デジタル人材育成による長期的な「働き方改革」の実現:堀部 諒太
建設業ではデジタル化による業務改革が急務となっているものの、多くの企業が頓挫している。その理由に、「アナログの業務が多い」という建設業界特有の特徴が挙げられる。IT革命やDXによりさまざまな産業でデジタル化が加速したが、建設業は現場作業が主体であり、その生産プロセスに対応しきれていない。
しかし、一部の業務領域ではデジタル化が進みつつある。例えば、現場施工管理のリモート化や建築図面のペーパーレス化、ドローンを使った測量などである。一方で、基礎工事の型枠組みや鉄筋加工、外構工事のブロック積みなど、熟練工の特殊技術を必要とする業務のデジタル化は非常に困難と言われている。
さらに、建設業では、現場作業を主体とするアナログな生産体制ゆえにITリテラシーの低い人材が多く、デジタル化に抵抗感を持つことが多い点も、デジタル化が進まない理由の1つだ。
デジタル化が停滞しているそのほかの理由として、資金調達の難しさも挙げられる。デジタル化の推進には、デジタル技術の設計・実装、IT人材の発掘・育成といった工程が不可欠であり、相応の投資が求められる。豊富な資金調達手段を持つ大企業に比べ、多重下請け構造の下請け部分で現場作業を担う中小企業では、資金調達は難しい。
このような背景から、デジタル化の重要性は十分に理解しつつも、その実現には至っていない企業が多いのが建設業界の現状だ。今後は、専門的知識を持ったデジタル人材の育成を目的とした長期的な「働き方改革」を実施する必要がある。
デジタル人材に求められるスキルは、主に次の5つだ。
❶ 汎用的なデジタルスキル
まずはCAD(PCを用いた図面の設計ツール)やBIM※などの建設業界特有のデジタルスキルを身に付けることが重要だ。次のステップとして、プロジェクト管理ソフトやデータ分析ツールの習得を行う。
❷ データ分析スキル
IoT機器やセンサーテクノロジーから得られるデータを分析し、建設現場での意思決定に活用するスキルである。データの可視化、データベース管理、統計解析などの需要が高まっている。
❸ クラウドとコラボレーションツールの併用
クラウドベースのプラットフォームとコラボレーションツール(組織のコミュニケーションや情報共有を支援するツール)を使ってプロジェクト情報をチームに共有し、リモート連携をサポートするスキルが求められる。また、サイバー攻撃に対するサイバーセキュリティーの理解も忘れないでいただきたい。
❹ 継続的な学習
建設業に限らずテクノロジーは常に進化しており、デジタルトレンドや新しいツールに関する継続的な情報収集が求められる。外部の専門的なトレーニングプログラムの活用も望ましい。
❺ チームコミュニケーションスキル
プロジェクトの異なる社員とのコミュニケーションを指す。デジタルかアナログかを問わず、コミュニケーションスキルは不可欠である。
次に、建設業におけるデジタルツール活用事例を3つ紹介する。これらの事例は、プロジェクトの効率性や品質の向上、リアルタイムデータの利用といった面で、現場に大きな変化をもたらしている。
❶ BIM
BIMを用いることで、プロジェクトの設計段階から施工プロセスまでの情報を統合し、データの一貫性を確保できる。また、トラブルの事前検出、効率的な設計内容の変更、施工スケジュールの最適化などが可能になる。
❷ ドローン
航空写真撮影や高所からのビデオ撮影、現地調査、進捗モニタリングなどに活用されている。安全な高所作業を実現し、効率的なデータ収集を可能にする。
❸ ロボット・自動化技術
ロボット・自動化技術の導入は、さまざまな業務に活用されている。例えば、自動建材運搬装置や3Dプリント技術を活用した建造物の設計などである。
紹介した3事例は、建設業界におけるデジタル活用の一部に過ぎない。デジタル技術は建設プロジェクトを効率化し、品質を向上させるための有力な手段である。今後もさらなる進化が期待されている。
前述のデジタルツールを活用できるデジタル人材を社内でどのように育成すべきか、事例と併せて3つ紹介する。
❶ BIMトレーニングプログラム
民間教育機関では、建設業界のプロフェッショナルを中心にBIMトレーニングプログラムを提供している。個人がスキルアップのために学ぶケースもあるが、企業がプログラムの受講費を負担し、自社の人材育成カリキュラムの1つとして活用するケースが大半である。
❷ ドローンスクール
ドローン運転免許取得に向けたドローンスクールの活用が増えている。若手社員にとっては、ラジコンのように扱うことができるドローン運転に楽しさを見いだすこともあり、ドローンパイロットとして職種を専門化したり、採用ブランディングに活用したりするケースもある。
❸ DX専門部署の創設
北海道江別市に本社を構え、北海道内において橋梁工事から道路・河川工事へと事業を拡大する草野作工は、「美しい建設業」を目指して、業界のイメージ刷新のためにDX専門部署を立ち上げた。
同社はもともとデジタル技術に精通した人材を採用しているわけではなく、自社での取り組みを通じて育成を行っている。
デジタル化が急速に進むものの、建設業は担い手不足が叫ばれて久しい。「デジタル人材がいなければ育てる」という発想を持ち、自社の教育環境・プログラムを充実させ、業界のDXに対応していくことがますます重要になる。
草野作工のDXルーム。現場で何がどう動いているかをリアルタイムで見える化する
※Building Information Modeling:コンピューター上に現実と同じ建物の立体モデル(BIMモデル)を再現し、建築ビジネスの業務効率化などに活用していく仕組み