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【研究リポート】

デザイン経営モデル研究会

経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート2022.12.26

現場視点のデザイン経営に向けて~デザイン・デザイン思考・デザイン経営の相互の関係性から~:国立研究開発法人産業技術総合研究所

【第1回の趣旨】
「デザイン経営」とは、デザインを「企業やビジネスモデルそのものを変革する経営資源」と捉え、顧客の体験価値を高め、自社らしさを醸成する経営手法である。当研究会では、デザインの力を経営に活用する「高収益デザイン経営モデル」実践企業を視察し、経営の現場でデザインがどう活用され、他社との差別化、社員の活躍と成長、地域社会との共創を実現しているかを体験。その本質に迫っていく。第1回は、日本デザイン振興会と産業技術総合研究所の講義でデザインとは何かを学び、デザイン経営の実践企業である丸和運輸機関を視察した。
開催日時:2022年10月24日、25日(東京開催)

 

産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域 製造技術研究部門
招へい研究員 手塚 明氏の講話を受ける研究会参加者

はじめに

産業技術総合研究所招へい研究員で、構想設計コンソーシアムの会長も務める講師の手塚明氏が、デザイン・経営工学・機械工学・計算工学の知見から、「デザイン」「デザイン思考」「デザイン経営」の関係性を解説。「『デザイン経営』宣言」(経済産業省・特許庁、2018年)の読み解き方を示しながら、「現場視点のデザイン経営」についての講話とミニワークショップを行った。講話の冒頭で、手塚氏は「自社の事業目的や企業DNAの探索などの社内マーケティングこそがデザイン経営の鍵を握る」とし、外部環境や市場のニーズにとらわれすぎず「自分たちでベストプラクティスを創る」という意識を持つことが重要であると述べた。研究会参加者は、デザイン経営に取り組まなくてはいけないという課題意識や危機意識を持ちつつも、「デザインがよく分からない」「腑に落ちない」と感じて動けない、という悩みを解決する実践方法を学んだ。

 



出所:産業総合研究所 外来研究員(山形県工業技術センター 連携支援部 デザイン科)木川 喜裕氏作成

まなびのポイント1:多様性の高いチームが認知バイアスの違いを活用することでイノベーションを起こす

 

「イノベーションの金銭的な価値」と「メンバーの多様性」の関係において「チームメンバーの多様性(ダイバーシティー)が上がると価値の上限(ブレークスルー)は上がるが、平均値は下がる」ことが示されている※。多様性が低いと専門分野の思い込み(認知バイアス)にとらわれ、イノベーションが起こりにくい。一方で、共通項等の平均値操作ではダイバーシティの効果が活かせない。違いを楽しみ活かすことで、上下関係の呪縛から解放され、社内モチベーションが向上し、パーパス経営の議論もしやすくなる。イノベーションの議論も出来、社内外のエンゲージメントが高まり、業績にも好影響を与える。この好循環を起こすキーワードが「デザイン」「デザイン思考」「デザイン経営」である。

※「学際的コラボレーションのジレンマ」『ハーバード・ビジネス・レビュー』2004年12月号


人を動かすデザインをするためには、その人の体験をデザインするUXデザインがキーとなる。
出所:手塚氏の講演資料

まなびのポイント2:「デザイン経営」実践の条件

 

条件の1つ目は、前述したイノベーションと多様性の関係性を理解し、自然体のダイバーシティー&インクルージョン実現の努力をすること。2つ目は、チーム(組織)の多様性や違いを楽しみ生かすことを阻害する要因を取り除くことである。誰もが無意識に持っているアンコンシャスバイアス(知識、専門性、経験値、勤続年数、キャリア、性別などに関する無意識の差別意識)に気づき、その違いを尊重し、その背景の議論を楽しむ雰囲気づくりが必須である。3つ目は、「とらわれ」と「こだわり」の違いを理解することだ。時代の変化や世代の違いによって「こだわり」は「とらわれ」にもなり得る。同じ意見を取りまとめるなどの「認識の共通化」を焦らず、これらの違いをうまく生かし、時代や世代を超えた「こだわり」を見つけることが、パーパス経営にもつながっていく。


出所:手塚氏の講演資料

まなびのポイント3:「デザイン思考」と「現場視点のデザイン経営」との関係

 

「デザイン思考」とは、米アップル社のデザインを担当した米IDEO社のデザインプロセスの暗黙知を形式知化したものであり、デザイナー以外でもその方法論に触れることができるようにしたものである。一方で、IDEO社の文化として、互いの違いを尊重する文化やインクルーシブデザインの伝統があり、デザイン思考ではこの部分の暗黙知は形式知化されていない。「現場視点のデザイン経営」では、「まなびのポイント1~2」を理解し、この文化の部分にスポットを当て、自社の状況に合わせてうまく展開していく視点、事業目的や企業DNAの探索などの社内マーケティングを重視していく姿勢が有効である。議論やアイデアを共通化・平均化するのではなく、それぞれの認識や意見の違いを楽しみ、生かす文化により、多様性を結果につなげることが可能になっていく。

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