指導計画を作る
中途入社であれ、新卒入社であれ、新入社員に「誰が、何を、どのように指導・育成するか」という計画自体が配属部門にあるのかといわれると、疑問符が付きはしないだろうか。
タナベ経営では新入社員の配属先で、“エルダー”という指導・世話役を決める。社内の業務ルールの指導や当面業務のOJT、学卒者についてはプライベート面のサポートまでを担当する。エルダーは新入社員と年齢の近い社員が担当するケースが多く、上司・部下の関係とは異なるものだ。
私自身がエルダーを担当する際は、「OJT計画書」(【図表】)を作成し、それに基づいて指導するようにしている。この計画書には、今後、その社員に身に付けてほしいスキルなどの「期待水準」、前職経験を踏まえた「現状レベル」や今後の「レベルアップテーマ」を、指導スケジュールとともに示している。
計画書の内容の良しあしもさることながら、新たに同志となったメンバーをどのように導いていくかの計画を、しっかり作るということがポイントだ。それを基に指導することが、教え方改革の第一歩になるのではないだろうか。
ICT活用による「見せる指導」へのシフト
北海道札幌市に本社を置く「中屋敷左官工業」では、塗り壁などの左官スキルを、動画によって学べる人材育成システムを運用。通常なら一人前になるまでに10年はかかる技術が、独自の教育カリキュラムを導入することで3年で習得可能になったそうだ。その実績が評価され、日経BP社が主催する「第3回 日経トップリーダー 人づくり大賞(2017)」で最優秀賞に選ばれた。
熟練を要する技能や、マニュアル化が難しく口で説明しても秘訣を伝えにくいようなノウハウは、このように動画で見せて教えることも1つの方法だろう。高所作業時の手元の動きをドローンを使って空撮し、若い技術者に見せて教えることに取り組んでいる建築会社もある。新人営業社員がノートパソコンやiPadを携帯し、自身の訪問先で顧客と上司(もしくは提案商品・サービスの社内専門家)にテレビ電話形式で面談してもらえば、同行営業を毎回セッティングするより効率化が図られ、新人も上司・社内専門家の商談ノウハウが習得できる。ICTを活用した指導は、今後ますます普及するだろう。
社内講師を養成する教えることは、学ぶこと
タナベ経営が推奨する「アカデミー(社内大学)システム」は、自社の業務遂行に必要な個々のスキルに精通する社員を「社内講師」として選定し、そのノウハウを他の社員にレクチャーしてもらうという取り組みだが、「自社の業務に必要なノウハウは、自社の社員が教える」というスタイルを推進・展開できれば、講師役となる社員のさらなるスキルアップが期待できる。「教えることが、学ぶことになる」という考え方だ。
講師役社員の社内におけるステータスも上がり、モチベーションアップにもなろう。教育制度として社内講師に選定された社員に報奨が与えられるようにすれば、レベルアップに対する意欲も高まるかもしれない。社内講師がレクチャーする模様をビデオ録画し、インターネット通信講座として活用すれば、学びたいときに希望する内容を受講できるという学習の効率化にもつながる。
教え方の上手な会社、育成システムが整備された会社には、良い人材が集まる。特に新卒者は、「自分を成長させてくれる会社に入社したい」という期待感が大きく、採用面での効果は大きい。実際に、自社の育成システムを企業説明会でしっかりPRすることで、募集人数枠を大きく上回る応募数を獲得している会社もある。
「企業は人なり」といわれる通り、人の育成に関する進化への挑戦は、重要な経営テーマなのである。