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【研究リポート】

EX / 社員体験価値

EX(エンプロイーエクスペリエンス:社員体験価値)とは、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)と同様に、感情的な価値を含めた社員の評価を高め、ロイヤルティー(自社への愛着心)を向上させる考え方である。FCCフォーラム「EX」のセッションでは、社員のエンゲージメントを高める制度設計や企業風土についてタナベコンサルティングが基本講義を行い、先進企業の事例を紹介。ゲスト3社の対談からは、学習体験を向上させるブレンディッド・ラーニングや、共感を高めるパーパス経営について学んだ。
研究リポート2022.10.03

自然×テクノロジーで究極の社員体験を実現:スノーピークソリューションズ

 

体験を通してチームの関係性を構築する

 

タナベコンサルティング・盛田(以降、盛田) スノーピークビジネスソリューションズの企業概要についてお聞かせください。

 

榊原 当社は、東証プライム市場上場のアウトドア用品メーカーであるスノーピークを中心とするスノーピークグループの一員です。1999年に設立されたITコンサルティング企業とスノーピークの共同出資という形で2016年に設立され、2019年にスノーピークの100%子会社となりました。主な事業は、屋外会議やキャンプ研修、アウトドア要素を取り入れたオフィス環境設計といった人材育成支援、製造業向けの現場改善システムの導入支援、クラウドツールの「Microsoft365」を活用した働き方改革の支援といったDX推進を軸に、組織活性化事業に力を入れています。

 

盛田 自然とテクノロジーという、一見相反するものを組み合わせる発想が面白いですね。事業化に至った経緯を教えてください。

 

榊原 当社は設立以来、主に製造業向けの在庫管理や倉庫管理のIT支援を手掛けていました。当時から、現場を巻き込みながら全員参加型で「定着するシステム」を構築していく独自のスタイルには定評がありました。

 

そうした中、新たにスタートしたクラウド事業が転機になりました。ご存じの通り、クラウドを利用すると働く場所の制約がなくなります。そこからキャンプ場をサテライトオフィス(企業本社から離れた場所に設置されたオフィス)にするアイデアが生まれました。

 

キャンプ場などの開放的な空間で一緒に作業すると自然とコミュニケーションが生まれますし、自由に意見を言える雰囲気がある。システム導入でプロセスを通してチームが活性化するのと同じように、キャンプでもテントを一緒に立てることで関係性が深まるという共通点に気付き、この体験を世の中に広めていく必要があると思いました。当社代表の村瀬がスノーピークの社長(現会長)である山井太にこの思いを伝えたところ、賛同を得て新会社の設立に至りました。

 

盛田 スノーピークのミッションステートメントである「The Snow Peak Way」は、「私達スノーピークは、一人一人の主体性が最も重要であると自覚し」から始まります。事業領域は異なっても、両社の目指す方向性やミッションには共通する部分があるのですね。スノーピークビジネスソリューションズのサービスについて詳しくお聞かせください。

 

榊原 例えば、オフィス環境設計では、オフィスチェアやデスクをスノーピークのアウトドア製品に変えたり、床に人工芝を敷いたりと、オフィスにいても自然を感じることができる環境をご提案しています。

 

一方、アウトドア研修は屋外で行う研修です。会場を設営するところから体験していただくのが特徴であり、チーム内で話し合ったり、設営時に声を掛け合ったりと、コミュニケーションが増えて絆が強くなっていきます。

 

盛田 私自身、研修の講師をする機会がありますが、フリートークの時間を設けてもシーンと静まり返ることが多いものです。自然とコミュニケーションが生まれるのは良いですね。

 

榊原 中には、キャンプが苦手な方もいるため、研修は屋外で行い、宿泊はホテルを利用するなどクライアントに合わせてカスタマイズしています。アウトドア研修用の施設「CAMPING OFFICE」もここから派生しました。

 

 

社員体験価値から良いサービスが生まれる

 

盛田 次に、クラウド事業についてお聞かせください。

 

榊原 例を挙げると、オフィスをつなぐシステム「インタラクティビジョン」は拠点同士を常時つないで、コミュニケーションできるツールです。社内の経験を生かして、相手拠点との目線が合うように設置したほか、平面では味わえない臨場感を出すために、2画面を90度の角度で並べて奥行きを付けています。

 

また、クラウドサービスにも社内の経験が生かされています。当社は10年以上前からクラウドツールを導入していたため、コロナ禍でもスムーズに在宅勤務に移行できました。その経験が新たな製品・サービスにつながるなど、社内の課題に取り組んだ延長線上に事業領域が広がっています。

 

盛田 EX(社員体験価値)や社内の仕組みが顧客体験価値の提供につながっているのですね。

 

榊原 当社の製品・サービスの源泉は、「お客さま目線」や「社員のエンゲージメント」にあります。特に、当社はボトムアップでアイデアが出る風土なので、試行錯誤する中でアイデアが出たり、メンバーが主体的にプロジェクトを立ち上げたりしています。社員が自発的に動き出せる風土をつくることが大事ですし、自発的に行動する人材を育てることが企業成長の重要なポイントになると思います。

 

盛田 ミッションを軸に挑戦できるカルチャーが醸成されています。そうしたカルチャーが社員の主体性を高め、EXにもつながっています。

 

榊原 特に、従来のやり方が通用しない今のような時代は、これまでの判断基準を逆転させる思考が求められています。システム会社だった当社がアウトドア事業を展開するように、対極にあるものを組み合わせることで新しい価値が生まれて事業につながっていく。こうした思考がビジネスにおいて重要なポイントになると思います。

 

もう1つ、今できることにはすぐに取り組むことが肝要です。当社の場合も「キャンプ場で仕事をしてみよう」というアイデアをすぐに実行したからこそ、新しいビジネスが生まれました。最初の1歩を見つけて、取りあえずやってみる。その1歩を踏み出せるかどうかがで未来が変わるのではないでしょうか。

 

盛田 目に見える枠や業界の常識などを取り払って、ミッションを基軸に社員や顧客の体験価値から事業をデザインする重要性を教えていただきました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

 

榊原 佑介(さかきばら ゆうすけ)氏
スノーピークビジネスソリューションズ 事業戦略本部 副本部長 兼HRS事業部長

 

 

PROFILE

  • (株)スノーピークビジネスソリューションズ
    スノーピークのミッションステートメントである「”The Snow Peak Way”」の実現に向け、社員全員が「自らも自社製品・サービスのユーザーである」という立場のもと、顧客・自社の双方が感動できる体験価値を提供している。

 

 

Interviewer

盛田 恵介(もりた けいすけ)
タナベコンサルティング HR東京本部 副本部長

 

 

 

 

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