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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

デザイン経営モデル研究会

経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート2023.02.16

『強み』に特化したブランディングでステークホルダーから“選ばれる存在”へ:三和建設

【第2回の趣旨】
「デザイン経営」とは、デザインを「企業やビジネスモデルそのものを差別化する経営資源」と捉え、受け手側の体験価値を高め、自社らしさを醸成する経営手法である。当研究会では、デザインの力を経営に活用する「高収益デザイン経営モデル」実践企業を視察し、経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験。第2回は、三和建設の講義で強み特化したブランディング、ピエトロの講義でファンベース経営の秘訣について学び、デザイン経営の本質に迫った。
開催日時:2022年12月23日(横浜開催)

三和建設株式会社 執行役員 東京本店長
安藤 知広 氏

 

はじめに

日本経済の悪化に伴い2000年から2012年は建設業の冬の時代。三和建設も例外ではなく経営危機に陥った。厳しい資金繰りを背景に、人、モノのリストラも実行。当時は倒産の回避が最優先事項であった。
危機を通じて得た気付き、それは「人」こそが三和建設にとっての真の資産であること。技術を高めることも、体系化してお客様に提供することも、若手を育成して未来につなげることも、全ては人。『つくるひとをつくる®』、この経営理念に基づいたさまざまな取り組みで、いかに「人」に選ばれる会社となったのか。中小ゼネコンが独自のブランドを構築し、V字回復を成し遂げたその秘訣を紐解きたい。

 


 

まなびのポイント 1:中小建設業における集中戦略

 

総合建設業であるが故、事業領域は多岐に渡る。しかし、「何でもできる」は「何もできない」のと一緒。何より、やみくもな営業活動では有限な人材を守ることも育成することもできない。経営理念を実現するための集中戦略として三和建設では、事業領域を絞り込んだ3つの事業ブランドを立ち上げた。特殊工法を利用した個人地主向けマンション事業「SI200」、難易度が高い食品工場「FACTAS®」、冷凍冷蔵倉庫・自動ラック倉庫・危険物倉庫などニッチな特殊倉庫「RiSOKO®」の3ブランドである。トップが明確に経営理念を打ち立て、方向性を明確化する。そして理念に共感した社員が行動する。強いブランドはトップの意思から始まると言えるのではないだろうか。

 

「食品工場(FACTORY)」に「価値を足す(TAS)」で「FACTAS®」。設計や施工の難易度が高い、食品工場に特化した三和建設の事業ブランド

 

まなびのポイント 2:共感から始まるブランディング

 

FACTAS®ブランディングの根幹にあるのは徹底したクライアントの理解だ。食品業界団体の会合への参加、食品工場の見学会、食品業界の展示会・セミナーへの参加など、自社の事業領域ではなくクライアントの業界内での情報収集で知見を深めた。

 

また、ワーキンググループの立ち上げや顧客の商品の試食会など、自社の社員がクライアントを理解しようとするマインドを醸成するインナーブランディングを平行して実施してきた結果、現在では食品業界紙に寄稿できるほどクライアントの理解が深い社員が育成され、それがまた顧客から選ばれる理由となっている。

 

成功事例・失敗事例を掲載した技術標準書「FACTAS-TEC」で技術を体系化。全社員がいつでもどこでも閲覧できる

 

まなびのポイント 3:ブランディングの成果

 

FACTAS®のブランドを掲げてから10年。ブランド力向上により直近1年間では電話問い合わせ・HP問い合わせだけで60件、展示会でも年間100件を超える引き合いを獲得するほどに業界内でのポジションが確立できた。立ち上げ当時は社内での理解も少なかったが1件の大口受注が風向きを変え、有効商談件数(ブランディングのKPI)の見える化など、成功体験の積み重ねがブランドの確立につながった。

 

業績にも勝る大きな成果と言えるのが、社員の自信と成長だ。食品工場なら大手にも負けないという誇り、領域を絞ったことで得られた深い知見、その活用で得られるクライアントからの感謝。これらがまた、「つくるひと」をつくっていく。

 

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