女性活躍推進企業への挑戦:コンサルティング戦略本部
2016年、女性活躍推進法が施行された。多くの企業において、女性活躍推進の取り組みは浸透しつつあるが、なかなか思うように進まないとの声も聞かれる。
そこで本稿では、女性活躍推進が経営に与える効果をデータから確認するとともに、今後、女性のリーダーを増やしていきたいと考える「女性活躍スタートアップ企業」が行うべき効果的な教育について、お伝えしたい。
女性活躍推進が進む企業ほど、利益率が高い
慶應義塾大学の山本勲教授が2014年3月に発表した「上場企業における女性活用状況と企業業績との関係」※によると、正社員女性比率が高まるほど、企業の利益率も高くなることが分かった(【図表】)。一方で、管理職女性比率については利益率との明確な関係性が見いだせなかったという。ただし、中堅企業や中途採用の多い企業、あるいは新卒女性の定着率が高い企業では、管理職女性比率が利益率にプラスの影響を与えることが確認できたそうだ。
※独立行政法人経済産業研究所(RIETI)「ディスカッションペーパーシリーズ」(2014年3月)
これらの企業においては、女性の働きやすい環境が整備されており、女性の高い潜在的な能力やスキルが活用され、生産性自体が向上した可能性が示唆される。女性をただ登用するだけでなく、男女ともに働きやすい環境を整備することが好循環につながるといえる。
女性活躍がなぜ難しいのか
(1)女性活躍が思うように進まない理由
【図表】からも分かるように、女性の活躍は経営においてもプラスのインパクトがある。とはいえ、思うように進まないという企業も多い。
私は、女性活躍を推進していくためには①制度・仕組み、②風土、③女性教育の3点に対して組織的に取り組んでいく必要があると提言している。
女性活躍が思うように進まないという会社では、制度・仕組みを整えたものの、風土や女性の意識が追い付いていないという状況が大勢を占める。風土は長い時間をかけて構築するものであり、簡単に変化するものではない。トップが強い意志を持って、粘り強く取り組んでほしい。
(2)風土を変える転換点:目標は女性比率3割
風土を変化させる転換点として、一般的に「少数派が3割を超えると、組織自体を変える力になる」といわれている。女性活躍を推進するためには、制度・仕組みを整備した後、実際に活躍できる女性の数を当面、全社員の3割まで増やしていく必要がある。
社内で活躍できる女性を増やすための取り組み
(1)「女性活躍推進プロジェクト」立ち上げ
まず、会社として女性活躍に取り組んでいるということを社内外に周知させるため、プロジェクトを立ち上げることを推奨する。プロジェクトメンバーには人事部のメンバーだけでなく、社内の女性リーダー候補者を参画させたい。全社横断型で女性の活躍に必要なことを検討し、発表する場であることが望ましい。
(2)女性社員向けの教育の実施
女性リーダーが少ない(いない)職場における女性の一番の課題は、目標となる女性の先輩(ロールモデル)が少ないことにある。先輩が増えていけば、女性社員自身がどのようにキャリアを積んでいけばよいのかのビジョンが描ける。また、キャリアを積んでいく過程における悩みを先輩に相談することで、解決の糸口が見つかるケースも多い。
自社に女性のロールモデルが少ない(いない)という企業においては、まずは既存の女性社員に対して、「あなた自身が会社のロールモデルになってほしい」という、会社からの期待感を伝えるための教育を実施していただきたい。
しかし、それが女性社員に対し、「男性社員と同じように働いてくれ」というメッセージだと受け取られないように発信することが何より大切である。女性のロールモデルとしての期待をいかに伝えることができるかが、女性の貢献意欲を引き出す鍵となる。
次に、キャリアステップごとに効果的な教育を記載したい。
● 新たにリーダーに抜擢された女性への教育
マネジャーとして持ってほしい視点、マネジャーとして重要なことを伝えるための教育を行うことが有効である。指導に当たってはスーパーウーマンになることを求めるのではなく、自分のなりたいリーダー像と向き合い、足りないスキルは何かを考える機会を与えていただきたい。前例にとらわれることなく、ロールモデルとしてのキャリアをどのように構築するかを考えてもらうことが重要となる。
また女性はストレートに物事を言う傾向があり、部下育成など人を動かしていくことが求められる場面においては、正論過ぎるあまり部下に受け入れられないことがある。相手とのコミュニケーション方法として、コーチングの手法を学ぶことも、女性リーダーのスキルとして必要になる。
● リーダー候補の女性への教育
女性のロールモデルが少ない環境においては、女性リーダーに対するイメージを持てない女性が多い傾向にある。リーダーになる手前の段階で“リーダー”をイメージさせる教育を実施し、モチベーションの向上を図ることが有効だ。また、リーダーになることを強要するのではなく、自発的になりたいと思えるかどうかが重要である。
そのために、まずは、仕事上で自分がなりたい姿は何かを考え、その延長線上にリーダーという選択肢があると感じてもらえるような教育が必要である。また、なりたい姿について上司とも内容を共有し、リーダーを目指そうとする女性が必要なサポートを受けられる環境づくりを行っていただきたい。
● 入社数年の女性への教育
リーダーになる、ならないは別として、まずは中長期のワーク&ライフプランを検討し、長期的に働くイメージを持ってもらうための教育の実施が有効だ。女性は長期のビジョンが立てにくい中、「3年後」「5年後」の未来を考え、長く働くために何をすべきかを考えてもらうことが大切である。
(3)女性社員を伸ばすためのマネジメント
女性は、何かを達成しても成功が自分の力によるものだとは考えられず、ただ運が良かっただけだと思い込んでしまう、自己評価の低い心理状態(インポスター症候群という)に陥りやすいといわれている。仕事で十分な経験・実績を重ねてきたにもかかわらず自信が持てない状態である。
女性に期待し、仕事を任せる際は、本人が「私にはできない」と口にしたとしても、上司側は「あなたには、できるだけの実力がある。(困ったら)フォローする」としっかり伝え、キャリアアップにつながる仕事を与えていくことが、活躍できる女性を増やすポイントとなる。