インターネット利用機器は
「一家に一台」から「一人に一台」へ
総務省の「通信利用動向調査」(2016年7月)によると、2015年末のインターネット利用率(個人)は 83.0%(【図表】)。一般家庭でIT環境が整い始めた1990年代後半から約20年が経過した今、ネットはもはや私たちの生活になくてはならないものとなっている。
その利用動向を機器別に見ると、スマートフォンの割合が初めて50%を超え(前年比7.2 ポイント増の53.1%)、全世代で上昇している。特に40歳代では73.6%とパソコンの利用(71.5%)を上回った。また、タブレット型端末での利用も全世代で上昇し、「一家に一台(パソコン)」から「一人に一台(スマホ、タブレット)」の時代に移ったといえる。
これに伴い、企業・消費者間の電子商取引(BtoC ‐ EC)市場が拡大を続けている。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」(2016年6月)によると、2015年時点のBtoC ‐ EC市場におけるEC化率(物販の全商取引金額に占める電子商取引の割合)は4.75%(前年比0.38ポイント増)。中でも「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(28.34%)、「事務用品、文房具」(28.19%)、「書籍、映像・音楽ソフト」(21.79%)、「雑貨、家具、インテリア」(16.74%)が高い。この4カテゴリーの市場規模だけで1兆円強に達している。
そんな中、消費者自体も変化している。単身世帯の増加に伴い世帯収入が減り続け、支出額も増加しておらず、生活スタイルは以前に比べ大きく変わった。企業が売上高増加を毎年期待するのは難しい状況だ。新たなアプローチ方法を考えねばならない。すなわち、企業におけるWeb活用の在り方も、急速に変化しなければならない時代へ突入しているのである。
中堅・中小企業のWeb活用が進まない理由
だが中堅・中小企業を見ていると、その多くはWebを経営に活用できていない。タナベ経営に寄せられるコンサルティングの相談内容を見ても、「Webを使った明確な事業戦略が組み立てられない」といったものが多い。
Webを活用する上で、まず経営者が初めに決めなければならない重要な事柄は、Webを使って「誰に」「何を」届けるのかというビジネスモデル戦略を立てることだ。それがなぜ、できないのか? 経営者に理由を尋ねてみると、「売り上げへの貢献を感じられない」や「費用対効果を実感できない」といった声が目立つ。
Web活用による収益構造の変化を実感できない点については、ITの仕組みの前に、まずサプライチェーンや人事面における評価の仕組みを組み立てねばならない。ネット販売に関し、社内が協力体制を取れるような評価の設定が重要である。
これは、トップダウンで決定しなければならない。ただ、決めた後は現場重視で取り組み、トップが細かい指標の設定に関与しない方がうまくいく。
また、売り上げは増加しているが儲からないという声もよく聞く。eコマースは変動費率が高いビジネスであり、通常の決算帳票では固定費に含まれるようなモール手数料やアフィリエイト費、物流費などは、ネット販売では変動費として考えるべきである。店舗でもネットでも現場は粗利益の話が最も分かりやすいので、必要コストを明確にし、価格設定はあくまで現場に任せることがポイントとなる。
【図表】 インターネットの利用者数および利用者の割合の推移(各年末時点)
Webビジネスモデルは既存とデジタルの融合で生まれる
「Webを活用したビジネスモデルを考える」というと、難しく感じられる経営者は多いが、詳細な専門知識は必要ない。本質は、“組み合わせで生まれる顧客価値”である。すなわち、既存の店舗や事業をWeb に置き換えて考え、トップ自らがリーダーシップを執り、リスクを軽減しつつ収益構造を変革することが重要なのである。
実際、1995年以降に現れた新しいビジネスモデルや革新的商品の多くは、既存の商品・サービスと、デジタルまたはWebを融合することで生まれている。つまり、融合したもののどちらか一方がデジタルなのである。
例えば、ハイヤーやタクシーをWeb上で配車するアプリケーション「Uber」は、インターネットと既存のタクシーを融合して生まれた。ピコ太郎の『PPAP』(Pen-Pineapple-Apple-Pen)も、動画投稿サイト「YouTube」で配信したからこそ世界的ヒットとなった。
こうした急速に進むデジタル化の波は、経営者にとって脅威なのだろうか? そうではない。正しく理解し、活用方法を考えれば、脅威どころか大きなビジネスチャンスになるのだ。デジタル化の波を“ビジネスチャンス”だと捉え、「プラスWeb」という発想を持ち、新たなビジネスモデルをデザインしてみてはいかがだろうか。
「Webでビジネスモデルをデザインする研究会」
企業がWebサイトを開設するようになったのは1990年代半ばごろから。当時は会社案内のパンフレットをそのままWebに置き換えただけのものが大半で、Webの機能や効果を十分に発揮できているとは言い難いものがほとんどであった。広告もバナー広告(純広告)が主流で、リスティング広告(検索連動型広告:検索したキーワードに関連した広告を表示するもの)などは見られなかった。
それから約20年が経過してインターネットが普及するのに伴い、ネット広告も多様化。さらにFacebookやTwitter、InstagramなどのSNSサービスの出現により、Webプロモーションの手法は格段に広がった。一方、技術やマーケティングの進展スピードに取り残されている企業が多いことも事実である。
そのためWeb活用型の事業戦略を立てようとしても、Webチャネルにおけるノウハウは多岐にわたり、忙しい経営者は限られた時間の中で学ぶことがなかなか難しい。また、Web に関する情報は常に更新され、どれが本当に必要な情報なのか、分かりにくくなっているのが現状である。
そこでタナベ経営が主宰する「Webでビジネスモデルをデザインする研究会」では、企業がWeb を使ったビジネスモデルへかじ取りを行うため、「経営者に必要なWeb活用型の経営情報」に焦点を絞り、先進企業や成功事例のベストプラクティスを提供している。
具体的には、Webを使った事業戦略を明確に定義して成功している企業を視察し、経営者の話を伺いながらWebの基礎知識や実際の活用を学ぶものだ。Webでビジネスモデルを変えたいと考える経営者は、ぜひ参加していただきたいと思う。