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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.04.01

「ゲーミフィケーション」を用いた体験による経営者人材の育成 久保 多聞

経営者人材育成における体験の重要性

 

人材育成と聞くと、集合研修のOFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)や、業務内で実務指導を行うOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を思い浮かべる人が多いだろう。

 

近年は、この2つを掛け合わせた「実務と離れた体験型学習」が注目されている。職場や職務を離れ、まったく異なる環境での体験を通じて学習する「越境学習」や、実務で起き得る(実際に起きた場合に問題となる)ことを想定して学ぶ「シミュレーション学習」など、「体験」を重視した学習手法を指す。

 

体験型学習が注目される背景として、リカレント教育(循環型教育)やリスキリング(学び直し)など、人材の多様性への対応と、「クリエイティブ・リーダーシップ(創造的リーダーシップ)」を求める企業風土への変化が挙げられる。OFF-JTやOJTの効果がないわけではなく、その研修や指導での学びを定着させることを目的とした場合、体験型学習は効果的な手段と言える。インプットをベースにパフォーマンスの高い人材を再現する再現性重視の人材育成から、アウトプットをベースとした創造性重視の人材育成に変わりつつあるのだ。

 

ここまで、一般社員における体験型学習の重要性を述べたが、経営者人材の育成に置き換えるとどうか。前述の通り、人材育成の手法は数多くあるが、経営者を育成する手法は少ない。なぜなら、“経営をしてこそ経営者”だからである。

 

経営理論や技術を学び、事業責任者としての経験、マネジメントを積んだとしても、体験できないことがある。それは、「決断」だ。決断は「決定」とは異なり、決定は情報がそろっている中で決める行為。決断は、情報不足であっても決めなければならない行為である。

 

経営者は、外部環境など不確定要素が多い中でも、会社の行く末を左右する決断を何度も行わなければならない。決断力は、経営者に求められる最も重要な能力でありながら、実際に経営しなければ身に付けることが難しいのだ。

 

そのような経営者育成の課題を解決するのが、「ゲーミフィケーション」を用いた体験型学習である。

 

経営者育成の鍵は経営の「ゲーム化」

 

ゲーミフィケーションとは、「ゲームの要素をゲームとは異なる活動に転化させること」である。ビジネスにおいては、マーケティングや人材育成に使われることが多い。

 

ゲーミフィケーションは、時間を忘れてゲームに没頭してしまうように、参加者のモチベーションを高め、行動変容を促す効果がある。これは、競争や協力、挑戦などの仕掛けで、「ワクワク」「楽しい」「うれしい」「悔しい」などの感情を動かしているからだ。

 

ヒットするゲームには、①ゴール:達成感のある明確な目標、②ルール:明確な制約や限定、③自発的な参加:モチベーション、④フィードバック(リワード):成果や成功体験、という4つの特徴があると言われている。

 

これを経営に置き換えると、「ミッション(ゴール)に向かって、限りある経営資源(ルール)を使って製品やサービスを生み出し、またはマーケットに参入(自発的な参加)し、売り上げや利益などの成果を得る(フィードバック)」と置き換えることができる。つまり、ゲーミフィケーションを用いて経営そのものを体験することは可能なのだ。

 

この考えを、体験型学習による人材育成として落とし込んだのが、タナベコンサルティングが提供するオンライン経営シミュレーションゲーム「Management Experience Online」(以降、MX)である。

 

 

タナベコンサルティングが開発したオンライン経営シミュレーションゲーム「Management Experience Online」。企業経営に関わる多くの事象を分析し、経営計画を立案、意思決定を行い、他チーム(競合他社)と競争する中で、「経営の難しさ」を体験できる

 

「経営の難しさ」を体験する経営シミュレーションゲーム「Management Experience Online」

 

MXは、プレーヤーが架空の企業の経営者となり、オンライン上で自社を経営する。ほかのメンバーとのリアルタイムな競争を通じて、経営に対する深い理解と気付きを得ることができる。MXの経営者人材育成におけるメリットは、次の3つである。

 

❶ 経営に興味を持つ(動機付け)
経営者になるためには、経営そのものに興味がなければならない。「経営者になって何がしたいか」を考えさせることが重要だ。

 

MXでは、架空の会社の経営者になることで、「会社をどのようにしていきたいか、そのためにやらなければならないことは何か」を考えなければならないため、経営に興味が生まれ、MXの体験後も自発的な経営活動への参加を促すことができる。

 

❷ 経営者の思考が理解できる
経営者の思考は、社員にとって時に理解しがたいものである。例えば、社員は昇給や人員増加を望むが、企業経営の観点で見ると、人件費という固定費が増えるため、この判断には慎重にならざるを得ない。

 

限りある経営資源をどのように活用するか、MXを通じてその判断を経験し、理解できる。経営には、頭では分かっていても実際の立場になってみなければ得られない気付きが数多くあるのだ。

 

❷ 企業経営の技術を“身をもって”学べる
MXでは、企業の方針策定から計画立案、組織戦略、マーケティング戦略、販売戦略、そして財務戦略に関わるさまざまな事象を分析し、意思決定を行う。このうちどれが欠けても経営は続かず、ライバル(ほかの参加者)に勝つことはできない。

 

ゲームという競争環境においてライバルに勝つためには、これらの経営要素を余すことなく理解しなければならない。勝利や敗北といった競争を用いた感情をベースに、自己学習を引き出し、知識や技術を定着させることができる。

 

今、人材育成と体験は切り離せない関係性となりつつある。だが、経営というコンセプチュアルな領域においては、体験すること自体が難しい。ぜひ、自社の人材育成にゲーミフィケーションの考え方を取り入れ、心理と感情、そして理解と気付きを連動させた「究極の体験型学習」を実現し、経営者人材を育成していただきたい。

 

PROFILE
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久保 多聞
Tamon Kubo
タナベコンサルティング 戦略総合研究所 HRディレクション パートナー
タナベコンサルティング入社後、主にHR領域(組織・人事・教育)におけるコンサルティング業務、階層別研修の集客・運営業務などに従事。2019年4月より戦略総合研究所に配属され、人材開発専門チームのリーダーとして、セミナー・階層別研修における企画・集客・オペレーションの全社統括を担う。現在は全社プロモーションのチームリーダーとして戦略推進に携わりながら、DX商品の開発プロジェクトのマネジメントや各種アライアンスの連携にも従事している。