現場とバックオフィスの連携
国内の建設投資額が増加する中、工事現場の人材不足は解消されず、多くの建設関連企業は次のような共通の悩みを抱えている。 ・何から改善を始めれば良いのか分からない ・生産性が低い ・現場業務の改善手法が分からない ・早期離職を防げない ・人材の育成手法が分からない 特に、現場を預かる責任者(現場代理人)の負担は年々増しており、働き方改革は待ったなしの状況である。 タナベコンサルティングでは、前述の課題を抱える建設会社に対し、「建設現場の働き方改革プロジェクト」を提案・推進してきた。本稿では、現場とバックオフィスが連携し、会社一体となって成し遂げていかなければならない「働き方改革」「生産性改革」について、取り組み事例とポイントを紹介する。現場業務を数値化・見える化
❶ 生産性 案件の引き合いはあるものの、人手不足で「案件の取り逃がし」が発生している。限られた人材でいかに生産性を高めていくかが重要である。 ❷ 案件の大型化 案件の規模が大型化しており、これまでの「現場代理人がほぼ全ての業務を担うスタイル」が通用しなくなっている。 ❸ 人手不足 慢性的な人手不足に加え、採用してもすぐに離職してしまう。 これらに対し、まずは現場の実態調査を行い、現場の働き方の問題点の抽出、課題整理、改善の方向性を示した。ポイントは次の4つである ❶ 業務の棚卸し 現場代理人の業務の棚卸しを行い、現場代理人でなければできない「コア業務」、現場代理人でなくても対応可能な「一般業務」に整理。 ❷ 現場の実態調査 「何の業務にどれだけの時間が費やされているか」を調査。調査のための専用スマートフォン「じょぶたん」を導入し、2週間にわたり15分おきに行っている業務内容を集計。 ❸ 現場のヒアリング 現場を訪問し、社員にインタビューを実施。現場の声を参考に問題点を抽出 ❹ 改善テーマの設定 ❶~❸の分析結果を踏まえ、「急いで改善すべき業務」と「改善効果の高い業務」に分け、優先度の高い改善テーマを設定。 次のステップとして、「働き方改革プロジェクト」を立ち上げ、業務効率化に向けた具体策、役割分担、アクションプランを策定・推進した。主なポイントは、次の6つである。 ・現状の業務フローの整理と、在るべき業務フロー(新業務フロー)の設定 ・新業務フローの実行に向けた行動計画の策定 ・新業務フローのテスト導入 ・新業務フローのマニュアル作成 ・新業務フローの全社展開 ・成果検証(全社展開後、成果検証を実施)やめる・改める業務を決める
中堅建設企業A社では、現場代理人が本来行うべきコア業務の時間配分を高めるべく、働き方改革プロジェクトを立ち上げて業務を見える化し、一般業務の分業化・効率化に取り組んだ。 これまでA社は、現場代理人が竣工後、次の現場に移るまでに約2カ月の期間を必要としていた。竣工後にさまざまな書類作成、事務処理、施主対応など、多岐にわたる業務を現場代理人1人で抱えていたからである。しかし、その業務の多くは、現場代理人以外でも対応可能な一般業務であった(【図表】)。働き方改革プロジェクトでは、これらの業務の進め方を見直し、やめること、改めること(分業化・簡素化・標準化、IT化)を定め、実行した。 【図表】中堅建設企業A社の現場監督の業務時間配分
出所 : タナベコンサルティング作成
例えば、竣工図の作成である。現場代理人は、竣工図面の制作に約1カ月を要していた。その業務負担は大きく、多くの現場代理人から改善を求める声が上がっていた。
そこでA社は、本社に竣工図面が作成できる専任のCAD(PCを用いた図面の設計ツール)オペレーターを設置し、工事の進行中に図面変更が発生するたびに、現場代理人からCADオペレーターに図面変更依頼を行い、CADオペレーターが図面を修正するという体制(分業化)に変更した。
結果として、現場代理人が1つの工事終了後、次の工事に取り掛かるまでに要する期間を2カ月から0.5カ月まで短縮でき、生産性(現場代理人1人当たりの工事請負額)も、1年後に103%、2年後に125%へと改善した。現場代理人の業務の負荷軽減とともに、あるべき形へ標準化を進めていき、生産性改善につながった事例である。
「まずはやってみる」マインドを持つ
筆者はクライアント企業の業務改善コンサルティングに関わる中で、業務改善が成功するかどうかの分かれ目は、「『まずはやってみる』マインドを持っているかどうか」にあると考えている。 改善が進まないケースは、改善の方向性は見えているものの、実行段階で「やり方を変えるのは面倒。うまくいくかどうか分からないし、今のままで良い」という考え方が幹部社員の根底にある場合である。この場合、往々にして改善は進まない。 改善が成功するケースは、「やり方を変えるのは面倒で、うまくいくかも分からないが、まずはやってみる」と、一歩踏み出せる場合である。このような企業は取り組みのスピードが早く、高速でPDCAが回る。 自社の「働き方を変えたい」「現場を改善したい」「体質強化を図りたい」と考える場合、まずはやってみることが、小さいようで大きな第一歩だ。ぜひ変革につながる一歩を踏み出していただきたい。PROFILE
大裏 宙
Hiroshi Ooura
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン チーフマネジャー。BtoC向けサービス事業(外食・教育・介護・保育)を全国展開する上場企業に勤務し、経営企画、店舗開発、FC加盟店開発、新規事業立ち上げを経験後、タナベコンサルティング入社。主に建設業における事業戦略構築、人材育成、働き方改革推進を得意とし、全国で多数の実績を有する。