企業の成長段階に応じてマネジメントレベル・マネジメントガバナンス機能を整えなければ、経営に無理が生じて企業の成長は止まる。
タナベコンサルティングでは、企業の売り上げ規模ごとに打つべきテーマとして、100億円は「組織経営の壁」、300億円は「事業領域の壁」、500億円は「ナンバーワンの壁」と提唱している。
本稿では、どの売り上げ規模でも必要とされる経理財務機能における「マネジメントの壁」について提言したい。経理財務機能で整備すべき項目は大きく、①財務・資本戦略、②業績管理という2つのテーマに分けられる。売上高の規模ごとに内容を確認していきたい。
ホールディング経営による経理財務機能の最適化
売上高50億円で経営を自立化させて100億円に近付くと、事業のバリューチェーンを広げる・大きくする・新しく組み入れるなどの戦略が必要となる。その際、財務戦略としては、全社のファイナンス機能の強化と事業成長を支える資源配分が重要である。
タナベコンサルティングでは、その1つの経営スタイルの在り方として、ホールディング経営を提唱している。ホールディング会社がグループの経営企画機能・ガバナンス機能・マネジメント機能・コーポレート機能などをプラットフォームとして担うことで、部分最適の分社経営ではなく、真のグループ経営体制を整えることができる。
また、ホールディング経営にすることで、M&Aを含む事業ポートフォリオの組み換えも容易である。グループのファイナンス機能を集約し、資金調達コストの最適化や効率的な運用・リスク管理の強化なども行える。
売上高100億円前後の企業は、上場するかどうかを検討する必要がある。上場を目的にしてはいけないが、自社の成長戦略や資本調達、同族経営から非同族経営へ変化していく中での経営者リーダーシップ、ガバナンスの在り方などを考えた上で、上場すべきかどうかを検討いただきたい。
業績管理体制としては、これまでに構築した体制が正しく運用できているかの確認と、内部統制システムの構築がポイントとなる。社内ルールや基準を順守するためのポリシー、手順を明確にし、財務報告プロセス、業務プロセスにおける適切な制御を実施し、不正や誤りを防止する。
また、内部統制の重要性を社員に明確に伝え、適切なコミュニケーションを図り、監査を通じて内部統制の有効性を評価し、問題点を特定、解決していく体制の整備も必要だ。
幹部による利益責任体制を確立し、それが正しく運用できている状態をつくることで、分権型の組織経営体制は機能する。
事業戦略・経営戦略の両輪を回す
売上高300億円前後になると、ファイナンス機能の高度化がテーマとなる。企業数・事業数・社員数の規模が大きくなる中で、企業規模にふさわしい財務企画機能を強化していく。中でも、コンプライアンス体制の強化による法令順守と倫理的な行動の仕組みが求められる。
財務戦略としては、ダッシュボードマネジメントを駆使してデータ分析を活用し、財務データの把握、業績先行管理を適切に行い、予算即決算としてマネジメントに生かす。
事業戦略としては、海外戦略の拡大も視野に入れる。海外展開を進めていく上で、経理財務部門としては、リスクを最小限に抑えることが重要である。例えば、外国為替リスクの管理、国際会計基準への適合、税務処理の的確な実施、関税などの管理、原理法令の順守、文化や言語の違いへの対応など、解決すべき項目は多い。
売上高500億円前後になると、国内での役割やポジションを確立し、グローバルに展開する企業も多い。健全かつ持続可能な成長を達成するための基盤として、コーポレートガバナンス体制の強化がポイントとなる。ステークホルダーそれぞれの立場を踏まえた上で、「コーポレートガバナンス・コード」の基本原則や補充原則に沿って、透明・公正かつ迅速・果敢な意思決定を行う仕組みを整備していただきたい。
また、財務部門を単なる経理や財務報告の担当部門から、経営戦略の策定や意思決定を支援する部門である戦略的財務部門へと進化させ、企業の持続的な成長と競争力の強化を実現する体制も整えたい。
企業が持続的に成長していくためには、事業戦略・経営戦略の両輪がかみ合わなければならない。これは、成長と安定の相反するベクトルに対して意思決定を行うことであり、経営にはバランス感覚が必要であることも忘れてはならない。
経理財務機能のマネジメントの壁は経営戦略であり、事業戦略を支える大事なものとして整えなければ企業は成長しない。
企業の売り上げ規模に応じた仕組みを整え、持続的成長を実現する体制を整えていただきたい。
【図表】経理財務機能のチェック項目(売り上げ規模別)
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
経営者の志を受け止めるコンサルティングスタイルで、ホールディング設立支援・グループ経営システム構築・事業承継計画策定・企業再生など、機能別・症状別の課題解決コンサルティングに定評がある。また、組織経営体制構築に向けた制度設計、後継者・経営幹部育成も数多く手掛け、実績を残している。