「道の駅」に求められる役割の変化
社会や地域のニーズが変化する中、道の駅に求められる役割も進化している。かつては、単なる休憩地としての役割が主だったが、現在では地域の多様なニーズに応える多機能な拠点としての役割が期待されている。道の駅も企業と同様に「環境適応業」であり、変化や挑戦が求められている。
その鍵となるのが、民間企業との連携である。事業連携を通じて、道の駅が地域の多様なニーズに応える多機能な拠点となることで、地域活性化に大きく貢献できる。
道の駅に求められる役割の変化について、大きく次の6つがある。
❶ 休憩地から目的地へ
主に運転手が休憩するための場所として利用される道の駅だが、今では遊園地、水族館、観光体験などを提供する「目的地」としての機能が求められている。地域の観光資源としての価値を高め、訪れる人々に新たな体験を提供する場に変化していく。
❷ 高度なマーケティング機能
道の駅は地域の情報発信拠点としての役割を持ちながらも、今後はPOS(販売時点情報管理)データの活用や出荷・生産計画の策定など、より高度なマーケティング機能を求められる。
❸ 他県の道の駅との連携
道の駅は地域内の連携を強化するだけでなく、他の道の駅や他地域とのエリアを超えた全国連携を進めることが重要である。地域間の情報共有や共同プロモーションが可能となり、相乗効果(シナジー)を生みながら地域の魅力を全国に発信できる。
❹ ブランディング拠点への進化
道の駅を地域資源のブランディング拠点にすることで、訪れる人々にその価値を伝えることができる。
❺ 新ビジネスの創出
道の駅は6次化商品や特産品を活用した飲食店など、新たなビジネスを創出する拠点としての役割が期待されている。地域の経済活動を活性化させることで、新たな雇用創出にもつながる。
❻ 新たなデジタル・ICT機能
オンライン販売支援など、デジタル・ICT技術を活用した新機能が求められている。ECサイトなどを運営することで、地域の特産品を全国に販売できる。
宮城県における道の駅活用事例
宮城県における道の駅を活用した地域創生事例を3つ紹介したい。
❶ あ・ら・伊達な道の駅(宮城県大崎市)
あ・ら・伊達な道の駅は、「『じゃらん』全国道の駅グランプリ2024」(リクルート、2024年7月)で利用者による満足度ランキング1位となり、年間約300万人が訪れている。
北海道のチョコレート菓子メーカーであるロイズとの連携やオンライン販売を通じて、目的地としての機能を強化している。また、「IoTスマートごみ箱※1」の運⽤実証実験を開始し、ごみ回収の負担軽減と施設全体の美化を図っている。
❷ 山元町農水産物直売所やまもと夢いちごの郷(宮城県亘理郡)
山元町農水産物直売所やまもと夢いちごの郷は、町のにぎわいと活気を生み出す拠点として、訪れる人に地域資源を効果的にブランディングしている。
特産品であるいちごやりんご、ホッキ貝、シャインマスカットのほか、山元ブランド認証品を中心とする加工品、出来たての総菜、弁当など、山元町の魅力とおいしさが詰まった農水産物の直売所として地域の魅力を高めている。
❸「道の駅」津山もくもくランド(宮城県登米市)
「道の駅」津山もくもくランドは、豊富な杉材を使った木工品などの販売を行っている。高齢化が進む地域では、食料品や日用品の買い物困難者が多いだけでなく、宅配便の運転手不足に伴うラストワンマイル問題※2に直面することが懸念されている。
その解決策として、「新たな農産物直売所輸送サービス」のモデル化検討を官民で連携し、実証事業を進めている。
道の駅との官民連携で事業価値を高める
ここまで説明した通り、道の駅も外部環境の変化に応じた進化が求められている。最後に、今後企業が道の駅・直売所と連携できるテーマを5つご紹介する。自社の提供価値を深める、または新たなビジネスを生みだす場としてご検討いただきたい。
❶ 物流拠点化
道の駅を物流拠点・中継地点として活用することで、地域の物流効率を向上させることができる。地域の特産品や農産物の流通がスムーズになり、地域経済の活性化に寄与できる。
❷ エデュテインメント拠点化
「エデュテインメント」とは、教育(エデュケーション)と娯楽(エンターテインメント)を組み合わせた造語である。学習と遊びが組み合わさったコンテンツなどを指し、大人も子どもも、楽しい体験を通じて自然と知識を身に付けることができるという点で教育業界から注目されている。
道の駅にエデュテインメントコンテンツを設置することで、地域の教育・娯楽の場としての価値を高めることができる。
❸ ヘルスケア拠点化
道の駅をヘルスケア拠点として活用することで、地域の健康増進に寄与できる。地域住民や観光客に健康に関する情報やサービスを提供し、地域の健康意識を高めることもできる。
❹ リサイクル・アップサイクル拠点化
「アップサイクル」とは、本来捨てられるはずの製品に新たな価値を与え、製品そのものの特徴を生かしながら、新たな価値を与えて別のものを作ることを指す。道の駅をリサイクル・アップサイクル拠点として活用することで、地域の資源を有効活用できるだけでなく、環境保護に寄与することができ、持続可能な地域づくりを推進できる。
❺ フードテックラボ拠点化
道の駅をフードテックラボ拠点として活用することで、地域の食文化の発展に寄与できる。フードロス削減やアップサイクルにもフードテックが活用されているが、地域の特産品を活用した新たな食品開発や食の安全性向上に取り組むことができるほか、多様な食習慣ニーズへの対応が期待できる。
道の駅が新機能を実装していくためには、官民連携が不可欠である。企業にとっても、道の駅との連携は新たなビジネスチャンスを生み出す未開のマーケットである。道の駅との官民連携を通じて、地域と企業の双方にとってWin-Winの関係を構築いただきたい。
※1 太陽光発電による動作や、ごみの自動圧縮、量の管理・分析など、環境に配慮して設計されたごみ箱
※2 商品が消費者に届くまでの最後の区間(ラストワンマイル)におけるドライバー不足、ルート確保などの問題
マーケティング&マネジメントDX ゼネラルマネジャー
金融機関にて法人営業、融資審査業務に従事後、海外で就業。その後、市役所に入庁し、市の総合計画の進捗管理・調整、ふるさと納税の推進、ECサイト管理担当を経てタナベコンサルティングに入社。現在は東北エリアのDX推進を担当しながら、新規事業開発、業務標準化支援、会計・販売管理システム再構築など幅広い分野で活躍し、クライアントの事業発展に貢献している。