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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.01.06

急成長インドネシア市場におけるマーケティング戦略のポイント 川名 勇摩

成長著しいインドネシアデジタル投資に注力

 

インドネシアは、約1万8000の島々が南北約2000㎞、東西約5000㎞の広大な国土に広がる島嶼国で、約2億8000万人と世界第4位の人口を有する。平均年齢は約30歳と若く、人口ボーナスは2040年ごろまで継続予定だ。人口約1070万人の首都ジャカルタは、経済の中心地として急速な発展を遂げており、隣接するジャボデタベックと呼ばれるジャカルタ都市圏には3200万人以上が暮らし、東京都市圏、デリー都市圏に次ぐ世界第3位の都市圏人口規模※1を誇る。

インドネシア経済は、製造業・農業・サービス業を基盤としており、特に、1980年代後半から多くの日本企業も参入した製造業は、経済成長の大きな原動力となっている。また、従来から内需主導型の経済構造であり、巨大な人口、増加する中間所得層とその購買力が、今後5年間平均5%台と高い経済成長率が維持されるとの予測を裏付ける※2。2023年時点でGDP(国内総生産)は世界16位、ASEAN諸国では最大の経済規模を誇る。

同国政府はインフラ整備や投資環境の改善に加え、デジタル経済の発展にも注力している。2024年1月時点のインターネット普及率は全国で79.5%、ジャカルタでは87.5%※3で、日本の86.2%※4を超える水準となっている。これにより、デジタルマーケティングやEコマース分野でのビジネスチャンスが急拡大している。

ASEANナンバーワン巨大マーケットの魅力

 

インドネシアはASEAN諸国で最大の消費市場であり、特に若年層人口が多く、中間層の拡大に伴い、消費者の購買力向上が顕著である。2000年ごろには30%ほどだった中間所得層の割合が、2023年には約70%まで急増※5。同国の1人当たり名目GDPは4919米ドル(約75万円)※6と日本の約7分の1の水準である一方、ジャカルタは2万1173米ドル(約300万円)と、日本とそん色のない水準に迫る。(【図表】)

【図表】1人当たり名目GDPの比較
【図表】1人当たり名目GDPの比較
出所:IMF(国際通貨基金)「World Economic Outlook Database 2024年10月版」、インドネシア中央統計局を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成(GDPは2023年数値)

この購買力はASEAN諸国において、シンガポール、ブルネイに次ぐ第3位である※7。つまり、インドネシア全土で見るのか、ジャカルタ都市部で見るのかによって、同国マーケットを攻略する戦略設計は大きく異なるのである。

 

現地市場攻略に向けたマーケティング戦略

 

インドネシアは多様な文化と宗教を持つ国であり、消費者の嗜好も多種多様である。この多様性は、マーケティング戦略設計において考慮すべきポイントが多岐にわたることを意味する。特に人口の8割以上を占めるイスラム教徒に向けたマスプロモーション戦略と、人口の3~4%ほどであるが購買力の高い華人・華僑向けの施策内容が異なることは想像しやすい。インドネシア市場におけるマーケティング戦略設計のポイントは次の通りだ。

❶ 消費者セグメンテーションとターゲティング
多様な文化・宗教と所得・エリア別の経済状況が存在し、消費者の嗜好や購買力も大きく異なる。ターゲット・ペルソナを明確にし、適したアプローチを取ることが重要となる。

❷ デジタルマーケティングの活用
インターネットユーザーが急増し、スマートフォンの普及が進む中、ソーシャルメディアプラットフォーム(Instagram、TikTok、YouTubeなど)は、若年層向けのマーケティング活動において重要な役割を果たし、現地インフルエンサーを活用した施策が非常に効果的である。

❸ ローカライズと文化的適応
製品やサービスを現地の文化・習慣に適応させることが欠かせない。特にイスラム教徒向けの食品や肌に触れるFMCG製品※8は、ハラル認証取得や、宗教的な祝祭日を考慮したマーケティング活動が重要となる。

❹ 価格戦略と付加価値の提供
インドネシアの消費者は価格に敏感である一方、品質や付加価値を重視する傾向も一定数存在する。競争力のある価格設定と同時に、安価な中国製品や現地製品と差別化できる明確な付加価値も市場競争力を高めるポイントとなる。

ヌサンタラ遷都による経済活動の変化と影響

 

インドネシア政府は、ジャカルタの人口過密による経済格差是正、慢性的な交通渋滞解消、地盤沈下と海面上昇による水害などによる首都機能の限界状態を踏まえ、ジャワ島北西部・ジャカルタからカリマンタン島(ボルネオ島)東部・ヌサンタラへの首都移転を進めている。これに伴い、政府機関や企業の移転が進むことで、新たな経済圏が形成されることが期待される。

一方、政府の掲げるヌサンタラ開発のマスタープランと進捗しんちょくを踏まえると、現時点(2024年11月)では政府機能の部分的な移転にとどまる。今後2025~30年にかけて優先的に開発が進む分野はエネルギー・交通・上下水道・通信や廃棄物処理などのコアインフラ関連産業であり、消費活動は依然としてジャカルタ都市圏が中心となる見込みである。マスタープラン通りに進行した場合、ジャカルタからヌサンタラへの消費活動が分散するフェーズは2030年代後半以降であると筆者は推測する。

したがって、今後約3~5カ年の期間で戦略を設計する場合、ジャカルタ都市圏の市場に向けた販路拡大・マーケティング戦略推進を躊躇ちゅうちょする必要性は低いだろう。一方、新たな販売代理店選定や新規開拓など長期的なパートナー選定を行う場合、ヌサンタラへの販売チャネルが確保可能か否かは重要な判断要素となる。

インドネシア市場での成功には、現地の多種多様な消費者ニーズをターゲットセグメントごとに深く理解し、適切なマーケティング戦略を設計、展開することが不可欠である。特に、巨大成長マーケットを形成する若年層消費者目線での的確なデジタルマーケティング施策は、自社製品・サービスの競争力を高め、売り上げ拡大につながる。中長期的には、ジャカルタ都市圏から新首都市場への拡大を見込んだ、現地ディストリビューターとのパートナーシップ戦略を検討し、柔軟かつ戦略的なアプローチを取ることで、インドネシア市場での持続的成長を手にすることにつながる。

 

※1 外務省「インドネシア共和国基礎データ」
※2、6 IMF(国際通貨基金)「World Economic Outlook Database 2024年10月版」
※3 アジア経済ニュース「インドネシアネット普及率79.5%、利用者2.2億人に増加」(2024年2月2日)
※4 総務省「令和6年版 情報通信白書」(2024年7月)
※5 経済産業省「医療国際展開カントリーレポート 新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報 インドネシア編」(2021年3月)
※7 外務省アジア大洋州局地域政策参事官室「目で見るASEAN -ASEAN経済統計基礎資料-」(2023年12月)
※8 商品回転率が高い日用消費財

PROFILE
著者画像
川名 勇摩
YUMA KAWANA
タナベコンサルティング
グローバル チーフ
日系警備会社のインドネシア現地法人にて、幅広いクライアントのセキュリティーデザインから実装、運用支援までの法人営業ならびにプロジェクトマネジメントに従事。東南アジア諸国におけるセキュリティーマネジメントに関する広い知見を持つ。タナベコンサルティング入社後は、コンサルティングサービスの海外展開に向け、商品開発・アライアンス開拓・提案連携など、社内プロジェクト推進の全体総括を担当。