「人材アセスメント」とは、人材が持つ能力をデータとして可視化、評価し、採用・育成・活躍・定着に生かす手法である。
人材アセスメントは、タレントマネジメントや社内アカデミー(企業内大学)、社員エンゲージメント向上などの人事戦略において前提となる施策であり、全てはここから始まるといっても過言ではない。
可視化した人材データを企業戦略に生かすのがタレントマネジメントであり、人材データに基づき学習体験を向上させるのが社内アカデミーである。組織と個人のつながりの中で育まれる社員エンゲージメントの向上も、人材データを参考に個人の特性を把握することから始まる。HR関連施策において、人材データを客観的かつ定量的に取得できる人材アセスメントは必要不可欠なものなのだ。
人材アセスメントのポイントは、「社外の第三者が評価を行う」ことである。人事KPI(重要業績評価指標)にも用いられる人材アセスメントは、外部機関やツールを活用し、個人の主観が入らないように評価を行うことが重視される。その背景として、次の2点が挙げられる。
❶マネジメントの複雑化
働き方の多様化により、従来のマネジメントスタイルが通用しない時代になっている。例えば、テレワークの普及により、マネジャーが社員一人一人を注視して評価することが難しくなっている。
❷「個」を重視した人的投資
競合他社との差別化に向けて専門性が求められている中、従来のように画一的なキャリアが描けなくなっている。より個人に合わせた人材の配置・育成が求められており、客観的なデータに基づく人的投資が必要となっている。
人材アセスメントの本質は、「個人の特性を客観的なデータとして可視化すること」にある。
タナベコンサルティングが提言する人材分析ノウハウを基に紹介すると、人材の特性は、①性格特性、②行動特性、③環境特性の3つに大別される。この3つを組み合わせて人材を分析することで、個別最適かつ再現性の高い施策を立案できる。
❶性格特性
性格とは、個人が有する素質や個性、いわば「持ち味」であり、判断・行動の基盤となる特性である。性格は環境、人間関係、体験などによって形成されるものであるため、「性格は今後も変わり得るもの」として捉えて、「現段階においてどのような職能に適しているのか」「どのようなキャリアが必要なのか」を判断する必要がある。
タナベコンサルティングが提供する「性格能力判定」は、性格特性をベースに社員一人一人の適性を測定する。思考性・共感性・自律性などの13項目から個人の持ち味を分析できる。
❷行動特性
行動特性は、行動そのものや思考の傾向を表すものであり、知識や技術、経験に裏打ちされた個人の特性を示す。性格特性との違いは、「再現性が高い」ことだ。
パフォーマンスが高い(高い成果を上げられる)社員の行動特性を「コンピテンシー」と呼び、コンピテンシーを分析することで、他の社員のパフォーマンスを上げるための育成方法やキャリアステップを形成できる。
❸環境特性
「個人がどのような環境で活躍できるか」を把握することも重要だ。個人の成長や定着において、上司との関係性や同僚とのコミュニケーションが重要なことは明白であるにもかかわらず、明確な手を打っていない企業は少なくない。
組織は戦略に従うが、組織が機能しなくては戦略の意味がない。機能不全を起こさないためにも、社員それぞれがどのような環境で活躍できるのかをデータとして把握し、適合する組織・チームへと配属することが重要である。
性格特性を基に個性を分析し、行動特性でパフォーマンスを高め、環境特性でそれが生かされる場をつくり上げるという流れが望ましい。
人材アセスメントはあらゆる人事施策のベースになるが、それぞれのフェーズで活用方法は異なる。
❶採用活動における人材アセスメント
採用のミスマッチを防ぐ効果がある。採用時点で個人の性格特性、環境特性を理解することで、自社のカルチャーに合う人材であるかを効率的に判断できる。また、社員の行動特性を把握することで、「どのような人材が必要なのか」を分析できるため、より効果的な採用活動が可能となる。
❷育成における人材アセスメント
今後の人材育成は、「個別最適」が中心となるため、それぞれの職能・キャリアに合わせて育成していく必要がある。人材アセスメントを用いることで、個人に合わせた効果的な学習プログラムを構築できる。
❸活躍における人材アセスメント
コンピテンシーをベースにハイパフォーマーを持続的に育成していくことが重要である。自社のコンピテンシーを分析し、構成要素を抽出、再現することで、ハイパフォーマーを育成する。これらは、能力の高いマネジャーが部下に対して自然に行っていることが多いが、データ化されていなければ論理的な証明ができず、「あの人の下にいるとなぜか成長している」という評価にとどまり、再現性が低くなってしまう。
❹定着における人材アセスメント
前述のコンピテンシーとは逆に、離職傾向が高い行動特性を分析することで離職防止に活用できる。その後、環境特性を分析して適性値が高い部門への配置転換や異動を行う。離職原因がマネジメントにあるケースが多いことを踏まえると、360度評価や相互判定などでマネジメント層に対する自覚を促し、改善を図ることも重要である。
最後に、人事KPIに人材アセスメントを導入する際に注目したいのが、「経営者人材の選定」である。近年、経営者人材をプールし、選定、育成する「サクセッションプラン」に取り組む企業が増加している。
その第一ボタンとなるのが人材アセスメントだ。経営者候補の選任基準として、年齢・人事評価の他に、第三者機関によるアセスメント、多面評価の実施が求められているケースが多く、次期経営者の登用に対しても、客観的データに基づく判断が求められている。
経営者や役員のコンピテンシーを明確にし、候補者が適合しているかどうか、人材アセスメントを用いて判断する。候補者が基準を満たしていなければ、「どの特性を伸ばせば良いか」が分かることも人材アセスメントの大きな利点であるため、経営者候補の育成手段としても活用いただきたい。
人材アセスメントは、評価を見て満足してしまうことが多いが、「そのデータをどのように生かしていくのかを考えること」が最も重要だ。
そのためには、常に最新の人材データを保有し、過去・現在・未来において人材がどのように変化していくのかを常に察知できる体制を整備する必要がある。したがって、定期的にアセスメントを実施することをお勧めする。
戦略的にHR施策を実施していくためには、その前提となる人材データの収集が必要不可欠であり、人材データを媒介にあらゆる組織・人事的判断を行う必要がある。
人材アセスメント=データドリブンであることを念頭に置き、戦略的に活用していただきたい。