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【研究リポート】

ヘルスケアビジネス成長戦略研究会

想定される2040年の地域医療。大きなゲームチェンジが起きる中、本研究会を通じ今後の予防・医療・介護サービスで選ばれる経営モデルを開発していきます。
研究リポート2023.03.20

アドバンスト・ヘルスケア:島津製作所 Shimadzu Tokyo Innovation Plaza

【第5回の趣旨】
ヘルスケアビジネス成長戦略研究会の第5回テーマは最新の「医療業界の技術トレンドの体感」。1日目は京都大学の奥野教授から、医療業界におけるAI技術の最新トレンドをご教授いただいた。2日目は、島津製作所の最新LABOを訪問し、分析技術の最新トレンドと製品開発現場体験を通じた学びを実施。AI技術や分析技術の最新トレンドを理解し、ヘルスケア分野の未来を展望する、専門性が高く内容の充実した2日間となった。開催日時:2022年12月20日、21日(オンライン・東京)

 

講義①
株式会社島津製作所
経営戦略室ヘルスケア事業戦略ユニット マネージャー

山口 亮 氏

 

講義②
株式会社島津製作所
分析計測事業部 Solutions COE ヘルスケアソリューションユニット 副ユニット長

増田 潤一 氏

 

はじめに

島津製作所はアドバンスト・ヘルスケア事業において、分析計測技術と医用画像診断技術を生かし、日常の健康管理から診断・治療・予後管理までのヘルスケア全体における革新的な製品・サービスの提供を目指す。

 

島津製作所は、3つの重点疾患(「がん」「生活習慣病」「認知症、精神/神経疾患」)と感染症に取り組んでおり、日常の健康管理→超早期検査→診断→治療(治療支援)→予後管理の5つのフェーズごとに研究開発を進めている。

 


 

まなびのポイント 1:認知症に対する取り組み

 

認知症の最大の問題点は、医療費に加え、介護スタッフや家族によるさまざまなケアコストが他の疾病に比べ何倍も大きい点である。アルツハイマー病進行に関しては、できるだけ早期にアミロイド蓄積を検出し、生活改善や投薬などによって認知機能の低下を遅らせることが重要である。

 

取り組み1:「血中アミロイドペプチド測定システム」によるアミロイドβの測定
既存のPETイメージングや脳脊髄液(CSF)採取による検査に比べ、低侵襲/低コストと考えられ、スクリーニングに最適。

 

取り組み2:PETによる脳内アミロイドβ蓄積の画像化
高性能なPETにより脳内のアミロイドβ蓄積を画像化する(保険未適用)。また将来の認知症研究や創薬研究に貢献していく。

 

取り組み3:光脳機能イメージングによる認知的な働きの計測への取り組み
fNIRS(光脳機能イメージング)により、日常に近い環境下での脳の活動状態を測定し、脳機能の可視化を実現。fMRIやPETなど他の測定手法に比べ、簡便で安全性が高く、乳幼児や運動・リハビリの回復過程の計測など、動きに対する制約が少ない。さらに2者以上のやり取りで生じる相互作用の計測も可能。認知障害の回復度の確認や予防、神経/精神疾患発症のメカニズムや診断法の研究など脳科学を支える新たな手法として注目されている。

 

 

まなびのポイント 2:がんに対する取り組み

 

従来の乳房専用PET装置など診断部分に加え、早期発見、治療等への技術開発を行っている。

 

取り組み1:血液のメタボロニクス解析による大腸がんの早期スクリーニング
神戸大学との共同研究チームは、高速・高感度GC/MS/MSを利用し、血漿中の代謝物をより高精度に定量できる分析手法を開発中。

 

取り組み2:迅速病理診断支援システム(PESI-MS)
島津の質量分析技術+山梨大学の探針エレクトロニクスプレー法(PESI)と早稲田大学の統計的学習機械(dPLRM)を組み合わせてシステム化。術中に患者から採取した2ミリ角程度の組織片に、数百ナノメートルの極細の針を刺して試料を採取・分析する。術中病理診断時間を約30分から約2分に短縮。複雑な前処理が不要なため、専門の医師でなくても分析が可能。

 

取り組み3:がん光免疫療法による治療支援(NIR-PIT)
IR700から発生する近赤外光を近赤外カメラシステムで画像化を研究開発中。

 

まなびのポイント 3:感染症に対する取り組み

 

取り組み1:全自動PCR検査装置によるウイルス検出
測定に必要な分注前処理工程からリアルタイムPCRを全自動化した遺伝子解析装置を発売。検査時間/費用を効率化できる検体プール検査法の前処理を自動化する検体前処理装置を2022年1月に発売。

 

取り組み2:回診用X線撮影装置
隔離エリアなど任意の場所でのX線撮影が可能なため、肺炎診断で活躍。

 

取り組み3:呼気オミックスによるウイルス検出
オミックスによる新型コロナウイルスの検査法の開発に成功。無侵襲かつ迅速な検査で多面的な解析結果が得られる。将来的に遠隔医療などに展開して革新的な呼気医療の確立を目指す。

 

分析装置の臨床現場での利用事例

 

臨床分野における応用事例として、患者へ投与した薬が正しく作用しているかモニタリングする血中薬物濃度モニタリング、急性の毒物を飲んでしまった際や、誤って薬を飲んでしまった時の診断補助など、対外診断や臨床研究に加え、臨床とは異なるが隣接した領域として法医学分野において、分析機器が活用されている。

対象成分への選択性からGC/MS(GC/MSMS)、LC/MS(LC/MSMS)が主流である。

 

 

 

まなびのポイント 4:前処理およびその自動化が注目

 

血中薬物濃度測定を中心に機器分析、特にLC/MS、GC/MSの普及が進むにつれて、前処理およびその自動化が注目を浴びている。LC-MSMSに接続可能な、全自動前処理装置CLAM-2030/2040により、前処理操作における人的差の低減、省力化が期待される。

 

全自動前処理装置付きLC-MS/MSシステムは、LC/MSによる分析では抗原抗体等が不要であることからアプリケーション面での拡張が容易であり、バイオマーカーなどの臨床研究成果を社会実装しやすい手法として期待される。

 

臨床研究の分野で、免疫抑制剤などの実際の分析に用いることで、実証検証が進んでおり、今後、大学病院等へ普及が進むと考えられる。

 

 

 

視察 Shimadzu Tokyo Innovation Plaza

 

4F Multipurpose Halls

Main Hall(大ホール)、ICHIHANA(中ホール)と2つの多目的ホールを備えている。国際学会やシンポジウムの招聘と開催が可能。オープンエリアも活用して先端研究者との交流を促進。

 

3F Green Science

石油化学・エネルギー・食品分野等の開発・製造、大気・環境水・水道水中の有害物質確認、工業製品中の有害物質の確認、生活空間中の異物解析など、人々の生活を支える様々なソリューションを提案。

 

2F Healthcare Science

医薬分野の開発・製造、様々な疾病マーカー探索、食品中の残留農薬やアレルゲン物質の確認、環境水・水道水中の有害物質の確認など、人々の健康を支えるソリューションを提案。

 

2F Optics Science

島津製作所のコア技術の一つである分光・X線技術。医薬・食品・化学分野等での開発・製造、食品・環境中の異物解析、工業製品中の有害物質の確認など、幅広いソリューションを提供する。

 

 

1F Material Science

金属・プラスチックから工業製品、さらには医薬・食品・生体試料に至る様々な素材の物性計測、表面観察、内部観察などの多角的評価を実施。

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