実行力強化につながる組織の生産性の見える化:武政 大貴
書籍やWebなどさまざまな場面において、「見える化」という言葉を目にする機会が増えてきた。しかし、言葉自体に触れたことはあるが、その意味するところを正しく理解し、活用できている企業は少ないのではないだろうか。見える化とは、「問題点を顕在化し課題解決する手法」である。あくまで「手法」であり、活用するための「目的」があることが大前提である。
では、目的とは何であろうか。究極の目的は、この手法を活用して一人一人が考え、行動する「自律型組織」を構築することである。環境変化のスピードが加速する現在、良き戦略を描いても実行しなければ絵に描いた餅である。この「実行力」の源泉が自律型組織である。
他社にはない競争優位性のある商品・サービスを世に出しても、いつかは資本力で勝る大企業に模倣され、優位性は時間とともに低減していく。しかし、一人一人が考え行動する自律型組織は、大企業がまねをしようにも、すぐにはまねできない強烈な参入障壁になり得るのである。いわば、どんな環境にも負けない強い企業体質があるということだ。
企業固有の目的を持つ
そして、この究極の目的から企業ごとにビジョン、戦略と連動させ、固有・個別の目的を設定していく。例えば、受注産業であり、どうしても季節的な受注変動に対応しなければならない企業特性がある場合、各人の力量(スキル)、標準作業・標準時間を見える化し、計画的育成を図る。期間工やパート・アルバイトでもすぐに業務をこなすことができるようにするなどの、いわば「誰でも化」の実現を目的として見える化に向き合う、などである。
他には、下請けメーカーであり、製品自体は同業他社からも一定の品質で提供されており、日々現場においては納期対応や価格対応など熾烈な競争になっている場合。工場自体の5Sを強化することで魅力ある工場を作り出し、得意先の担当者などを通常監査とは別に自社工場へ積極的に招致してみる。優れた作業環境はもちろんのこと、働く一人一人の自律的な姿を見せる(魅せる)ことで新たな提供価値を生み出す、いわば「魅せる化」ともいうべき事例がある。
実行力強化に向けた見える化の8つのポイント
「自律型組織」を究極の目的とし、企業固有の目的を設定して活動を推進していくことになる。タナベ経営では、見える化を大きく次の8つのポイントに分類し、考え方を整理している。(【図表】参照)
1.理念の見える化
理念は経営目的であり、経営のバックボーン(背骨)に当たる最上位概念である。単に掲示し唱和することが目的ではなく、現場で実践してこそ意味がある。よって、理念と現場をつなぐミッションマネジメント体系を見える化し、業務マニュアルなどを作成して日常業務へ落とし込むことが重要である。
2.ビジョン・方針・計画の見える化
単に理念を掲示するだけでなく、ビジョン・方針・目標・計画の全てを連鎖させ、見えるようにする。また、日々の行動を進捗管理することで、全社員のベクトルと熱量を合わせていく。経営指標と現場の業務プロセス指標を関連付け、ボードに掲示し、できるだけシンプルにマネジメントしていくことができる。
3.業績の見える化
業績は過去に打った手の結果であり、未来を保証するものではない。よって、先行管理が重要である。真の目標としての先行累計差額を見える化し、差額に対しての情報管理と先行行動管理をボード上でマネジメントすることで、効果的に未来を創り出すことができる。
4.財務・収益構造の見える化
見える化活動の最終的な成果は、定量的に財務諸表へ反映される。全てオープンにしてもよいが、階層別に責任を明確にし、見るべき(伝えるべき)数値と管理指標を定めて、原因分析と対策立案を行うとよい。
5.顧客の見える化
ここでいう見える化すべき顧客情報は、単なる顧客属性というだけではなく、顧客の声であることが重要だ。顕在化したニーズだけでなく、潜在化したニーズも現場のヒアリングやアンケート調査によって収集していくことが重要である。
6.自社の見える化(強みの見える化)
顧客の見える化とは逆に、顧客から見た自社の強み、固有技術は何かを見える化することである。技術マップなどで自社の強みを洗い出し、項目5 の顧客の見える化と掛け合わせることで、初めて進むべき戦略が明確になるであろう。
7.人材の見える化
あるべき人材像を明確にし、スキルマップにより力量を評価することで、乗り越えるべきギャップ(不足スキル)が明確になる。そして、育成ステップを定めて計画的に育成する。企業は人なり、実行力ある企業の大前提として、育成が重要である。人材育成は、見える化手法と大いに親和性があるところである。
8.ナレッジの見える化
会社が求める標準作業・標準時間を明確にし、バラつきなく全員が作業できるようにする。いわば先人の知恵(ナレッジ)を会社の財産として目録化することが必要だ。そのためにマニュアルを作成するが、作ること自体が目的なのではなく、日々の改善を常にアップデートする「運用ルール」も併せて設定することが重要となってくる。また、書面でのマニュアルだけでなく、特に職人的技能を要する作業については、ビデオマニュアルを活用することも非常に有効だ。