ブランドとは、あくまでユーザーの頭の中にあるイメージであり、「ブランド力が高い」ということは、ユーザーにおけるマインドシェアが高いということを意味する。ブランディングがしっかり機能していれば、安定的なLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)や継続的な売上高の確保、新規顧客獲得コストの軽減、ライバルとの差別化、市場での価格優位性など複数のメリットがある。
ブランド力は知名度とイコールではない。もちろん、知名度を高めるためにマス広告などで企業名や商品名を発信し、知ってもらうことはブランディングの1つの手段ではあるが、本質的には、ユーザーに自社または自社の商品やサービスのファンになってもらうことである。
つまり、ブランディングはファンづくりであり、そのためには、自社の目指すブランドの在るべき姿としてのビジョンと、顧客を起点としたブランドストーリーを設計する必要がある。
前述の通り、ただ「知られている」だけでは「ブランド力が高い」とは言えない。企業の「こう思われたい」という考え、ユーザーの「こう思っている」という考えが一致していることが重要であり、その溝が少ないほどブランドは機能する。
そこで必要になるのが、ブランドビジョンやコンセプトを創ることだ。つまり、企業の理念や思想に基づき、ブランドの在るべき姿について言語化していく。
ブランドビジョンは、企業がそのブランドを通じてどう在りたいのか、何を実現したいのか、未来像や価値創造ストーリーを言語化したもの。そして、ブランドコンセプトは、自ブランドが顧客に約束するベネフィット(顧客が感じる知覚価値)・実現したい世界観を言語化したものである。
いずれも主体は企業であり、主観的に考えることになるが、前提としてユーザーの方を向いていなければ、そのメッセージは決してユーザーには刺さらない。
各種ブランディング施策は、このビジョンとコンセプトをベースに活動へ落とし込んでいく必要がある。ビジネスモデルから商品・サービスの機能、ロゴやアイコン、色づかい、音や香り、形、キャッチコピーなど、全てに一貫性を持たせなければ、ブランドがぼやけてしまい、十分な効果は得られない。
ブランディングを考える際、企業が犯しやすい間違いは2つある。
1つ目は、ユーザーが欲するモノ・コトを定義せず、提供する商品やサービスがユーザーにとってどう有利に働くのか、成功にどう役に立つのかを語らないことである。ユーザーは、常に肉体的・精神的欲求を解決してくれる商品やサービスを求めている。
2つ目は、情報過多で、理解してもらう労力をユーザーにかけさせ過ぎていることである。ユーザーは分かりやすい商品・サービスを好むため、極めてシンプルかつ洗練された情報を提供しなければならない。
アップルの製品が世界中で売れているのは、技術や機能だけが理由ではない。ユーザーの欲求に対し、アップル製品ならそれが実現できることを発信したからである。それが、「そう、iPhoneならね」というiPhoneユーザーになじみ深いフレーズに凝縮されている。
ブランディングを考える際に重要な観点の1つが、主役は自社でも自社の商品・サービスでもなく、ユーザーであるということだ。ユーザーを主役として考えなければ、そのブランディングは自社のエゴとなり、ユーザーの欲求や課題が置き去りになってしまいかねない。
主役(つまりターゲット)を特定したら、次はそのユーザーが商品やサービスに対して何を求めているのか、ユーザーが直面する問題について考える必要がある。ユーザーが求めるものを特定しなくては、ユーザーがその商品・サービスに引き込まれることはないだろう。裏返せば、この問題を正確に特定できれば、それだけユーザーの関心を高めることができる。
この問題は大きく分けて3つのレベルがある。
❶ 外的問題:外部環境的に事実として生じている問題・課題
❷ 内的問題:心の内部に生じる不満などの内的欲求
❸ 哲学的問題:社会問題や人間的価値に関する問題など
いつも外的問題が発端となり、ユーザーの心に内部問題が生じ、その結果、哲学的に解決すべき問題が発生する。重要なのは、ユーザーが購入するのは、外的問題に対する解決策ではなく、内的問題の解決策、ということである。ユーザーを本当に満足させ、自社のファンとするためには、提供する商品・サービスが外的問題・内的問題・哲学的問題を解決できるようにすることである。
そして、ユーザーの問題を解決するために登場するのが自社であり、商品・サービスである。ここで、再度間違ってはならないのは、あくまで主役はユーザーであるということ。企業は、ユーザーの問題解決を導く「メンター(指導者・助言者)」として登場する。自社を主役として語る企業は、そうと知らずに見込み客と張り合うことになる。企業がもう一人の主役として登場すると、ユーザーとの距離は縮まらない。ユーザーが求めるのは自分を助けてくれる(問題を解決してくれる)メンターであり、もう一人の主役ではない。(【図表】)
【図表】主役はユーザー、企業はメンター
最終的には、自社の商品やサービスがユーザーにどんなハッピーエンド(結末)をもたらしてくれるのかを分かりやすく、具体的に伝えることが必要である。結末は主に次の3つに分けられる。
❶ 何らかの地位や力を得る
商品やサービスによって、ユーザーが周囲から評価されたり、承認されたり、社会的な魅力を増したりするのに役立っている。
❷ ユーザーの感情的な不満が解消され、満たされる
イライラや負荷の軽減、余剰時間が生み出されて気持ちに余裕ができるなど、商品やサービスの利用によってこれらの不満や不安、不快などが解決され、より快適になる。
❸ 自己実現や自己受容
インスピレーションをかき立てられたり、購入代金の一部が環境保護に寄付されることによる自己満足感を得たり、普遍的な欲求である自己実現や自己受容が実現できる。
こうした結末を実感できれば、ユーザーはその商品やサービス、企業のファンとなり、リピーターになるだろう。さらには、周囲に宣伝してくれるようになり、ブランディング効果は加速度的に向上していく。
自社の商品・サービスは、利用するとユーザーの抱える問題を解決しているだろうか? ユーザーをハッピーエンドに導くことができているだろうか? しっかりとストーリーを設計し、ユーザーに発信していただきたい。