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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2017.11.30

課題を解決する「建設のサービス化とICT」:竹内 建一郎

「受注型モデル」からの脱却

 

 

政府建設投資の2020年以降の衰退、技能者の人材不足、新築着工戸数の大幅減少、ICTの進化など、建設業を取り巻く外部環境は今、加速度的に変化している。当然、現状を維持するだけでは持続的成長・発展など望むべくもない。ところが、多くの建設事業者は、従来からの「受注型ビジネスモデル」で事業を運営しているのだ。

 

企業は、変化するからこそ成長できる。企業が成長・発展していくためには、新たに出現する社会的・地域的課題の解決に向けて「変化と成長」を繰り返す必要がある。もし、自社がライバルと同質化しており、かつライバルよりも低ポジションであり、さらに展開している事業が中長期的に成長を望めないとすれば、明日から、すぐにでも、変化と成長に向けて手を打たなければならない。

 

タナベ経営の建設ソリューション成長戦略研究会では、「建設を極め、“建設らしくない”を追求する」というコンセプトを、これからの建設業のあるべき姿として発信している。建設を「極める」とは、分野や工法など自社の強みを特定し、設計・施工一体のビジネスモデルを確立することである。また「“らしくない”を追求する」とは、例えば「あらゆる事業はサービス化する」といったことだ。「“建設らしくない”を追求する」ビジネスモデル革新こそが、収益構造を変え、さらに“脱下請け”に通じるポイントである。

 

つまり、受注型モデルから脱却し、事業のサービス化を行う。これは多くの業界でもいわれていることだが、建設業とて例外ではない。

 

コンセッション事業

 

特集1では、建設業の未来を語る上で外せないテーマである「建設のサービス化とICT」を重点的に取り上げた。そのうち前田建設工業、加和太建設の2社は、「建設×サービス」を実践している企業である。

 

前田建設工業が展開しているのは、「コンセッション事業」だ。コンセッション事業は、公共施設やインフラの所有権を国や自治体に残したまま、その運営権を民間に売却。運営権を受託した企業は、収益を上げながら長期にわたり維持・管理する事業モデルである。(【図表1】)

 

 

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海外では先進的な取り組みが見られるが、日本国内ではまだまだ発展途上である。ただ、近年は、空港関連や有料道路などで民間運営の事例が増え始めている。例えば、売上高5兆円超、世界で25空港の運営を受託している仏バンシ社が、オリックスとともに運営権を取得している関西国際空港・大阪国際空港(伊丹空港)がよく知られる。前田建設工業は、仙台国際空港の運営権のほか、愛知の有料道路において代表企業として運営権を受託している。

 

政府は今、新たなビジネス機会の拡大や地域経済の活性化、公的負担の抑制などを目的に、公共施設の整備・運営で民間の経営原理を導入するコンセッション事業の活用を進めている。2016年5月に「PFI推進アクションプラン」を策定し、2013年~22年度の10年間における事業規模目標を、現行の10~12兆円から21兆円に引き上げる計画だ。

 

さらに、コンセッション事業の4重点分野(空港・水道・下水道・道路)に文教施設と公営住宅を追加。16年3月末時点のPFI事業の実施状況は公表ベースで527件、事業費の累計(1999年度以降)は4兆8965億円。地方公共団体の構成比が約80%と圧倒的に高く、分野別では文教・文化施設や街づくりを中心とするインフラ関連が多い。(【図表2】)

 

建設×サービス化は、大企業にしか展開できないわけではない。中小企業においても、公共施設やインフラの運営を自治体から任され、活性化につながるケースも多い。加和太建設は、「道の駅」の建設、維持・修繕だけでなく、運営まで手掛けている。同社は飲食店などに運営を委託せず、自社スタッフで実施。静岡県で2017年5月にオープンした道の駅は、当初は年間来場者を目標70万人としていたが、開業152日で早くも50万人を超える盛況ぶりである。

 

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i-Construction

 

もう1点、押さえておきたいポイントがICTやi-Constructionである。建設業の生産性向上、人材不足を補うための突破口として期待を集めている。ただ、建設工事におけるICT化は、欧米諸国やシンガポールが先行し、日本は出遅れている状態だ。ICTと聞いて及び腰になる建設企業は多い。しかし、最近は「働き方改革」を推進している建設会社がほとんどだろう。その一環として、単純に「経費で時間を買う」という視点からICTを捉えていただきたい。

 

国土交通省は2016年度に、ICT建機を活用した土工工事を約410件発注した。この背景には、コマツ、日立を中心とした建機メーカーが、「スマートコンストラクション」として1300の工事現場でICTを導入したこともある。

 

現在、ICTの展開としては、代表的な事例の1つであるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)・CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の活用など、システム、UAV(ドローン)を含むICT建機の導入が進められている。

 

BIMとは調査・測量から設計、施工、検査、維持管理、更新までをワンストップでマネジメントできるIoTの手法である。建築の生産性を大きく向上させる技術として期待されており、川上の企画・設計段階から川下の施工段階まで一貫してBIMデータを活用することにより、最大の効果を出すことができると実証されている。これは逆にいうと、特定のゼネコンと専門工事会社間のみの共通化は、効率的ではないということだ。

 

BIMを有効活用するには、ゼネコン・専門工事会社・BIMソフトベンダーが連携して、施工段階のBIMの仕様と利用方法の標準化を推進する必要がある。業者間の調整や温度差、建設業界における多重構造がBIMの推進を遅らせている大きな要因といえる。BIMモデルの活用のメリットとしては、①顧客の囲い込み、②生産性改善、③トータルマネジメント力の向上が挙げられる。

 

 

スマートコンストラクション

 

また、ドローンなどによって取得した3次元測量データから3次元設計データを作成し、それを用いてICT建機で施工するといったことが、建設業における新しいモデルとなっている。

 

例えば、日本ではインフラの老朽化、自然災害の頻発が大きな課題となっている。そこで、人が近づくことが困難な災害現場でも調査や応急復旧を実施できる「インフラ用ロボット」の開発・導入が2014年から進んでいる。特に橋梁、トンネル、ダム・河川、災害状況調査、災害応急復旧の分野ではさらに進行している。

 

中堅・中小企業におけるICTの先進モデルとして展開しているのが、事例企業の砂子組である。行政からも中堅・中小建設業におけるICTのベンチマーク企業として選定されている。

 

具体的には、北海道空知郡南幌町で建設中の道央圏連絡道路の施工現場において、ドローンを使用し空撮を実施するなど、ICT技術を活用することで地上からは見えない現地の重機の稼働状況や全体の様子が、現場に行かなくても確認できるというものだ。

 

同社は、コマツが提供している施工ソリューション「スマートコンストラクション」やドローン、ICT建機などを積極的に活用し、現場の施工管理に努めている。今後、受注する工事にはスマートコンストラクションを導入していく予定だという。

 

「ICT=大規模現場・大企業」は間違い

 

私は多くの建設企業経営者とディスカッションをする中で、スマートコンストラクションの取り組みについて話が及ぶことも少なくない。しかし、「土木中心の技術では?」「北海道という土地柄だから活用できるのでは?」「ICTの技術は大規模現場、大企業しか活用ができないのでは?」などというイメージを持っている企業が多い。

 

だが、これは大きな間違いである。中堅・中小建設業においても活用事例は多くある。そもそも政府が進めるi-Constructionは、小規模の現場でも活用することが本来のあるべき姿なのだ。

 

まず自社が対応できる部分からICTに取り組んでみてほしい。BIMについても同様である。いきなり建物全体を対象にするのではなく、効果が期待できる部分からやってみることだ。

ICT技術の進化は早く、取り組んでいるかいないかで10年後には大きな開きが出てくる。まずは「やってみる」という姿勢で臨んでいただきたい。

PROFILE
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竹内 建一郎
Kenichiro Takeuchi
コンサルティング戦略本部 副本部長 建設ソリューション成長戦略研究会 リーダー。大手メーカーで商品開発の生産マネジメントに携わった経験を生かし、経営的視点による開発・生産戦略構築から現場改善まで、多くの実績を上げている。モットーは現場・現実・現品の「三現主義」。