行政の向き合うべき課題が複雑化・専門化
行政が公的な事業を企画し、運営を民間に発注する、いわゆる官公庁向けの入札案件は、言い換えると行政と企業が手を組み、物事を成し遂げるパートナーシップ案件とも言える。このシステム自体は、明治時代以降に始まっており、「政府は公平性を保たなければならない」という考え方を取り入れた日本が、近代国家としての体裁を整える必要に迫られたことから始まった※という。
行政からの入札案件は、土木や建築業に関連した業務ばかりというイメージを持たれがちであるものの、ウェブサイト構築、着ぐるみや食器などの制作・納入など、実際には多種多様な案件があり、どのような企業でも手を挙げることができる(ただし入札には原則資格が必要)。
冒頭で「行政が事業を企画する」と記したものの、コロナショックによって価値観や社会課題が大きく変容した今、行政側のみで事業を企画するだけではなくなっている。行政側が価値提供すべき一般市民や民間企業が抱える課題や、成長に向けて取り組むべきことが複雑化・専門化してきており、一団体のみではその課題解決の事業構想を練ることが難しくなってきているからだ。
実際、この数年タナベコンサルティングも行政側との接点を持ち続けており、提案した解決策を事業に反映いただくことが増えてきた。この事実が指し示す通り、これまで特定の事業領域で課題解決をしてきた専門性の高いノウハウを行政側が欲しているのである。
先行きが読みにくい今の経営環境において、行政機関が行う支援モデルに変化が生じている。ポストコロナに向けて企業の根本的な経営力を高めるために、助成金などの各種施策による支援とともに、経営者に寄り添った伴走型支援へ重点が置かれる傾向にある。本稿ではその一例を紹介する。
女性活躍支援
2022年7月、女性活躍推進法が改正・施行された。これにより、女性活躍に関する情報開示項目が増え、常時雇用301名以上の企業は「男女の賃金格差」を含む女性活躍に関する情報公表が義務化された。これに伴い、各地方行政においても、地元企業の女性活躍を支援するための取り組みが活発になっている。
特に注目したいのが伴走型の支援である。例えば、地域の女性活躍をけん引していくことが期待されるモデル企業を選定し、数年間かけて行政と二人三脚で女性活躍推進に取り組む。当モデル企業は、行政の支援を受けながら数年間かけて、女性活躍における目標設定、取り組み推進、取り組みの振り返りを行いPDCAを回していく。それによって数年後には、このモデル企業が女性活躍の成功事例となり、当企業を参考に、地域全体に女性活躍の取り組みが広がっていくことが期待されている。
女性活躍は、これからの日本社会にとって避けては通れず、「女性管理職比率の向上」「男女間の賃金格差解消」「男性の育休取得」など、取り組むべき課題は多い。前述のような行政の取り組みは今後、ますます広がっていくことだろう。
DX支援
行政機関の支援策として、デジタル分野を含めた設備投資に対する助成金は従来から活用されてきた。しかしながら、中堅・中小企業においては、デジタルツールを導入してみたものの運用がうまくいかず、投資に対して十分な効果が得られないケースも少なくない。
そこで、行政機関はデジタルツールの選定から導入後の定着サポートまでを一貫して支援する事業を展開するようになった。代表的な事業として次のようなものがある。(【図表】)
【図表】行政機関主導のDXにおけるマッチングプラットフォームの体系
❶デジタルツール導入のフェーズにおいて、さまざまなAI・IoTベンダーのサービスを検討できるマッチングプラットフォームを提供し、デジタルツールの選定をサポート
❷最新テクノロジーを開発中のベンダーと、デジタルを用いて経営課題を解決したい地域企業、テクノロジーの実装アドバイザー企業によるコンソーシアムを構成しての実証実験プロジェクトの実施
❸デジタルツール導入後のITコンサルタント派遣による運用サポート
❶❷❸いずれの取り組みにおいても、行政機関と地域企業の2者間で支援が完結するのではなく、専門知識を持つ民間企業を含めた3者間、あるいはそれ以上の連携によって企業のDX推進をサポートしている。
新事業展開支援
2021年、経済産業省は新型コロナウイルス感染拡大の影響で売り上げが減少した企業に対して、1兆円以上の予算規模で事業再構築補助金を設立した。新分野展開や事業・業種転換を実施する企業に対する支援である。当事業においても、補助金を交付するだけではなく、認定経営革新等支援機関(国から認定を受けた支援機関で、金融機関や民間のコンサルティング会社などが含まれる)による事業計画の策定までが支援に含まれている。
このような国の施策に付随する形で、各自治体においても民間のコンサルティングファームと連携した地域企業の支援事業が増加している。
行政との向き合い方をゼロベースで考える
企業が多くの変化を求められているように、行政も変化を求められており、さまざまな挑戦をしている。ただし、課題が複雑化している以上、単一組織での挑戦では乗り越えにくい。この課題は、企業の持つ知見やノウハウによって解決できるはずだ。
まずは、近隣エリアの官公庁がどのような事業に取り組んでいるか、参入余地があるのかを調査していただきたい。そして、参入余地があるならば必要な参加資格を申請してほしい。
最初は落札できないことが続くかもしれない。しかし、何度か挑戦し、どのような課題解決を求めているのか、自社のバリューチェーンの何が価値創出できるのかを考えていただきたい。そういった取り組みを経て、ぜひ、行政との向き合い方をリ・デザインしてほしい。その小さな一歩が、貴社と地域を持続的に成長させる大きな一歩につながるだろう。