2020年の教育改革をビジネスチャンスと捉える:経営コンサルティング本部
戦後最大の教育改革
文部科学省主導の「高大接続システム改革」の一環で、2020年度に予定されている大学入試制度改革。これにより大学入試は従来の「知識偏重」型から、「思考力」「判断力」「表現力」など、自ら考え・行動することを重視する方向にかじを切ることが確実視されている。共通1次試験導入から約30年ぶりの改革であり、従来のセンター試験に代わって導入される予定の「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」では記述式要素を増やすなど、記憶力より思考力を問う傾向が強まるとみられている。
これに伴い、小学校から高校までの教育も、学びのプロセスを重視して、多面的に評価するシステムに転換していく。従来の詰め込み型学習とは一線を画す、“戦後最大の教育改革”だ。
加えて、社会全体の労働人口が減少する中、児童・生徒らは自力で食べていける力、つまり社会で使える力を早期に学習することが以前にも増して求められる。「大学に合格するための教育」から脱却し、「社会で生かせる能力」を逆算で設計、教育する時代が到来するといえる。(【図表1】)
一方、技術の面でも教育分野に大きな変化が起きている。「フィンテック(金融+テクノロジー)」や「ヘルステック(ヘルスケア+テクノロジー)」とともに、今後の大きな成長領域として期待されている「エドテック(教育+テクノロジー)」である。近年ではアマゾンも教育分野に参入した。1人の教師が黒板と教科書を使って複数名に教えるという教育界の常識を、テクノロジーが大きく進化させつつある。
「英語を話せるのが当たり前」というビジネスチャンスを先取る
1つの例として、今後導入が予定されている「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の英語科では、現行の「読む」「聞く」2技能の試験に加え、「話す」「書く」を加えた4技能の試験に移行するとみられている。つまり、教育産業にとっては「話す」「書く」能力を磨くためのマーケットが拡大することを意味している。
オンライン英会話レッスンを提供するレアジョブは、「日本人1000万人を英語が話せるようにする。」をミッションとして、2007年に設立。ノンネイティブ・スピーカーとして世界1位の英語力を誇るフィリピン人講師と、日本の英語学習者を無料通話サービス「スカイプ」で結ぶビジネスモデルで、業界ナンバーワンのポジションを確立している(【図表2】)。2014年には、東京証券取引所マザーズ上場を果たした。
同社は、学校現場におけるスピーキング能力強化の流れを受け、学校向けサービスもスタート。生徒らが同時間帯に一斉にレッスンを受けられる「一斉導入」タイプと、生徒が個々に受講時間を選ぶことができる「個別利用」タイプの2 種類を提供している。
「英語を話せるようになる」というニーズを、うまくビジネスと結び付けた事例といえる。
突き抜ける価値をデザインする
(1)サービス提供価値を再設定する
「顧客が求めるもの」と「自社の強み」の接点が自社の存在価値となる。顧客が求めるものが変われば、当然ながら自社の強みとの接点は失われる。
現在、教育産業が提供している商品・サービスは、現行の教育制度での顧客課題(校内定期考査の点数増、入試の傾向と対策など)を解決する設計になっているはずだ。しかし、顧客の求めるものが変わる2020年以降、これに対応しなければ自社の存在価値がなくなることになる。そうならないためにも自社のミッションに基づく「価値の再設定」が必要だ。
(2)価値をデザインする
次に必要なのが、どこで勝負するかを決めることである。国内人口が減少する中、子ども1 人当たりに投資する金額は確実に増えている。自社が競合他社と比べて際立った「突き抜ける価値」は何か。いま一度見極め、それをどう磨くのかを戦略的に検討してほしい。
従来からの価値である、講師の指導力・指導コンテンツの分かりやすさなどの「品質面」に加え、生徒・先生・保護者の不安・不安を解決する「機能面」、またイメージ・ブランド・デザインなどの「効用面」、情報量や関わり方などの「サービス面」、エドテックで大きく変わる「システム面」、そして全てを支える「人材面」。同質化したサービスでは価格競争に陥ってしまう。自社の突き抜ける価値を、きちんと時間をかけてデザインしていただきたい。
(3)固有技術を移植する
最後に、既存の学習に関わるプレーヤーだけのビジネスチャンスではないことを強調したい。「食える力」の強化と「エドテック」。ここには、今までにない新たな供給不足マーケットが発生し、結果として業界の顔触れを大きく変えることが予測される。
現に、小学・中学・高校・大学受験に必要な5教科18科目・1万本以上の授業動画が月額980円で見放題というリクルートホールディングスの『スタディサプリ』は、2015年度の利用者数(有料会員、小中高)は25万人と、新規参入ながら急速に成長している。
自社の固有技術は教育界に移植できないか。例えば、システム会社ならプログラム作成や生徒・保護者のビッグデータ解析、グローバルに展開している企業は語学能力、メーカーはコンテンツ開発能力など、自社独自や外部とのアライアンスなどを検討する余地は大きいといえる。
2020年まであと3年。戦後最大のビジネスチャンスをひもとき、自社の固有技術を生かしたサービスを構築していただきたい。