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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2023.12.01

建設業の「働き方」を改革するポイントと事例 石丸 隆太

2024年問題が襲来
  日本では少子高齢化が加速し、生産年齢人口が減少し続けている。そうした中、生産性の向上や魅力的な職場づくり、個人のモチベーションの向上を通じて人手不足を解消する趣旨で、一般企業では2019年から順次関連法案が施行され、「働き方改革」という言葉も定着した。しかし、建設業は次の理由によって2024年まで期限を延長されている。   ❶ 他業種よりも長い労働時間 2022年度年間出勤日数は、調査した産業の平均211日に対し、建設業においては240日と、29日も多く出勤※1している。   ❷ 設定された工期や厳しい単価への対応 結局、“顧客ありき”であるため、顧客の厳しい工期の要望や価格の激しいコンペがあった場合、「働き方改革」という言葉だけで、工期を縮めたり単価を引き上げたりすることは不可能となっている。つまり、他社との競争に負けずに自社を存続させるためには(厳しい条件でも)受けざるを得ないというのが実情である。   ❸ 長時間働くことが文化として染み付いている 建設業の場合、技術重視の側面が強く、画一的な業務が少ないことから、どうしても“こだわり”が生まれやすい。そのため、業務フローなど現場監督のこだわりが長時間労働を生み出す環境をつくっている。   こうした背景を踏まえ、働き方改革の早急な対応が難しい業種として、建設業は特例的に残業時間の上限規制(【図表1】)が猶予されていたが、2024年4月1日からは猶予がなくなる。いわゆる2024年問題である。   【図表1】上限規制のイメージ 上限規制のイメージ 出所 : 厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」を基にタナベコンサルティング作成    
建設業の働き方改革への対応
  2024年4月1日から働き方改革関連法案が本格的に施行される。ここで【図表2】を見ていただきたい。 【図表2】によると、建設業の2022年の年間総労働時間は1962時間である。2019年の「働き方改革関連法」の施行に伴い、2019年から2022年の間で56.4時間削減している。この削減幅は、製造業(同期間で37.2時間削減)や全産業平均(36時間削減)に比べると大きく、働き方改革への努力は評価できる。しかしながら、元々の労働時間が長いため、やはり建設業は労働時間が長いという見え方になってしまうのである。   とはいえ、建設業は長時間労働の是正に日々取り組んでいる。主な取り組みは次の通りである。   【図表2】1人当たりの年間総労働時間の推移 1人当たりの年間総労働時間の推移 出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」を基にタナベコンサルティング作成 (事業所規模5人以上対象、年間総実労働時間 =月平均総実労働時間×12カ月)   ❶ 移動をなくす 建設業では近年、DXへの投資を着実に進めている。建設業界では特に対面の習慣が根強く残っており、朝礼、工程会議、予実管理など、「とりあえず集まる」習慣があり、その移動時間が生産性を落としていた要因でもあった。   そこにタブレット端末やオンライン会議ツールなどを導入し、現場から本社、現場から現場などへの移動を削減。これにより、コア業務により時間をかけることができるようになり、生産性が改善した。   ❷ 会議をなくす 「集まって会議をする」習慣をなくした建設業は、さらに会議自体もなくしていった。情報共有クラウド、現場管理アプリなど、現状をデジタルで共有することで、顔合わせ自体がそもそも不要になる。自社だけではなく、協力会社の作業員にも普及させることで、現場全体の情報をデジタルで共有する仕組みができている。   ❸ 経験の差を埋める 土木工事において、レベル出し※2や位置の測量は新人にとって大きな難関であり、経験を要する作業になるが、ICT建機ではそれが不要になる。またMR(複合現実)などは、現実空間とデジタル映像を重ね、現場の状況を理解しやすくすることで、次の作業の検討時間を大幅に短縮している。今まで経験によって短縮していた作業時間を、デジタル技術が代替しているのである。   次に、デジタルを活用した働き方改革への取り組みの事例を3つ紹介する。     事例1:ウエアラブルカメラを活用した働き方改革   A社は生産性向上の取り組みとしてウエアラブルカメラを活用し、発注者や品質証明員の現場立ち合いをPC上で解決し、遠隔地への移動や出張を削減した。また遠隔で映像を見て、指示出しなどもできるため、作業員の経験不足をカバーできる。こうして、熟練者が必ず現場にいなくても現場が回る仕組みを整えた。     事例2:現場施工管理システムを活用した働き方改革   建設業は多重請け構造で、下請け業者が多い現場もある。現場では車両の出入り調整やクレーンの使用割り当てなど、細かい調整が日々発生しており、聞き取りや共有などの調整に時間がかかる。B社はそれを現場施工管理システムに事前入力し、各社に発信することで、調整会議の時間短縮を実現した。     事例3:ドローンを活用した三次元測量による働き方改革   C社はドローンによる三次元測量を行い、土量を算出している。特に広範囲の測量には多くの人員と時間を要するが、ドローンを活用した三次元測量を行えば、任意の箇所での確認ができる。その結果、作業時間を大幅に削減できた。   このように、現場の業務フローに添ったさまざまな工夫を通じ、移動や作業、会議などの時間を削減している。ここで挙げた事例は、他の建設会社でも検討または実行していることが多い。経営者はそれぞれ自己資金や借入・リースなどを活用し、積極的にデジタル投資を行っている。   しかしながら、それでも他業種と比較すれば総労働時間が長いというのが建設業の実態であり、その先のブレークスルーをどうすれば良いのかと頭を悩ませている。   建設業の働き方改革実現に向けたブレークスルーとは 建設業の働き方改革実現に向けたブレークスルー   建設業はDXへの投資によって数々の改革を進め、従来のやり方から脱皮し始めていると言えるだろう。改善をさらに進めるため、タナベコンサルティングは次のように提言したい。   ❶ 捨てる 「捨てる」とは、割に合わない要求をする企業との取引関係を見直すことである。極端に言えば、取引条件に合わない先との取引をやめるということだ。減少してはいるものの、今でも適正ではない価格での取引や無理な工期を要求してくる元請先や発注者が多いのが実態である。   無理に仕事を受けたものの、人を増やせば赤字になる。また、無理な工期を間に合わせるために現場監督や作業員に負担をかけるケースも生じる。もちろん、対外的な信用を得られる、最先端技術の中で作業ができるなど、無理な要求をされても相手が大手であれば取引するメリットはあるだろうが、結果として従業員が疲弊してしまうと、離職につながる。持続的な成長にはつながらず、ましてや労務面での問題が発生すると社会的な信用も失う。   現在、人件費や材料費の高騰の中で、デベロッパーからの値下げ圧力が高まっているが、業績をつくりつつ、働き方改革を実践している企業も数多くある。決して無理な話ではなく、経営者が「取引条件を見直す、場合によっては取引をやめる」ことを選択しているのである。   また、ある建設業では、組織における働き方改革を実践したら作業員が退職するという事例が発生した。「長時間働けないと、給与が下がる」という理由だ。長時間働かなくても給与が今までと同じ水準でもらえる。こんな取引条件を与えてくれる顧客こそが、自社の真の顧客ではないか。   ❷ 改める 「改める」とは、今までの常識的な考え方を改めるということである。「建設業では1から10まで覚えて一人前」と聞いたことがある人も多いのではないだろうか。日中は現場を回り、日々忙しく過ごす中、「修行」「自己啓発」と称し、図面を書いたり読んだりして、気付けば終電まで仕事をしていた経験のある方もいると思う。しかも、「修行」「自己啓発」だから残業代もつかない。しかし、そんな働き方が常態化していれば、他の産業との採用競争の中で選ばれるはずがない。   一通り自分で覚えた後で、やっと現場で活躍できるということではなく、どこかの部分で活躍させる、いわゆる「オールラウンダー」ではなく「スペシャリスト化」を図っていくべきである。例えば、安全書類(グリーンファイル)や図面の作成などは、現場ではなく事務担当者が担うといった分業もその1つである。現場でチェックをしっかりと行えれば、仕事は回るはずである。   新入社員には、まずは部分的な仕事を任せるようにし、ジョブローテーションの中で全体の業務を覚えさせるという育成の仕組みをつくっていくことで、今までのやり方も大幅に変わるはずだ。実際、大手建設会社は分業体制で業務を進め、業務サポートの部隊を組織化し、効率化を図り、働き方改革につなげている。   また、従業員全体へ組織の働き方改革の重要性を根気強く周知する教育も必要である。長く業界で活動をしてきた者ほど、長く働くことへの耐性が付いてくるので、「こんなことをやっても人は育たない」という考え方を持つ人が一定数、存在する。   そのため、結局は現場ごとに自己流の管理ややり方で通し、全体での働き方改革への取り組みが浸透しない建設会社も多い。この場合は定期的に研修などを開催し、ゼロから必要性を伝え、理解するまで根気よく説明することが大切だ。   ❸ 加える 「加える」のは、デジタル発想だ。デジタル化の事例は前述の通りだが、まだ足りないのが実態である。今の業務を削減するためには、どの業務にどんな投資が必要かについて、自社の業務フローに合わせて目標を決め全体のデジタル投資戦略を組み立てなければならない。   同時に、自社の経営課題に対して組織的にアプローチする手法も併せて考えていく。「自分たちの業務をITでどのように変えていくのか?」という構想が必要である。「自社の社員のITリテラシーが低いから」「何から変えれば良いのか分からない」といった話も聞くが、そうであるならば、教育したり、外部の知見を頼って前へ進めたりすることが解決の糸口である。できない言い訳を先にしてやらないのは、単なる逃げである。   ただし、IT投資を進めすぎて、誰が何を使ってやっているのか分からない管理不在の状態にしてしまうのは危険であるため、役割を明示するよう留意していただきたい。だからこそ、組織を機能させるために全体を踏まえたIT投資戦略が必要なのである。   これからの建設業の事業戦略は、人材採用の上に成り立つと言っても過言ではない。人を採用し、育成し、定着させなければ、事業で実現したいことも不可能となる。   人材が自社の未来を決めるのであれば、建設業のライバルは建設業ではなく、全業種である。他産業との採用競争に打ち勝ち、選ばれなければならない。異業種の働き方や制度などにも視野を広げ、検討してもらいたい。そうすることで、他にはない働き方改革を実現している魅力的な建設業に生まれ変わろう。   ※1 厚生労働省「毎月勤労統計調査」、日本建設業連合会「建設業デジタルハンドブック」 ※2 レベル(水平)測量。地表の高低差を測定して水平線を確立する、土木工事の基本技術
PROFILE
著者画像
石丸 隆太
Ryuta Ishimaru
タナベコンサルティング 執行役員 金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋をつくる」ことを得意とする。また現場においては、決めたことをやり切る自立・自律した強い企業づくり、社員づくりを推進し、クライアントの成長を数多く支援している。