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コンサルティングメソッド 2017.07.31

「働き方改革」のための人事処遇制度の考え方:水谷 好伸

 

求められる人事処遇制度の再構築

「一億総活躍社会を目指す私たちにとって『働き方改革』は最大のチャレンジ」(2016年9月2日、安倍総理訓示)。政府は今、働き方改革を構造改革の柱と位置付け、企業にこれまで常態化していた長時間労働の是正を迫っている。

経営者には、業務の生産性向上を目指すとともに、賃金と労働条件双方の向上が求められている。そこで、人事処遇制度を再構築し、働き方改革を推進しようと取り組んでいる企業が多い。本稿では、その1つの例として、「複線型人事処遇制度」についてお伝えしたい。

複線型人事処遇制度とは、1つの企業内にさまざまなキャリアコースを有する多元的な人事システムである。高度経済成長期の日本のような、社員→係長→課長→部長→役員という画一的な出世だけを求めず、それぞれの社員の希望や適性によって、例えば、特定のスキルを極める「専門職」や異動のない「地域限定職」などのルートを用意し、それぞれの社員が力を発揮することを目的とする制度だ。

 

 

現状の人事制度の課題

多くの企業が抱える人事制度上の課題は、次に挙げる4つであることが多い。

 

(1)業務の生産性向上を目指しているものの、成果主義、能力主義で構築された人事制度が合わなくなっている。

(2)年功序列で昇進させてきたため、上級の役職やポジションが停滞・頭打ちで、新たな人材を登用したくても定年、役職定年を待つしかない状況になっている。また、上級役職者のマネジメント力が発揮されておらず、職能要件を満たしていない。

(3)企業の目指すべきビジョン・方針と日々の業務が連動していないため、社員は仕事を通じて真の目的・目標を意識することが難しい。

(4)企業は人材を確保したいが、仕事に対する価値観が多様化し、従来の方法では採用が困難となり、どの業種も人手不足になっている。すなわち、これまでの地位・賃金を重視する観点から、働く地域・時間などの希望を優先し、自分の時間や家族と一緒に過ごす時間、空間を重視するという価値観へと変わってきている。

 

 

複線型人事処遇制度の考え方

組織には、マネジメントのできる人と、そうでない人がいる。また、仕事が好きで、可能な限り自分の能力を伸ばしたいという人や、限定された地域・時間帯で働きたい人など、働き方に対する考え方も多様である。

こうした社員の価値観の変化に対応し、働き方改革を推進するためには、前述の複線型人事処遇制度を取り入れるのも1つの考え方となる。

複線型人事処遇制度を導入するメリットとしては、次の6点が挙げられる。

 

(1)その人が求める働き方を提供することによって、採用がしやすくなる。特に、地域限定、時間限定での勤務を設けることで、採用できる人材の幅も広くなる。

(2)採用の際、マネジメント職か専門職か、総合職か専門職または一般職かを選択させることで、各自の成果・能力発揮に対する人事管理がしやすくなる。

(3)求める人材像と、社員一人一人の能力、役割が明確になる。

(4)ビジョン・方針・人材育成が連動し、「やってほしいこと」と「やるべきこと」が一致し、マネジメントがしやすくなる。

(5)入社後のキャリアプランが明確になる。

(6)各個人の不足能力(知識含む)に対する教育テーマが明確になる。

 

運用している間に社員の価値観に変化が生じた場合は、この複線型人事処遇制度によって柔軟に対応することができる。

例えば、生活環境や仕事に取り組む姿勢が変わり、これまで持っていた限定の枠を外したいという社員の希望や、専門職から総合職へ、また総合職から専門職への変化に対処できるのも、複線型人事処遇制度の強みとなる。

 

 

複線型人事処遇制度の活用方法

この制度を生かすためには、各個人が能力を発揮するための仕組みを整理しなくてはならない。面倒に思うかもしれないが、いったん整理することで、運用がスムーズになるのでぜひ行ってほしい。

具体的には、まず各人の業務の遂行ぶりからその能力を的確に把握することから始める。不十分な点をOJT、自己啓発、教育訓練などで開発・育成していくことだ。

その上で、能力の発展度合いを的確に把握し、それに合った適切な仕事の配分、職務の深化拡大、ジョブローテーションなどの能力活用を進めていく。

さらに、仕事の遂行度、努力の程度、能力の発展度合いを的確に把握し、昇給・昇進・昇級・賞与などにおいては公正な処遇を行う。

目指すべき制度構築の条件としては、次の2点が挙げられる。

1つ目は、評価の仕組み・昇格・等級の相互関係をできる限り明確にし、分かりやすくすること。企業側と社員一人一人が相互関係を築くために、明確な評価の仕組みが必要である。

2つ目は、より難易度・責任度合いの高い仕事を担う人が高収入を得ることができ、限定された条件がある人はその範囲内での収入を得る評価制度とすることだ。

そして、企業側は、半期ごとに一人一人の社員に対し、次の3つを行うことが必要となる。

 

(1)企業のビジョン・方針に基づき、その社員に求める成果・能力を明確にする。

企業と社員が相互に納得の上で働く目的を再認識させ、働きがいのある風土をつくること。

(2)企業側が求める役割、成果、能力(制度によって明確化した職能要件)と一人一人の現状の役割と成果、能力とのギャップを明確化することで、今後実行すべきことを明確にする。

ここで、社員の価値観の変化によっては、企業側も柔軟に対応することが求められる。

(3)フィードバックによる目標設定を明確にする。

評価を必ずフィードバックすることで、一人一人の社員のモチベーションを確認する。

 

公正な評価を、社員のモチベーションアップにつなげなければならない。働く人の価値観の変化に対応する複線型人事処遇制度を構築するだけではなく、働き方改革を推進するための仕組み、業務の生産性向上のための制度構築と運用を実行していただきたい。

 

 

 

 

PROFILE
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水谷 好伸
Yoshinobu Mizutani
クライアントの成長を支える「熱血パートナー」として、常に全力投球で熱意あるコンサルティングを展開。「現場・現品・現実主義」に基づく、活用しやすい、業績先行管理の導入・定着などが高い評価を得ている。また、実践に向けた人材育成でも幅広く活躍中。