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【研究リポート】

ライフスタイルビジネス研究会

変容する社会課題や顧客課題を的確に掴み、ドメインとバリューチェーンの拡大を切り口にした新たな「ライフスタイル価値」を創造するための真髄に迫ります。
研究リポート2023.05.11

突っ張り棒市場でトップシェアを獲得したファンマーケティング施策:平安伸銅工業株式会社

【第3回の趣旨】
ライフスタイルビジネス研究会では、「CX(顧客体験価値)を追求し、真のライフスタイルカンパニーへ進化しよう」をコンセプトとして掲げている。第3回は、顧客体験価値創造に向けたバリューチェーンの構築を実践している3社をゲスト講師としてお招きし、講演いただいた。
開催日時:2023年01月19日(大阪・京都開催)

 

 

平安伸銅工業株式会社
常務取締役  竹内 一紘 氏

 

はじめに

突っ張り棒のトップシェアメーカーである平安伸銅工業。研究と改良を重ねた主力製品「突っ張り棒」「突っ張り棚」などの収納用品を開発・製造している。

 

1994年には突っ張り棒のマーケット拡大により売上高を48億円まで伸ばしたが、コモディティ化と競合企業の増加によって、2008年には売上高14億円まで減収。売り上げが急降下する同社を救うべく、現代表である代表取締役の竹内香予子氏が事業を承継。代表に就任後はさまざまなブランドを立ち上げ「グッドデザイン賞」「IFデザイン賞」などを受賞し、ブランド力を高めている。2020年には、売上高38億円を達成した。

 

今回は、ライフスタイルビジネスを展開する同社の常務取締役である竹内一紘氏より、モノづくりとマーケティングの本質について学んだ。

 

売上高の推移(1981年~2020年)
 


 

まなびのポイント 1:時代に合わせたビジネス展開

 

同社は、1952年に大阪市で銅を加工する町工場として創業。当時、多くの人々が戦災で家財を失い、誰もが安心して暮らせる住宅が求められていた。そこで、他社に先駆けて米国からアルミサッシの製造技術と工作機械を輸入し、大工が現場で手作りする木製サッシに代わる商品として、日本中にアルミサッシを普及した。

 

1970年代には、都市部への人口密集と手狭な住環境の改善に着手。ネジやクギを使用せず収納空間を増やせる「突っ張り棒」を開発し、新しいライフスタイルを提案した。時代に合わせて手段を変えながらも、「アイデアと技術で暮らしを豊かにする」というビジョンを実現している。

 

戦後にアルミサッシの製造・施工で成長(左)、突っ張り棒で第二創業(右)
 
 

まなびのポイント 2:商品開発とマーケティング戦略を改革

 

改革に当たり、まずはトップダウンであった経営体制から、メンバーを巻き込むボトムアップ型のモノづくり体制への変革に着手。新市場の開拓では、突っ張り棒の技術を生かしてDIY市場へ参入した。

 

商品開発については、あらかじめ撤退の判断基準を設けて、正解がない前提でプロジェクトを高速で動かすことを重要テーマとした。

 

マーケティング戦略については、ユーザー視点を基に設計した。マイクロインフルエンサーに商品レビューを依頼し、ユーザーに寄り添うマーケティングを展開。うそ偽りのない商品の感想をウェブ上に普及させることで、ユーザーと中長期的な信頼関係を構築している。

 
 

まなびのポイント 3:中期経営計画「HEIAN COMPASS(ヘイアンコンパス)」

 

同社は、中期経営計画として「HEIAN COMPASS(ヘイアンコンパス)」を策定。ヘイアンコンパスでは、単に数値計画を設計するだけではなく、社員の道しるべとして、「使命を果たすために、どのような意識で何をどうするか」を定めている。また、「『暮らすがえ』の文化を創る」というミッションを掲げている。

 

同社は、突っ張り棒を主力とした家庭日用品メーカーとしてではなく、「暮らしを企画・提案する会社」として事業拡大を目指している。コロナ禍の影響で巣ごもり需要が高まる中、元々あった空間に同社の商品を取り入れることで「空間価値」を変えながら、より良い住まい空間を提供する。

 

同社は今後も、ユーザー視点を第一に考えた商品を開発・製造し、「私らしい暮らし」を世界中に広げていく。

 

平安伸銅工業の中期経営計画「HEIANCOMPASS(ヘイアンコンパス)」

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