の教育が現場のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)のみで、多くの社員が“我流”で仕事をしているという課題があった。そこで同社は教育コンテンツを体系的に整理し、現業部門の主要技術を動画撮影するなどしてデジタル教育コンテンツ化を進めた。

 

建設業が抱える3つの人材難(①技能労働者の不足、②技術者の不足、③経営者の不足)を踏まえると、技術を継承して終わりではなく進化し続けなければならない。この考えのもと、同社は現場の知恵を取り入れながら、全社員が教え合い、学び合い、仕事が楽しくなる状態にしていくため、KDSアカデミーを「人づくりのプラットフォーム」として活用している。

 

 


社員が現場の技術を動画撮影し、製作したデジタル教材(動画)の例

出所:JR九州電気システム講演資料

 

 

まなびのポイント 2:KDSアカデミー定着の工夫

KDSアカデミーの定着は、最初からうまく進んだわけではない。関心が薄く、他人事になりがちだった教育を、全社員が参加でき、「教えも学びも、主体は自分」という意識になれる体制をつくろうと、代表取締役社長の小林宰氏が委員長を務める「アカデミー委員会」を立ち上げ、粘り強くその価値を伝え続けた。また、「育成期間を半分に!」というコンセプトを掲げ、目的が正しく全社員に伝わるようにガイドブックやポスターでインナーブランディングを実行。さらに、KDSアカデミーのコンテンツの拡充に携わった社員にはインストラクターの称号を与えた。KDSを通じて各階層で求められるスキルが明確になったことで、キャリアアップイメージもできた。

 

成功の大きなポイントは、 トップが自ら関わって本気度を見せたことである。組織図に「安全・教育本部」があり、その中に「教育アカデミー部」が設置されていることも、同社の本気を表している。

 

 

出所:JR九州電気システム講演資料

 

 

まなびのポイント 3:アカデミーのメリットと今後の展望

若手社員が増える半面、長年の経験と高い技術を持ち、若手の育成を担えるベテラン社員が減り、鉄道という重要な社会インフラを守る「思い」が薄れてきている。 しかし、動画教材なら時間・場所を問わず、深く広く技術を学べる環境が整う。それに、デジタルネイティブ世代の社員は、デジタルの学びの方が親しみやすい。また、教えと学びの全社統一基準ができることで、拠点やインストラクターが異なっても、高いレベルで技術や仕事の仕方を均質化できるのは大きなメリットである。

 

今後は、KDSの求める人材を「技術力と人間力を兼ね備えた人材」と定義し、技術力に加え、組織で活躍する人材として「人間力」を高めていく。高い技術と強いチーム力を持つ「NEXT KDS」を創っていくためにも、 「教える→教わる→教える→…」という善循環をつくっていくことが肝である。

 

 

出所:JR九州電気システム講演資料

 

 

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