AIが人間を超える時代に予想される変化
「ドラえもん」を実現できる時代がやって来たのかもしれない。
先日(2017年5月20日)、将棋の電王戦でAI(人工知能)を搭載した将棋ソフト「PONANZA(ポナンザ)」が名人を破った。囲碁の世界でもGoogleの「AlphaGo(アルファ碁)」がトップ級棋士を破るなど、AIが人間の知能を上回るケースが増えてきた。
私は、「今後の先端技術と市場の変化」を研究テーマに置いている。AIはもちろんのこと、グローバルで300兆円という最大マーケットである自動車市場においても、「自動運転」といった技術革新によって大革命が起きようとしている。
これは遠い未来の話ではなく、10年後、20年後といった近い未来のことである。
自動運転技術が完全に確立されると何が起きるだろうか? 運送業などのロジスティクス業界ではドライバーが大幅に減少し、タクシー業界からも乗務員が大幅に減少するだろう。また、自動車を運転するためには運転免許取得が必須である、という現在のルールも覆されるかもしれない。そうなると自動車教習所は淘汰されていくだろう。
レンタカーも当たり前のように“乗り捨てOK”となるため、「自動車を保有する」という価値が当たり前でなくなるかもしれない。
新しい市場やインパクトが生まれる
ただ、マイナス面だけではない。現在、人口減少や嗜好の変化によって、縮小を余儀なくされている市場は活性化が図られるかもしれない。例えば、日本酒などのアルコール市場についても、自動運転の普及によって運転する必要がなくなれば、将来的に車内での飲酒が認められる可能性が出てくる。酒を飲む機会が増えると、市場活性化につながる。
また、車内空間の使い方も幅が広がるだろう。リムジンのように移動時間を最大限楽しむといった車中での時間の使い方が、誰でもできる時代が来るかもしれない。現在キャンピングカー市場が盛り上がりつつあるが、自動運転キャンピングカーができることで、「自動車×住まい」といった新たなインパクトが生まれるかもしれない。
これは、自動運転技術に絞った話であるが、今グローバルではさまざまな技術革新が進んでいる。冒頭に記載したAIもその1つだが、他にもIoT(モノのインターネット)、3D技術、Fintech(フィンテック)、ドローン、ビッグデータ、画像解析、シミュレーション、協働ロボットなど、今後10年間の中で、技術→顧客価値→市場と大きく変わっていくだろう。
人口減少社会に対する解決策にもなり得る
先端技術の革新は、日本国内における最重要課題も解決すると考えられる。
国立社会保障・人口問題研究所が2017年4月、将来の日本の人口推移予測を発表した。すでに人口減少が進んでいることは周知の事実であるものの、そのスピード感は正直なところピンときていない人が多いのではないか。
実は私もその1人だった。しかし、グラフにしてみると、事の重大さが一目で分かる(【図表】)。日本の人口はジェットコースターもビックリするほどの急勾配で落下(減少)していくのである。2065 年には約8807万人に減少し、2115年には現在の半数以下の5055万人まで減少すると予測されている。
国内総生産(GDP)の算出が「労働力人口×労働時間×労働生産性」である限り、人口が半分以下になるといったインパクトは、国内消費やGDPを減少させるだろう。
企業経営に置き換えて考えると、現在採用に苦戦している中堅・中小企業は非常に多いが、「現在10人で行っている業務を5人でやらねばならない」という未来が待ち構えているということだ。
間違いなくやって来る未来に対応する
この変化は、ある日突然、線引きされるのではなく、ジワリジワリとやって来る。労働力人口は間違いなく減少するのだ。外国人社員の採用や働き方の自由化など、さまざまな対策で人手不足を補っている企業も多いが、経営者として考えていただきたいことは「生産性を爆発的に上げるために、どの技術に投資をするのか」である。
さまざまな技術革新に伴って、ビジネスモデル改革が起きている。米国でニュースにもなった、商品をカメラやセンサーなどの情報を通じてAIで認識し、決済するスーパーマーケット「Amazon Go」もその1つだ。Amazon Goのビジネスモデルがスタンダードになると、単純作業のレジ打ちで人を雇っている販売店では、収益構造で大幅なギャップが生まれ、他社との競争に負けてしまうだろう。
“尖端技術”と直面し未来志向で投資する
経営者に考えていただきたいことは、先端技術によって市場が変わる潮流を読む(攻め)こと、労働力を補うため先端技術を他社に先んじて取り込む(守り)ことの2点だ。どちらにしても多額の投資を必要とし、経営者の意思決定を要する。
国内人口が減少し、これまでにない速さで技術革新が進む未来の中で、先端技術を押さえていない企業は、気付いたときには淘汰されているかもしれない。
製造業はもちろんのこと、卸売業、小売業、サービス業、工事業などどの業種・業態でも条件は同じであり、先端技術でビジネスモデルを変革させることを今のうちに研究すべきである。
ところで、私はタナベ経営「尖端技術研究会」のリーダーを務めている。表記を先端ではなく「尖・端」としているのは、独自性を持った尖った技術を磨いてほしいとの思いからだ。
新しく誕生したこの研究会では、国内の先端技術を磨いている企業と、米国のシリコンバレーで最先端技術による事業展開を図る企業の視察や聴講を通して、1年間研究を進める。自動化に必要不可欠なセンシング技術や画像処理技術、AI、ビッグデータ、水中ドローン、完全自動化工場など、これからの「尖端技術」を先んじて研究することを目的としている。
シリコンバレーでは技術革新を実現したベンチャー企業が急成長を遂げている。米国で証明された技術はやがて日本にも入ってくることとなり、その技術は市場やビジネスモデルを変える重要な要素となるだろう。
2020年まであと3年。今動かなければ手遅れになるかもしれない。ぜひ、国内およびシリコンバレーの最「尖端」技術を、研究してほしい。