現代の企業において、データは単なる情報の集合体ではなく、競争力を左右する「資産」としての価値を持つようになった。しかし、データを収集するだけではその価値を最大限に引き出すことはできない。データを活用して新たな価値を創出するためには、適切なIT基盤と組織体制が必要である。本稿では、データ活用推進基盤の構築において重要な役割を果たす「データスチュワード」の概念と、それを支える組織改革の必要性について解説する。
データ活用推進基盤「データスチュワード」の役割
データ活用推進基盤とは、企業がデータを収集・蓄積・分析・活用するための土台となる仕組みを指す。この基盤が整備されていない場合、データの品質が低下し、分析結果の信頼性が損なわれる可能性がある。また、データが分散して管理されている場合、必要な情報を迅速に取得することが困難となり、意思決定のスピードが遅れることもある。
データ活用推進基盤を構築する際には、次の要素が重要になる。
❶ データの品質管理
正確で信頼性の高いデータを維持すること
❷ データの統合性
分散しているデータを一元管理し、必要な情報を迅速に取得できる状態をつくること
❸ データのアクセス性
必要な人が、必要なタイミングで、データにアクセスできる仕組みを整えること
これらの要素を実現するためには、技術的な基盤だけでなく、組織内の役割分担や教育体制の整備が不可欠である。
データ活用推進基盤の構築において、特に重要な役割を果たすのが「データスチュワード」である。データスチュワードとは、企業内でデータの品質を管理し、データが適切に活用されるようにする責任を持つ役割である。具体的には次のような業務を担う。
❶ データの品質保証
データが正確で一貫性があり、分析に適した状態であることを確認する
❷ データのルール設定
データの収集・登録・管理に関するルールを策定し、組織内での順守を促進する
❸ データの利用促進
データを活用するためのツールやプロセスを整備し、組織内でのデータ利用を推進する
データスチュワードは、単なる技術的な役割ではなく、組織全体のデータ活用を支える「世話役」としての役割を果たす。そのため、データスチュワードを設置する際には、適切な人材を選定し、必要な教育を行うことが重要である。
組織改革の必要性
データ活用推進基盤を効果的に機能させるためには、組織改革が不可欠である。特に、データスチュワードを中心とした役割分担を明確にし、データ活用に必要な人材を育成することが求められる。
基幹システムを導入する際には、業務プロセスの見直し(BPR:Business Process Reengineering)が行われることが一般的である。このプロセスでは、従来の業務フローを効率化し、データ活用を前提とした新しい業務フローを設計する。
例えば、運送業界や建設業界では、紙ベースの業務処理が多く、内勤スタッフの業務効率が低下しているケースが見られる。これを電子化することで、業務を削減し、スタッフを「データ品質保証役」として再配置することが可能である。
また、データ活用を推進するためには、次のような役割を担う人材を育成する必要がある。
❶ データを登録する人
正確なデータを入力し、登録する役割
❷ データの品質を保つ人
データスチュワードとして、データの品質を管理する役割
❸ データを加工・分析する人
データサイエンティストやアナリストとして、データを活用して価値を創出する役割
❹ データを活用する人
経営層や現場の担当者として、データを意思決定に活用する役割
これらの役割を明確に定義し、必要な教育を行うことで、組織全体でデータ活用を推進する体制を整えることができる。(【図表】)
【図表】データ利活用企業
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
運送業界と建設業界の改革事例
運送業界や建設業界では、従来の業務プロセスが紙ベースで行われていることが多く、データ活用の障壁となっている。これらの業界では、電子化を進めることで業務効率を向上させると同時に、データ活用の基盤を整備することが可能である。
現在、基幹システムの刷新を進めているクライアント企業においても、IT基盤の見直しによって事務的な業務の削減が期待できるため、そこで確保された人的リソースを、データ品質保証役として再配置する検討を開始しようとしている。
データ活用推進基盤の構築は、企業の競争力を高めるために不可欠な取り組みである。その中でも、データスチュワードの役割は非常に重要であり、データの品質を保証し、組織全体でのデータ活用を支える存在となる。また、データ活用を推進するためには、業務プロセスの見直しや人材育成を含む組織改革が必要である。
データを「見る」から「使う」へ、そして「使う」から「価値を生む」へ。企業がデータドリブン型の意思決定を実現するためには、技術的なIT基盤だけでなく、組織と人の改革を進めることが求められる。データ活用推進基盤を整備し、データスチュワードを中心とした体制を構築することで、企業の成長を加速させる未来を切り開いていこう。

マネジメントDX ゼネラルマネジャー
大手製造業の設計領域を中心に業務効率化活動を行うコンサルティング会社を経て、タナベコンサルティングに入社。現在は、デジタルによる業務効率化をテーマに専門知識とノウハウを駆使し、戦略策定から具体的な実行推進支援までを企業の実情に即して提供。「考え続け、行動する」を信条に、スピード感と実行力のあるコンサルティングに定評がある。