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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2023.06.01

人的資本経営を加速させる人事KPI:竹内 建一郎

 

デジタルを活用した人事KPI設計

 

人的資本経営を推進すべく「取締役会・経営会議などのトップマネジメントの改革」や「CHRO(最高人事責任者)の設置・人事部門の機能強化」を行っても、これらの機能が適正な意思決定をするには正しい情報、つまり人事KPIが必要となる。

 

経営におけるKGI・KPIと同様に、人事KPIも日常の経営活動の中でタイムリーに進捗や結果が分かる状態でなければならない。人事KPIにおいて、従業員エンゲージメント、タレントマネジメント、教育システムなどの「人事DX(HRDX)」が基本といえる。

 

従来、人事の意思決定は、どちらかというと感覚的に行われていたが、近年の技術革新によって、客観的なデータに基づく意思決定ができるツールが数多く世に出ている。デジタルツールを活用すれば、人事における意思決定の精度を上げていくことが可能になっている。

 

❶従業員エンゲージメント

 

経営戦略の実現に向けて、人材が能力を十分に発揮するためには、社員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組める環境の整備が必要となる。やりがいや働きがいのある会社は、従業員エンゲージメントのスコアが高い。

 

タナベコンサルティングの「TCGエンゲージメントサーベイ」は、「仕事エンゲージメント(熱量)」「組織エンゲージメント(愛着)」「カルチャー(信頼)」の3つからなるエンゲージメントスコアと、成果を示すパフォーマンススコアを掛け合わせ、自立・自走する組織になっているかを客観的に判断できる。

 

仕事エンゲージメントは仕事と社員の関わり方(働きがい)を表す指標であり、組織エンゲージメントは組織・仕事と社員の関わり方(働きやすさ)を表す指標で、この2つをカルチャー(企業文化・風土)が支えている。

 

例えば、戦略を理解しているものの、戦略に基づいて行動できていない企業は、自立・自走する組織とはいえず、エンゲージメントが低いと判断される。事業所別・部門別、階層別、勤続年数別などでエンゲージメントスコアを定期的に把握し、組織・個人に対して対策を検討する必要がある。

 

❷タレントマネジメントシステム ~ピープルアナリティクス~

 

従業員の属性データ(年齢・性別など)、行動データ(位置情報など)を収集・分析し、採用・配置・異動・育成といった人事管理や、エンゲージメント向上などの施策や意思決定、課題解決に生かす手法を「ピープルアナリティクス」という。

 

マーケティング領域で、すでにデータドリブンな取り組みが加速しているように、HR領域においても、勘や経験だけに依存しない、データを活用した精度の高い意思決定を行えるツールが数多く開発されている。

 

例えば、新規事業開発部門の立ち上げに際して、自社内でクリエイティブ人材を探すとき、多くの企業は、学歴・経験・性格特性・資格といった属性を頼りに選抜していく。しかし、クリエイティブ人材は、他部門の情報や異業種の情報を統合し、新しいアイデアを生み出していることが多い。つまり、クリエイティビティーを発揮する人材の発掘には、社内外に人脈・ネットワークを持ち、実際に活用しているかといった、実務におけるコミュニケーション行動などの情報も必要となる。ピープルアナリティクスはこうした行動データも収集できる。

 

ピープルアナリティクスを実装するには、自社が保有する人材情報を収集しなければならないが、多くの企業はどういった情報を集めたらよいのか分からず、情報も一元管理されていないのが実情である。例えば、コンサルティングの現場では、人事に関する基礎的な情報は人事部門で管理され、各従業員のパフォーマンスに関する情報は事業部しかつかんでいないという状況をよく目にする。

 

タレントマネジメントシステムなどを活用しながら情報の一元化を進めることが、ピープルアナリティクスの第一歩である。ピープルアナリティクスは、サクセッションプラン(後継者育成計画)、人材ポートフォリオの設計、プロフェッショナル人材の育成、人材育成投資など、人事戦略のKPI設計に活用できる。(【図表2】)

 

 

【図表2】ピープルアナリティクスの活用領域と人事KPI

出所:タナベコンサルティング作成

 

 

❸教育システム

 

人材育成投資の在り方については、次の2つの観点で抜本的に見直す必要がある。

 

1つ目は、プロフェッショナル人材など専門人材の育成投資である。人材が成長し、変革が起き、事業革新が起き、企業価値が向上する。事業戦略推進のため、組織・人材戦略からの人材育成投資のアプローチが求められる。

 

2つ目は、つぎはぎ型の教育でなく、戦略課題・経営課題をしっかりと押さえた上で、体系的な教育を展開していかなければならない。体系的に展開するには、在るべき姿や習得しなければいけないスキルを明確にし、全体設計する必要がある。最近では、リアル(対面型研修)にプラスして育成の仕組みにデジタルを活用して、早期戦力化・学びの標準化を実現している企業も増えている。

 

 

人的資本経営を加速させる人事KPI:竹内 建一郎

 

 

 

 

PROFILE
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竹内 建一郎
Kenichiro Takeuchi
タナベコンサルティング 取締役。大手メーカーにて、設計・開発業務を中心とする商品開発に携わり、その後、タナベ経営(現タナベコンサルティング)へ入社。企業再建から成長戦略策定まで、200社以上のコンサルティングに携わり、企業の成長発展に向け多くの実績を上げている。経営的視点による中期~長期ビジョン実現に向けた幅広いコンサルティングを展開。企業再建から成長戦略策定まで、戦略を現場に落とし込む実践的なコンサルティングで高い評価を得ている。