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【研究リポート】

人的資本研究会

人材を投資により生産性を高められる「資本」として捉え、人的資本と活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)の視点で事例研究を進めます。
研究リポート2023.05.22

「採用活動しない採用活動」で学生と向き合う:金井ホールディングス株式会社

【第2回の趣旨】
採用を経営課題と捉え、全社的に推進していく「戦略採用」を実践する企業に、そのエッセンスを学ぶ戦略採用研究会。当研究会では、採用の成功事例を研究し、採用難の時代でも自社の戦略にマッチした人材を獲得するためのイノベーションのヒントを提供している。
第2回は「採用トレンドを捉える」をテーマに2社のゲスト講師を迎え 、ゲスト企業による講演と、研究会参加者のディスカッション、ゲスト企業講師とのコミュニケーション、また、採用に関して専門的な知識を有するタナベコンサルティングのコンサルタントによる解説を通じて、ターゲット人材にアプローチする適切な採用スタイルについて研究を行った。
開催日時:2023年4月28日(大阪開催)

金井重要工業株式会社
取締役副社長 金井 宏輔 氏

 

はじめに

繊維機器事業と不織布事業を軸に、有馬温泉の一角である「古泉閣」を経営するなど、幅広く事業を展開している金井ホールディングス。

 

2013年に会社の後継ぎとして金井宏輔氏が入社すると、「採用活動は会社の未来を担う重要な業務である」との思いで採用業務を引き継ぎ、「採用活動しない採用活動」をテーマに、独特な手法で新卒採用を成功に導いてきた。

 

同社の採用選考には、 エントリーシートも無ければ、志望動機を聞くこともない。それどころか、面接も一度も行うことなく、自社にマッチした人材をコンスタントに採用し続けている。

 

これは決して、金井氏が後継ぎだからできたことでない。学生一人ひとりと向き合うことで、お互いが本音をさらけ出す、正に今の時代に合った採用スタイルについて学びを深めていく。


繊維機器事業では、トラベラ、リング、針布、メタリックワイヤなどを製造。
不織布事業では、PM2.5を防ぐエアーフィルタなどを製造している。

 


 

まなびのポイント1:お互いが本音をさらけ出す採用活動

 

採用活動を大きく変革していく中で、最初に行ったのは「ナビの利用を止める」ことである。大手就活ナビは新卒採用に必須であると思われがちだが、それでは自社にマッチした人材に出会えないと悟り、母集団形成をナビに頼るのを止めた。その代わりに、大学での会社説明会などで学生と直接話し、一人ずつ積み重ねながら母集団形成していった。

 

「悪口を言う会社説明会」をコンセプトに、自社の悪いところを全てさらけ出し、変に着飾るのではなく、「今は悪い所がいっぱいあるが、一緒に明るい未来を創っていきたい」という思いを正直に伝え、学生と本音で向き合った。

 

また、学生との飲み会も積極的に設け、一人ひとりに時間を掛けて向き合うこと、自然体で会話を重ねることで相互理解を深めることに注力していった。

 


今回のご講演の様子。金井氏が会社に対して抱えている不満なども含めて、本音でお話しいただいた。常に本音の金井氏だからこそ、学生にも誠実さが伝わるのであろう。

 

 

まなびのポイント2:“オモロイベント”の開催

 

同社では、学生に興味を持ってもらうために、さまざまな“オモロイベント”を開催している。学生からの人気があったイベントは、金井氏と学生が合意の上で意図的に「圧迫面接」を経験させる「圧迫面接セミナー」、学生の前で人事が採用面接を受ける「人事が就活!」、学生と人事が就活の在り方などについて討論する「激論!学生の不満、人事の想い」などである。

 

同社の採用活動のスタンスとして、採用活動は自社のためでなく、学生の成長を主眼に置いており、いずれのイベントも「入り口はワクワク、出口は気付き・学び」を実現するイベントとしている。時には学生に厳しいフィードバックをすることもあるが、10年後に学生から感謝してもらえることを願って、学生と真摯に向き合っている。

 


「人事が就活!」の開催の様子。事前に打合せなどを行っている訳ではなく、人事が本気で採用面接を受けている。上手くできなかった若手の人事は、その場から逃げ出したくなるほどの緊張感である。

 

まなびのポイント3:採用担当者の心構え

 

同社は毎年必ず新たなチャレンジとしており、オモロイベントの内容も毎年刷新している。

次はChatGPTを使ったオモロイベントを企画したいとのことである。しかし、ただオモロいことをやろうとしているわけではなく、その裏では、採用活動は会社の未来を担っている重要な業務であるという責任とプレッシャーの大きさを常に感じている。そんな中で、採用担当者自身も楽しみながら、プレッシャーに打ち勝っていくことが大切であると説いている。特に大事なのは、会社を好きになること。会社のことが好きでなければ、どんな言葉も学生に響かないし。本音をさらけ出す採用活動とはかけ離れたものになってしまう。

 

会社のことを好きになり、本気の熱量で伝えていくことが何よりも大切である。


採用サイトにも当社の遊び心が感じられる。学生に“オモロい„と思ってもらうために、採用プロセス全体を通じて様々な工夫を施している。

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