パーパス・MVVという概念が普及する前から、私はコンサルタントとして、数多くの企業の経営理念策定プロジェクトに関与してきた。この経験上、一定規模以上で経営理念や社是、社訓などがない日本企業はほぼ存在しない。
ただ、何もない状態から策定するより、今あるものの修正・変更の方がより難しい。なぜなら既存の理念は、創業者の思いや歴代の経営者の意思が盛り込まれた、ある意味“聖なる言葉”だからである。
つまり、正確には経営理念の策定という言葉よりも、キュレーションやアップデートという表現の方が正確であろう。キュレーションとは現在ある情報や内容を収集・整理・分類して目的の様式に再編集する作業であり、アップデートとは既存のものを現在の状況に即した内容や表現に更新する作業である。
パーパス・MVV策定のゴールとして、現状、企業によって2つのパターンが存在する。1つは、現状の経営理念や社是などをそのままの形で残し、それと関連性を持たせつつ、別にパーパス・MVVを作成するパターン。もう1つは、現状の理念や社訓などを精査し、それらをいったん言葉や表現の粒度に分解・コンテンツ化した上で再編集し、パーパス・MVVの形に変換するパターンである。
新しく提示されるパーパス・MVVは、各ステークホルダーに認知・浸透されなければならない。つまり、パーパス・ブランディングである。
そのための取り組みとして「パーパス・リデザイン・プロジェクト」を推奨したい。パーパス・MVV策定のプロジェクトを社内で組成し、次世代メンバーや若手社員などをプロジェクトメンバーとしてアサインする。そして、専任のプロジェクトメンバーに限らず、分科会やインタビュー、アンケートなどの手法を活用しコミュニケーションをとることによって、可能な限り多くの社員の思いや意見を取り入れ、巻き込んでいく。
企業規模が大きくなればなるほど大掛かりになるが、その分、社内での認知度が上がり、参画意識も芽生える。それによって自然な形でインナーブランディングが進んでいく。アウターブランディングは、そうした土壌が形成された上で実施していかなければ、文字通り絵に描いた餅のまま終わってしまう。
パーパス・MVVは明示されるだけでは意味がなく、本稿で紹介した各企業のように、長期ビジョンや中期経営計画、KGI(重要目標達成指標)、KPIなどに連鎖され、社員一人一人の行動となって実践・推進されなければならない。(【図表2】)
【図表2】パーパス・MVVモデルの経営ストラクチャー
「組織は戦略に従い、戦略は理念に基づき、理念は組織で実践され、初めて成果となる」。理念や社是、パーパス、MVVなど時代や企業によって名称や表現は変われども、変わることのない経営の本質である。