企業が持続的な発展を遂げるには、社会やステークホルダーに有益な企業として認められ、顧客から最初に声がかかる会社「ファーストコールカンパニー」になる必要がある。それには、公共性・社会性が広く求められる現代において、有益な製品・サービスを提供するだけではなく、社会やステークホルダーに貢献するブランドビジョンを掲げ、自社の社会的な必要性を印象付けなければならない。
企業ブランドとは、提供する製品・サービスはもちろん、広告やSNSなどのコミュニケーション、名刺や封筒などのコーポレートツール、従業員一人一人の振る舞いなど、さまざまな機会を通してステークホルダーに蓄積・形成されていくものである。
社外に自社の企業ブランドを魅力的に認識させるためには、タッチポイントに一貫性を持たせることが重要であり、まず、企業のブランドビジョンである企業理念やミッション、ビジョンを社内に浸透させる必要がある。
「自社に対する良いイメージを社外の人に持ってもらうためだけに、社内の隅々までブランドビジョンを浸透させるのは割に合わない」と思う経営者も多いだろう。
しかし、ブランドビジョン浸透の効果は前述の限りではない。ブランドビジョンを全社員が正しく理解することは、意識の統一による部門や会社全体のパフォーマンス向上に寄与し、結果的にクライアントの満足感へとつながる。また、社員同士の意思疎通が容易になり、働きやすい環境が実現するため、EX(エンプロイーエクスペリエンス:従業員体験価値)も高める。
転職が当たり前の時代となり、労働力が減少の一途をたどる昨今の日本でも、優秀な人材を確保するためにEXが注目を集めている。もともと人材の流動性が高い海外ではEXへの関心が高く、世界的ホテルチェーンのヒルトン・ホテルズ&リゾーツやコーヒーショップチェーンのスターバックスなどの大手海外企業では、EX向上を目的とした施策が充実している。
ここでは、ブランドビジョンの浸透・発信を通して企業イメージ・EX向上に取り組んだ事例として、イマギイレを紹介したい。
イマギイレは、建設機械や環境リサイクル機械のレンタル事業を中心に、社会インフラの創造や大災害からの復旧を支援する企業である。同社は2022年、長年掲げてきたブランドビジョン(企業理念と経営理念)を、社会貢献へのメッセージ性をより明確にするため「ヒト・まち・未来を支えるエッセンシャルカンパニー」に刷新し、2023年に創業50周年を迎えようとしていた。同社の新しいブランドビジョンを社内外に効果的に広めるためには、50周年という貴重な機会を生かし、周年ブランディングを実施することが最適であった。
まず取り組んだのは、新しいブランドビジョンの分析である。同社の存在意義や事業姿勢、社会への提供価値などの要素を抽出し、周年ブランディングの軸となるコンセプトを策定。それを基に設計した周年記念ロゴやスローガンの制定、ブランドムービー、LP(ランディングページ:特定の商品・サービスの紹介や販売などを目的としたWebページ)を設置することで、社内外への浸透を図る周年ブランディングを実践している。
【図表】イマギイレの周年ブランディングにおける一貫性と社外の関係性
周年記念ロゴは、「イマギイレが社会やステークホルダーとつながり、未来へとつながっていくイメージ」を具現化して、螺旋のように連続したやさしげな円のモチーフを採用。信頼感やサポート力、知性を感じさせる青をメインカラーに、成功や未来をイメージさせるゴールドをアクセントに用いながらデザインしている。
スローガン「つくるを支えて50年。これからも。」では、インフラの“創造”、地球にやさしい社会の“創造”、地域社会の“創造”を支援する企業姿勢と事業内容を力強く表現し、社会へのさらなる貢献と、100年先も一番に選ばれる会社へと成長する意気込みを感じる言葉になっている。
周年ブランディング企画の1つであるブランドムービーは、周年プロジェクトチームで取締役の今給黎徳丈氏と、ジェイスリーのブランドコンサルタントおよびコピーライターでディスカッションを繰り返すことにより、ムービーのストーリーをブラッシュアップしてメッセージ性を高めた。
社会やステークホルダー、未来へのつながりを具現化したイマギイレの50周年記念ロゴ
建設機械や社会インフラの創造、災害復旧と聞くと、力強い肉体労働を思い浮かべる人も多いだろう。イマギイレの仕事に対する誠実さと信頼感に加えて、社会に貢献する優しく知的で親しみやすいイメージを抱いてもらうために、動画内のコピーや映像に登場する人物の雰囲気、BGM、ナレーションの声質など細部の設計にまで注意を払っている。
さらに、基本となるストーリーは同一ながら、動画の締めくくりに周年ロゴとスローガンを使用した「周年タイプ」と、企業ロゴとタグラインを使用した「通常タイプ」の2パターンを制作。50周年以外でも使用できるように工夫した。
これらの周年ブランディング企画を発信する役目を担っているのが、LPの存在である。周年記念ロゴ・スローガン、ブランドムービーを使用しながら、代表メッセージや企業の歩みを紹介していくことで、企業の信頼感や社会的な必要性を効果的に印象付けている。さらに、50周年記念企画を順次掲載し、段階的に情報を更新・拡充していくことで、社内外のステークホルダーに期待感を持たせ、最初の1回だけでなく継続的にサイト訪問を促す効果も見込まれる。
冒頭の通り、企業の発展には自社の社会的な価値を印象付ける必要があり、そのためにはブランドビジョンを社内にも浸透させてタッチポイントに一貫性を持たせることが肝要だ。
イマギイレの事例のように、社会的なブランドビジョンからコンセプトを導き出し、施策に落とし込むことで有益な企業ブランドを確立していただき、ファーストコールカンパニーへの道筋としていただきたい。