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【研究リポート】

Global & Design / 海外戦略・ブランディング

「体験」を価値あるものに変え、文化や習慣、価値観が異なる海外において顧客や社員の体験価値をリ・デザインするポイントと、自社の企業価値を高めるために必要なブランディングのポイントについて、タナベコンサルティンググループのグローウィン・パートナーズとジェイスリーが提言。企業が体験価値をデザインする際に必要となる視点を、現場での実践を踏まえて解説した。
研究リポート2022.10.03

グローバルにおける体験価値の潮流:グローウィン・パートナーズ

 

米国発祥の体験価値ビジネス

 

タナベコンサルティング・村上(以降、村上) クロスボーダーM&Aや海外戦略のコンサルティングを手掛けるグローウィン・パートナーズ(以降、GWP)の田内恒治氏に、海外事業を切り口としたCX(顧客体験価値)とEX(社員体験価値)の話を伺います。

 

田内 GWPは2005年に創業して、2021年からタナベコンサルティンググループに加わりました。事業は主に3つあり、M&Aに関するファイナンシャルアドバイザリー(以降、FA)事業、バックオフィスDXを推進するストラテジー&オペレーション事業、ベンチャー投資事業です。私は海外FA部長として、クロスボーダーM&Aの拡大に取り組んでいます。

 

村上 「体験価値」という考え方は、停滞していた米国経済が再び成長する核になりました。

 

田内 体験価値というワードは米国のビジネススクールで生まれました。私が米国へ行った2000年代はドットコム・ブーム※1でデジタル化の流れが加速し、ブリック・アンド・モルタル(店舗販売を行う企業)とクリック・アンド・モルタル(ECと実店舗での販売を組み合わせている企業)がよく比較されていました。そこから少しずつ、デジタルとリアルの融合によってビジネスが大きくなる流れが出てきました。

 

2010年代以降、オムニチャネルやショールーミングの流れが大きくなり、アップルが台頭して、スマートフォンがECツールになりました。体験価値の観点では、米国で起きた流れが日本やヨーロッパ、世界中に波及しています。

 

村上 日本企業の海外事業に求められる知見やポイントは何でしょうか。

 

田内 海外に行くと、文化の違いを超えた新しい気付きが得られます。海外事業の展開には、それが非常に大事です。デジタル社会への移行は世界的な潮流です。デジタルとリアルを融合させたCXを海外で提供するには、現地の顧客(ユーザー)を起点に考える必要があります。現地の文化や習慣、価値観、仕様や要求に合わせて適切な姿にローカライズするリ・デザインが不可欠です。

 

もう1つ、EXの観点では、海外駐在員の体験価値も大切です。事業においては、顧客と企業のオペレーションを担う社員が重要な要素になるからです。コロナ禍で日本に帰れないなど、駐在員が心理的な不安を膨らませてしまうと、オペレーションに問題を来す可能性も高まります。

 

 

合弁や買収を選択肢に

 

村上 経営にスピードが求められる時代、ゼロベースの海外進出よりも、現地企業との合弁(ジョイント・ベンチャー、以降JV)や買収を選択する企業が増えています。クロスボーダーM&Aに成功する企業と失敗する企業の違いはどこにありますか。

 

田内 相手の意向や気持ちを抑え込んでJVを立ち上げてしまうと、やがて相手側が「一緒に事業をする意味があるのか?」というスタンスになってしまいます。海外事業におけるJVは、こちらがアウェーで、向こうがホーム。もめてしまうと相手の方が優位なので、最初の段階でボタンのかけ違いを解消しておくことが重要です。

 

M&Aには、報酬やインセンティブの設計などさまざまなテクニックがあります。100%出資の場合も数年間は現経営陣に残ってもらい、相手側のノウハウを吸収する期間を設定し、企業のトランスフォーメーションをうまく行う方法もあります。

 

村上 M&Aの前段階として、自社製品のディストリビューター(販売代理店)探しから始めるケースもありますね。

 

田内 中小規模のディストリビューターであっても、自社製品に愛着を持ってしっかりと販売してくれるなら良いでしょう。将来を見据えて変更可能な契約を結んだ上で、上手に現地のセンサーとして使い、体験価値のフィードバックを受けながら、少しずつ広げていくわけです。

 

最初に選ぶ時間をかけ過ぎて、せっかくの販売機会を失ってしまうケースは少なくありません。とにかくやってみる。そして、やるときには綿密に計画する。スピード感を持って計画を実行していくことが重要になります。

 

村上 コロナ禍やウクライナ情勢など、海外事業展開には予想外の出来事も起きます。

 

田内 世界情勢へのリスク管理は大切ですし、エクスポージャー※2を縮小していく事業運営も考えるべきです。

 

一方、長期的な視点で物事を見て、国内マーケットの縮小にリスクを感じて海外事業を推進する企業は増えています。世界情勢が好転してから「さあ、海外に行くぞ」では出遅れ感がありますし、一進一退を繰り返しながら、どのような状況でもやれることをやっていくというバランスある進め方が重要だと思います。

 

村上 国内の人口減少によるマーケット縮小に立ち向かう日本企業にとって、海外進出は戦略オプションとして非常に重要な意味合いを持ちます。今回のお話を踏まえ、「3つのD」をキーワードとしてお伝えします。

 

1つ目の重要なDは「ダイバーシティー&インクルージョン」です。多様性や国境を越えることに積極的に取り組んでいくという意味です。2つ目はCXを重層的にする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。海外とのコミュニケーションも活発になり、経営のマネジメントもスムーズになります。また、DXを展開する企業をM&Aのターゲットに考える企業も多いと思います。3つ目は「デシジョン」です。景気変動や国際環境の変化がある中でも意思決定をしなければ、前に進まないのが企業経営です。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

 

※1 ITやインターネット関連の新興企業周辺で起こった経済的熱狂
※2 投資家や企業などが保有する金融資産の中で、特定のリスクにさらされている資産の割合や金額のこと

 

 

田内 恒治(たうち こうじ)氏
グローウィン・パートナーズ フィナンシャル・アドバイザリー事業部 海外FA部 部長

 

 

PROFILE

  • グローウィン・パートナーズ(株)
    上場企業や有名企業を中心に400社以上へM&Aアドバイザリーサービスを提供。また、経理財務部門などのバックオフィス部門へコンサルティングサービスを提供。近年は、RPA・AIなど先進のIT技術やサービスを活用してクライアントの業務の標準化や効率化を行い、業務プロセスの最適化を実現している。

 

 

Interviewer

村上 幸一(むらかみ こういち)
タナベコンサルティング 執行役員 ストラテジー&ドメイン東京本部 本部長

 

 

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