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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2023.06.01

新たな人材育成システムとKPIで人材価値最大化を実現:盛田 恵介

今こそ人材価値向上が必須

 

企業を取り巻く経営環境は、依然として先行き不透明な状況にある。こうした中、働き手の価値観の変化やデジタル化・自動化・省人化などの技術革新が進み、さまざまな業種・業態でビジネスモデルの進化や転換が加速している。

 

こうした企業の変化を阻むのが、組織・人材の課題である。具体的には、組織面の課題としては、デジタル化・自動化・省人化の進行による職務・職種の消失の懸念があり、スムーズに進まないことがある。また、新たなプロフィットセンターの設置や、遂行する付加価値の高い人材が必須となるが、そうした人材が足りないケースもある。

 

人材面の課題としては、上位層でいえば「世の中が大きく変化しているにもかかわらず、従来の成功パターンに固執し、戦略を転換することができない」「自分たちの事業は熟知しているものの、他事業については知らない」「他事業に興味がないが故にシナジーを発揮できない」などがある。

 

下位層でいえば、「指示待ちの姿勢」や「従来の仕事の進め方」を「正しい」と判断してしまい、生産性の高まるアイデアや提案がなされないケースがある。こうした課題を改善し、上位層から下位層まで付加価値の高い人材へシフトさせる必要がある。

 

 

人材ポートフォリオの転換と押さえるべき人材育成KPI

 

企業を取り巻く経営環境や組織・人材上の課題を踏まえ、予測される人材ポートフォリオを見ていこう。タナベコンサルティングでは、企業価値を最大化させる付加価値の高い人材を、「イノベーション人材(経営者人材)」と「プロフェッショナル」と捉えている。

 

経済産業省は2019年にイノベーションを「技術革新のみならず、市場に新しい価値を生み出すこと」と定義している。そこから、イノベーション人材とは「既存の技術・アイデアを組み合わせることで市場に新しい価値を生み出す人材」と捉えることができる。つまり、自社の正しい現状認識、市場環境を捉えた戦略設計に加え、事業を開発し、立ち上げ、成果を出すところまで求められるのである。

 

一方、プロフェッショナルとは、戦略推進上必要な高度な専門性を持った人材を指す。例えば、新たな商品・サービスの開発、ブランディング、生産性向上、エンゲージメント向上、人材力強化などを通じて、企業の経営課題の解決や戦略の具現化を果たしていく役割や使命を担う。

 

これまで見てきた課題や人材ポートフォリオから、企業が押さえるべき人材育成KPI(重要業績評価指標)の代表的な指標は、「プロフェッショナル人材数」「イノベーション人材数(リーダー・経営人材)」となる。自社の持続的な成長、安定的な付加価値向上を主眼に置くと、これらの人材を増やすことが重要といえる。

 

どちらのKPIも人員数を増やすことを前提とする。自社の中長期ビジョン・戦略を設計し、具体的な数値計画へと落とし込むときは、人員計画も組み立てるであろう。その際は、単に幹部・正社員・非正社員といった階層や雇用形態でくくらず、イノベーション人材・プロフェッショナル人材を何名採用・育成するのかを設計・数値化いただきたい。

 

具体的には、例えば新規事業やM&Aにおいて事業開発・推進を図る上では、経営者感覚を持ったイノベーション人材が必要である。そこで、事業戦略の展開ストーリーに合わせて、遂行する人材数を設定する。

 

加えて、昨今上場企業においては、サクセッションプラン(後継者育成計画)の作成、将来の経営者・役員候補者のトレーニング実施が求められていることからも、明確な人材育成KPIに基づくイノベーション人材の育成が重要になる。

 

また、プロフェッショナルにおいても、人材育成KPIに基づく育成が必須となる。例えば、組織設計を図り、新たなプロフィット部門が設置されるのであれば、プロフェッショナルの配置が必要不可欠だ。これらをマイルストーンとし、採用と育成を同時に実施していかなければならない。

 

 

人材育成KPI達成のための新たなアカデミーシステム

 

タナベコンサルティングでは、イノベーション人材・プロフェッショナル人材を創出するための仕組みとして、「リーダーシップアカデミー」「プロフェッショナルアカデミー」の2つを提案している。

 

リーダーシップアカデミーは、経営人材づくりを目的とした企業内大学である。具体的には管理職層から経営層に至るまで、必須・選抜式を組み合わせながら、段階的に経営人材を輩出するシステムだ。ポイントは、自社の現状と取り巻く経営環境を正しく把握し、未来の自社の在るべき姿を描くプロセスを通じて参加者の視点を広げ、視座を高めてもらうことにある。

 

プロフェッショナルアカデミーは、若手社員の早期戦力化や技術承継を目的とした企業内大学である。自社の保有している技術・ノウハウを体系化し、従業員の成長レベルにあった学習機会を提供することにより、業務遂行力・専門力を高め、段階的かつ計画的に人材育成を図る仕組みだ。

 

これまでの取り組みの進化と、より付加価値の高い人材創出、さらに人的資本の可視化を踏まえ、今後は次のポイントに留意し、新たなアカデミーシステムへのステージアップを検討いただきたい。

 

❶「体験」する学習機会をつくる

 

従来は、オンデマンドでインプットを行い、オンライン・リアル研修でアウトプットを行うアクティブラーニングが提唱されていた。これらを通じ、受講者の視点の広がりや視座の高まりを実感した経営者は多い。一方、思うような手応えを感じるまでに至らないケースがあったことも実情である。

 

A社の次世代幹部育成研修では、自社の戦略設計をテーマとして進めていたが、経営者が納得いくような戦略は設計できなかったという。原因は、受講者が部門・セクションのリーダークラスであり、実務レベルでの対策しか思い付かなかったからである。

 

A社の経営者は「自分と同じ経験をさせないと、これ以上アイデアが出てこない」と悩んでいた。そこで、経営者と同じ経験をさせるために、優秀でユニークな企業を視察したり、成功している経営者の話を聞いたりする機会を提供。これにより、社員(受講者)はさまざまな企業の成功事例や戦略設計、施策立案などを「体験」を通じて学ぶことができ、新しい戦略のアイデア創出につながった。

 

❷人的資本をコントロールするプラットフォームへ転換する

 

人的資本の開示がますます求められる中、企業が押さえておくべき人材育成KPIの代表例は先に紹介した通りである。しかし、これだけではなく、その他の人材育成における指標として、受講・参加率や1人当たり研修時間、教育投資額などもISO30414(人的資本情報開示のガイドライン)やコーポレートガバナンス・コードに示されている。

 

これらを可視化するためには、人材育成における指標を常にモニタリングできるLMS(ラーニングマネジメントシステム)やLXP(ラーニングエクスペリエンスプラットフォーム)などといった人材育成システムが必要不可欠になる。オンデマンド学習の実現・推進ではなく、人的資本コントロールを目的の1つに加え、人材育成システムの見直しを図っていただきたい。

 

昨今の経営環境下において、人的資本経営の取り組みやその重要性は高まる一方である。自社の課題、人材ポートフォリオと向き合い、社会課題を踏まえた新たな付加価値を創造するリーダー、プロフェッショナルの育成に取り組んでいただきたい。

 

 

人材育成の新たなシステムとKPIについて語る盛田恵介

 

 

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PROFILE
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盛田 恵介
Keisuke Morita
タナベコンサルティング HRエグゼクティブパートナー。セミナー責任者を経てコンサルティングに携わる。人づくりをデザインする総合プロデューサーとして、企業の人事・教育制度構築から運用に至るまでトータルでサポート。特に、さまざまな業種・業態の企業内大学(社内アカデミー)設立に実績を有し、多くの社員の成長を促すプログラム開発にクライアントから高い評価を受けている。