企業を取り巻く経営環境の変化は著しく、それを支えるITなどの技術革新は加速し続けている。また、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻といった世界規模での環境激変によって企業物価指数は容易に変動し、将来の予測が難しい状況となっている。このような中、企業の経営判断には一層のスピード感が求められており、経営者や特定の個人の勘・経験・口伝に頼った経営体制では存続が難しい。
加えて、内閣府「令和5年版高齢社会白書」(2023年6月)によると、日本の総人口は長期の減少過程に入っている。2022年10月時点で約1億2500万人の総人口は、2070年には8700万人まで減少すると推計されている。生産年齢人口(15~64歳)が減っていく中、日本生産性本部「労働生産性の国際比較」(2023年12月)によると、2022年の日本の「1人当たり労働生産性」は、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中31位である。また、「娯楽・対個人サービス業の労働生産性の推移」を見ると、日本は2000年以降の年率平均上昇率がマイナス2.5%と、主要先進7カ国で最も低い。
こうした状況を踏まえると、デジタル技術の活用によるビジネスモデルの変革と企業成長を実現するDXは、今後の日本を支えるサービス業を担う全経営者が必ずやり遂げなければならない課題と言える。
1990年ごろの経営環境は、市場成長が続いていくことが前提であった。将来が予見しやすい安定した環境だったのだ。このような環境であれば、企業はあらかじめ立てた計画に従って日々の業務を粛々と効率的に実行することで成果を出し、成長し続けることができた。対して今は、顧客ニーズの多様化、市場動向の変化の加速、デジタル技術の進化などが目まぐるしい。変化を常に把握し、データをリアルタイムで集計、活用し、組織を柔軟に対応させるリーダシップの発揮が重要となる。
「データドリブン経営」による経営体制の変革
これからの企業経営には、合理的で客観的な根拠となり得るデータを基に、スピーディーに意思決定を行う経営体制への変革が求められる。それを実現するのが、継続的・反復的に行われる企業の活動や社員の行動をデータとして蓄積・解析し、合理的な根拠と予測に基づいて経営判断を行う「データドリブン経営」である。
筆者がクライアントの現状調査を行うと、システム機能が経営に生かされていない実態を目にすることが多い。例えば、①各部門・支社が採用したシステムにデータが孤立し、保守・運用がブラックボックス化している、②紙ベースで属人的な業務運用が見直されないまま踏襲され、無駄や重複が散見される、③業績把握のために各所からデータを集めて手作業で集計・加工する必要があるため時間がかかる、などである。
データドリブン経営では、このような旧来型の経営管理体制・業務運用の実態からいち早く脱却し、次の3つのようなデータ活用による経営の効率化を実現していく。
❶ 企業の目的の下にシステムを全社最適化し、データベースを一元管理
❷ システム機能を活用した業務の標準化を徹底し、効率化・省力化を維持
❸ データをリアルタイムで見て事業変革に機動的に対応
そして、データドリブン経営実現のために不可欠となるのが、ERP(統合基幹業務)システムの活用である。メリットは、主に次の3つだ。
❶ 基幹業務にERPシステムパッケージを活用し、ペーパーレス化・データ連携を実現
❷ システムに合わせて業務を標準化し、二重入力や業務の重複を解消
❸ ERPシステム内のデータを一元化し、抽出・加工することで業績を把握
ERPシステムはデータドリブン経営の基盤
ERPとは、Enterprise Resources Planning の略であり、企業経営の基本となる資源要素(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)を適切に分配し、有効活用する計画(考え方)を意味する。
企業が持続的成長を実現できる正しい経営判断を下すためには、リアルタイムの情報把握とデータ活用が必須だ。“経営の効率化”を実現するために、ERPシステムによる統合型データベースで管理されたデータを分析・活用し、機動的な業績把握・事業変革に向けた行動が可能な体制を構築することが肝心である。
従来のERPシステム導入プロジェクトは、数年かかるものがほとんどだった。これでは導入プロジェクトが終わり、ERPシステムが使えるようになるころには、すでに外部環境は大きく変化している可能性がある。
また、ITや情報システムの業務経験が豊富で、経営管理数値の中枢を担う経理・財務会計・管理会計の知見を保有し、領域を横断して会話・意思疎通が行える専門人材は自社内にいないことが多く、割ける時間も限られる多くの中小サービス業にとって、DXによる経営効率化の推進は実行困難になりがちである。
しかし、限られた人材による制約条件下でもERPシステム導入プロジェクトの成功率を高める標準的なアプローチ手法として、自社に適合している部分とそうでない部分を見極める「Fit & Gap(個別最適)」ではなく、アドオン開発(不足機能の追加)を行わず業務をシステムに合わせる「Fit to Standard(全体最適)」(【図表】)が主流となりつつある。
【図表】Fit & Gap と Fit to Standard のアプローチの違い
出所 : グローウィン・パートナーズ作成
タナベコンサルティングとグローウィン・パートナーズが共同開発した「DX Cloudコンサルティングプラットフォーム」では、このFit to Standardアプローチにより、現場で培ってきた経営数値管理・ERPシステム・業務設計力といった“生の現実解”を提供できる。ERPシステムとともに実行力を実装し、データドリブン経営推進の基盤としていただきたい。
経理業務アウトソーシング兼コンサルティング会社で経理実務から業務改善、システム導入などを経験。2012年グローウィン・パートナーズ入社。要件定義から構築までを主導。経理部門の再構築、経理業務のシェアードサービス化、会社分割における組織・システムの分離・統合などの案件に従事。ERP、会計、経費精算システムなど多岐にわたるシステムインプリメンテーションを主導。コンサルティング事業のセールス&マーケティングマネージャーとして多くのIT企業とのアライアンスにより新規の顧客創出を主導。2023年より現職。タナベコンサルティングと共同で、日本の中堅・中小企業のDXを推進する「DX Cloud経営プラットフォーム」を中心に、多くの企業に対してサービス提供を行っている。