進む方向を示すのが方針である
理念、方針という言葉はよく耳にするが、果たしてどれだけの経営者が意識して取り組んでいるだろうか。また、社員への徹底度はどうだろうか。お題目を唱えるだけの企業が多いのも事実である。
方針とは何か。例えば、乗っている船が漂流し、現在地が分からなくなったとする。あなたならどうするだろうか。360度、どちらを向いても水平線しか見えない。どちらに進んで良いのかも全く分からない。ここで、万が一進む方向を間違ってしまったら、永久に陸にはたどり着かない。判断ミスが命取りになる。
船員Aは右手の方角に進めば陸があるのではと思っており、右手の方角に船を向けようとするものの、仲間の2人が邪魔をする。仲間の1人、船員Bは左手の方角に進めば陸があると考え、もう1人の船員Cは直線方向に進むと陸があると考えているからだ。3人の船員の意見が合わないと、一向に船を前に進ませることができない。
つまり、それぞれが自分の行きたい方向にこいでいるだけではダメなのだ。陸の方向が分かれば、全員その方向に針路を取るよう協力して、なんとか陸にたどり着けるだろう。同じことが企業経営にもいえるのではないだろうか。
進むべき道を示す海図が理念であり、方針である。どの道が正しいかは分からない。しかし、環境変化、顧客動向などを予測し、最善と思える策を考えて示すのだ。決まるまで大いに議論することは良いが、決まってから文句を言っていては何も進まない。
引き出しに眠る方針書
また、経営陣は年に1回の方針発表会で立派な資料を作成して満足しているが、社員のほとんどは方針発表会終了後に机の引き出しの中にしまいこんでいるということはないだろうか。翌年にこの方針書を見ると、真っさらで使った形跡がない。
こういった状態で経営をしていると、社員は、会社として右に進むのか左に進むのか、行き先も分からないまま取りあえず、船をこいでいる(与えられた仕事をこなしている)だけになってしまいがちである。それでは現状を打破するどころか、何も変わらない状況が続く。
組織経営の本質は「統一」。つまり、全社員のベクトルを同じ方向に向けることである。しかしながら、働く社員は、もともとはバラバラで当然である。年齢も違う。育った環境も違えば、学歴も価値観も考え方も違う。そういうバラバラな人たちが集まって仕事をしている。これが組織である。
そういった人たちを1つにまとめ、会社が目指すべき方向を示さなければならない。正解は誰にも分からない。この対策を打てば必ず業績が右肩上がりになるという魔法の杖は存在しないのだ。
だからこそ、年度方針の達成に向け(陸を目指して)、全社員がベクトルを合わせ、社員の力を結集させることが大事なのである。方針書があっても社員一人一人がバラバラの状態では、方針を決めた意味がないのだ。
この方針の徹底が非常に難しい。能力の適合性、自己啓発意欲、労働環境意識などを測るタナベ経営のモラールサーベイでは、方針の徹底度が把握できる。「自社は方針が徹底できている」と自負している経営者であっても、その結果を見て愕然とすることが多い。
方針を徹底させるには、決めたことをやり切る、強い体質づくりが必要だ。進むべき道(方針書)が全員に徹底されていると、現状の進捗が把握しやすく、メンバーもどこまで頑張ればよいのか、何を頑張ればよいのかが明確になる。だから仕事が楽しくなり、善循環で物事が進んでいくのだ。
進むべき道が分からないと、自分たちがどこにいるのか、何のためにやっているのかも分からない。だから達成感を得にくく、マンネリになりがちである。離職率が高いという企業は、方針が不明確だったり、徹底度が低いものだ。また、目指すべき道(方針)があるから脱線したことが分かる。進むべき道がないと、脱線していることにすら気付かない。
進むべき軌道を定め、脱線した場合には元の軌道へ戻すことがマネジメントである。
個人の目標も明確にする
では、個人の場合はどうだろうか? 何も考えず、目の前の仕事に追われているだけになっていないだろうか? 同じ仕事でも、目標を持った場合と持たない場合とでは成果や満足度に大きな違いが出てくる。
また、自分の進むべき道を迷うことは誰にでもあると思うが、目標が明確でないと、迷う回数も多くなる。目標が明確だと迷いがなくなり、それを達成するために情熱を注いで独創的な仕事ができるようになる。
自分がどうなりたいのか、「進むべき道=目標」を具体的にイメージすることだ。
組織も個人も進むべき道を明確にし、それを実現させるために高い志を持つことも大切なのである。
方針の徹底は1日ではできない。徹底させるプロセスの繰り返しが会社の体質(社風)をつくり、そして強くしていくのである。