- 【図表】メンバーシップ型とジョブ型の違い
本稿では、人事KPI(重要業績評価指標)のモニタリングを実装していくために、人事システム(ここでは採用・評価・配置・分配の一連の人事・労務に関する諸制度を指す)とタレントマネジメントを連動させていくポイントについて解説する。特に、タレントマネジメントを的確に運用するために必要なタレントマネジメントシステムと呼ばれるデジタルツールの導入ポイントについて述べる。
タレントマネジメントとは、組織内の人材が持つ過去の経歴や培われたスキル・知識、多様な経験などにフォーカスを当て、それらを個のタレント(才能)と見立て、適切に評価し、育成・配置することで、企業の経営目標達成に資する人材マネジメントの手法を指す。
簡潔に述べると、社員の強みを最大限に生かすということであるが、単に社員の得意とすることを整理して生かすのではなく、その過程を通して社員のやりがいやエンゲージメントを高めていくことが狙いとなる。
A社で実際にあった話をしよう。A社は採用力を高めていく一環として、ある社員の1日を漫画にしてみようという企画が上がった。そこで外部パートナーの選定を行っていたところ、実は、A社で倉庫の出荷実務に携わっているBさんは絵を描くことが得意だということが分かり、外部パートナーではなくBさんにお願いをすることとなった。
するとBさんは題材を集めるために、他チームの社員と話をしたり、あらためて自社の歴史を調べたりと、これまでにない行動を取るようになった。漫画の完成以上に、やりがいを持って楽しそうに仕事へ取り組む姿勢に、Bさんが変わったという話である。
これは極端な例かもしれないが、隠れた強みや経験を自社の経営目標を実現するために活用することが、タレントマネジメントの目的である。
昨今、「ジョブ型人事制度」というワードを目にすることが多い。その背景には、多様な人材の採用と適材適所の実現を図っていく狙いがある。ビジネス環境の激変に合わせ、ビジネスモデル変革や顧客の課題・ニーズへスピーディーに適応し、高付加価値な商品・サービスを開発・提供していくためにも、日本ならではの「メンバーシップ型」のゼネラリスト志向ではなく、「ジョブ型」のプロフェッショナル志向の人材マネジメントが有効となる。
また、ジョブ型まではいかなくとも、スキル管理を徹底し、社員一人一人の強みと不足の明確化を行うことも、多様な人材の採用と適材適所を実現する人材マネジメントの一環である。前者ではいわゆる職務要件書(ジョブディスクリプション)、後者ではスキルマップが必要不可欠であるが、どちらも適切な管理に課題を抱えるケースが多い。
その理由として、管理対象となる事項が非常に多くなり、管理・運用業務が煩雑になるためである。そこで有効なのがクラウド型のHCM(Human Capital Management:人的資本管理)ツールであり、代表的なものとしてタレントマネジメントシステムが挙げられる。
人事システムの適切な運用に効果を発揮するHCMツールであるが、特にジョブ型人事制度やスキルマップの導入をする企業で有効といえる。冒頭で触れたように、人事KPIのモニタリングを行っていく上で、例えば工場において職場ごとのスキル充足度(多能工の推進度の可視化)を管理したり、社内の重要ポジション(主に役職者)における後継ぎの有無を把握したりするなど、人事に関する定量データを抽出できる。経営目標実現のために必要な人事データを抽出・分析・モニタリングすることが、定性的な“感覚人事”からの脱却につながるのである。
一口にタレントマネジメントシステムといっても、多様な商品・サービスがある。自社への導入に当たり、何をどのように検討していけば良いのか、3つのポイントを説明する。
❶システムの得意分野を押さえる
タレントマネジメントシステムにはそれぞれ得意分野があり、大別すると次の通りである。
①多機能タイプ(評価からサーベイ、人材管理まで幅広い)
②人事評価機能に強みを持つタイプ
③目標管理機能に強みを持つタイプ
④人材管理・活用機能に強みを持つタイプ
一見、多機能タイプが網羅的であり良さそうに見えるが、導入目的とコストのバランス次第である。導入したが一部の機能しか使っていない(または使えていない)というケースも散見される。
❷全社員が使いやすいUI
システムを利用するのは基本的に全社員となる。例えば、評価実務の場合、被評価者は自己評価を行う際に使い、評価者は評価をする際に使い、また面談時にもシステムを開きながら行うといった具合で、日常の中で使うことが想定される。そのため社員が受け入れやすいUI(ユーザーインターフェース)かどうかも、成功を左右する大きな要素の1つである。
❸更新管理の担当者を決める
多くのベンダーでは初期設定までのサポートサービスはあるが、その後は費用の兼ね合いもあり、自社で運用することがほとんどである。その際、入退職管理や配置変更など日常的に更新管理をする必要があり、更新管理の中心人物を決めておく必要がある。ただし、スキルマップや資格取得などの更新は各部門・部署単位ですることも可能なため、管理権限とひも付けて設計しておくと良い。
最後に、システムは魔法のツールではないということを述べておきたい。紙やエクセルなど既存の運用方法に固執するあまり、システムを決めきれず導入が遅れるケースに直面したことがある。人事業務の効率化だけが目的ではなく、やはり人材が持つタレントを発掘・開発し、最大限に経営に生かしていくことが目的である。運用方法を変えることも視野に入れ、ぜひタレントマネジメントを自社へ実装していただきたい。